EC条約第202条は、EU理事会の任務として、
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加盟国の経済政策を調整し、
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決定権を行使する
とのみ定めている。そのため、具体的な任務の内容については、個々の条文を参照する必要がある。なお、他の機関に同じく、理事会は、EC条約が定める権限のみを行使することができる。ある権限の行使に際して、理事会には(広範な)裁量権が与えられているため、権限を行使するかいなか、また、どのように行使するかは、その裁量判断に委ねられているが、EC条約が理事会の任務を具体的に定めているときは、その履行が義務づけられる[10]。理事会がEC条約の規定に反し、立法行為を怠るときは、不作為違法確認の訴え をEC裁判所に提起することができる(EC条約第232条)。
理事会の主たる権限ないし任務は以下の通りである。
(1) 法令の制定
前述したように、理事会はECの最高機関であり、主たる立法機関であるが[11]、現在では、欧州議会と共同で法令を制定することが多くなっている(立法手続について、詳しくはこちら)。なお、欧州委員会が法案を提出しなければ、立法手続は開始されないが(参照)、理事会は委員会に法案の作成を要求しうる(第208条)。
EC条約は、ある案件について抽象的にしか定めておらず、その具体化を理事会(または理事会と欧州議会)に委ねている場合が少なくない。例えば、アムステルダム条約 に基づき導入された第255条は、EU市民や加盟国内に住所を持つ個人のEU公文書開示請求権について定めているが、その一般手続や制限等は理事会によって定められる(第255条第2項)[12]。
制定された法令を実際に適用するために必要な規則を制定する権限は、原則として、委員会に与えられる(EC条約202条)[13]。つまり、理事会(場合によっては、欧州議会と共同で)が制定した法令の執行規則は委員会によって制定される(参照)。なお、 これらの法令を実際に適用するのは、通常、加盟国である(詳しくは こちら)。
その他、理事会はEC裁判所規程の改正権を有する(第245条第2項)。
(2) 財政
委員会によってECの仮予算案が作成されると、理事会は、欧州議会と共に、予算を決定する(第272条第3項)。
(3) ECの対外関係の構築
ECは、第3国または国際機関と条約や連合協定[14]を締結することができるが(第300条および第310条参照)、その締結権は理事会に与えられている。なお、理事会は、交渉権限を欧州委員会に与えることができる。
その他、理事会は、EUの第2の柱(共通外交・安全保障政策)の一環として採択された決議に基づき、第3国に対して経済制裁を課すことができる(第301条)。
(4) 諸評議会メンバーの任命
理事会は、経済社会評議会(第258条第2項)、地域評議会(第263条第2項)および会計検査院(第247条第3項)のメンバーを任命する権限を有する。これに対し、EC裁判所(第233条第1項)および欧州中央銀行理事会(第112条第2項)のメンバーは、理事会ではなく、加盟国政府によって任命される(参照)。なお、従来、欧州委員会のメンバーは、加盟国政府の相互承認によって指名・任命されていたが、ニース条約に基づき、この任命手続は、理事会(加盟国首脳によって構成される理事会)の特定多数決制に変更された(第214条第2項)。
欧州委員会の指名・任命について
(5) 諸機関のメンバーの俸給等の決定
欧州委員会メンバーと、EC裁判所判事、法務官および事務総長(Registrar)の俸給、手当や年金等について決定する権限も理事会に与えられている(第210条)。
(6) EC条約の改正
加盟国政府または委員会は、EC条約の改正を理事会に提案することができる。理事会は、欧州議会(および場合によっては委員会)の意見を聞き、諸条約改正のための政府間会議を開催するかどうかを決定する(EU条約第48条)。なお、実際に諸条約を改正するかどうかを決めるのは、理事会ではなく、加盟国である。条約の改正には、全加盟国の賛成を必要とする。
(7) 第3国のEU加盟
EU条約第6条第1項所定の諸原則を尊重する、あらゆるヨーロッパの国々は、EUに加盟することができる。加盟申請は理事会に対して行い、理事会は、委員会の意見を聞き、欧州議会[15]の同意を得て、全会一致にて決定する(EU条約第49条第1項)。なお、第3国のEU加盟申請が了承されれば、EU加盟国(EU自身ではない[16])と同第3国との間に加盟条約が締結され、同条約が全加盟国および同第3国によって批准された後に、EU加盟が実現する。批准は、各国の憲法上の規定に従いなされなければならない(前掲規定第2項)。
加盟手続について
(8) EUの第2および第3の柱における権限
共通外交・安全保障政策の分野(EUの第2の柱)において、理事会は、欧州理事会によって決定された方針に従い、共通の行動(EU条約第14条)と、共通の立場(第15条)を決定する。
刑事に関する警察・司法協力の分野(第3の柱)において、理事会は、共通の立場や加盟国の法令・行政規則を調整するための措置を制定しうる。また、加盟国間で締結される国際条約を起草しうる(第34条)。
ECの立法手続はEC条約の中で定められているが(例えば、第250条以下参照)、主たる立法機関であるEU理事会の議決についても同様に条約内で明定されている。理事会の議決方式には、全会一致制、絶対多数決制、また、特定多数決制があるが、その詳細は以下の通りである。
(1) 全会一致
加盟国が主権の委譲に消極的な分野(例えば、租税〔第93条〕、移動労働者の社会保障〔第42条〕、EU市民への選挙権の賦与〔第19条〕、EU市民への新しい権利の賦与〔第22条〕、差別の撲滅〔第13条〕)や、一般規定(第308条)の適用に際し、理事会は全員一致で決議しなければならない。また、理事会が委員会案を修正する場合や(第250条第1項)、欧州議会との協力手続ないし共同決定手続において、理事会が議会案を修正する場合(第251条第3項、第252条第c号)も同様である。なお、出席した加盟国代表が棄権することは、この全会一致の決議を妨げない(第205条第3項)。
(2) 絶対多数決
EC条約第205条第1項は、絶対多数決を原則として定めているが(すなわち、過半数の賛成が得られれば、議案は採択される)、実際には、後述する特定多数決の方が一般的である。
(3) 特定多数決
特定多数決制度は、域内市場 に関する案件に適用される議決方式として採用されたが、現在は、その他の案件で広く用いられている。
各国の持票数は各国の人口に照らし決定されるが、国際舞台における各国の形式的平等を考慮し、修正されている(EC条約第205条第2項、詳しくは こちら または こちら)。その結果、大国に不利で、小国に有利な票数配分になっている( 民主主義上の欠陥)。
ブルガリアとルーマニアの新規加盟 が実現し、27ヶ国体制に発展した現在(2007年1月)、各国の持票の合計は345票である(各国の持票数は
こちら)。欧州委員会の提案を受けて審議するときは、255票(全体の約74%)の賛成があれば、議案は採択される(単純特定多数決)。この票数は、大国のみの賛成によってEU法が制定されることを阻止し、また、逆に、小国のみの反対でEU法の制定が阻止されることを防ぐように定められている。
欧州委員会の提案を受けずに理事会が審議する場合には、255票の賛成と、少なくとも3分の2以上の加盟国の承認が必要となる(二重の特定多数決)(参照)。
特定多数の賛成が得られなかったケース
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