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EUの財政制度

1.予算規模

 EUの活動は広範囲に及び、国内政策への影響度も非常に高いが(参照)、その予算は決して膨大ではない。2004年度の歳出は、約970億ユーロであった(参照)。その約7割は、加盟国が直接負担しているが、これは、25ヶ国のGNI(gross national income)の1.01%に相当する。上限は1.24%とされているため、予算を大幅に拡大することも可能である。欧州委員会は、東方拡大 や その他の重要課題(特に、リスボン戦略 の実施)を考慮すると、1.14%に引き上げるべきであるとしているが(参照)、一部の加盟国は反対している(詳しくは こちら)。

   リストマーク 2007〜2013年の予算規模
 


 後述するように、EUの予算は、原則として、EC条約の規定に従って編成される(第268条〜280条)。そのため、厳密には、EUではなく、ECの予算が組まれることになるが、この「ECの予算」の中には、共通外交・安全保障政策刑事に関する警察・司法協力 、つまり、EUの諸政策に関わる経費も含まれている(EC条約第268条第2項、EU条約第28条第3項参照)。



2.EUの財源

 EUは独自の財源を有する特殊な国際組織であり、その財政は、原則として、独自の財源によって完全に賄われなければならない(EC条約第269条第1項、また、EU条約第6条第4項参照)。何が独自の財源となるかについて、基本諸条約は定めておらず、EU理事会によって決定される。なお、この決定は加盟国が国内憲法上の規定に従い、承認する必要がある(EC条約第269条第2項)。

 現在、独自の財源に指定されているのは、以下の4項目である。


@ 共通関税(リストマーク 参照

A 農業政策部門における輸入相殺金等

B 加盟国の税(消費税)収の一部

 2004年より、加盟国は消費税収の0.5%をEUに収めているが、総額はGNP の50に制限されている。

C

加盟国の拠出金

 拠出金額は、各国の経済力に応じて決定されるが(EU理事会指令 89/130/EEC 参照)、公平さに欠けると批判されることも少なくない。特に、EUに拠出する金額と、EUから受け取る金額の不均衡が指摘されている。なお、イギリスには優遇策 が認められているが、その見直しが不可避的な状況になりつつある(こちら を参照)。
財源

 加盟国の拠出金の上限は、EUの GNI の 1.24%とされており、その変更には全加盟国の同意を必要とする。


  リストマーク 2003年度の拠出金

 

 これらは、使途を問わず、EUの財源となる。2004年度の歳入における割合は、順に、10.4%、1.3%、14.1%、73.4%であった(参照)。

 さらに、その他の財源として、EU官僚の所得に課される税、罰金や手数料等の行政収入、 銀行預金の利子、債権の発行、EC政策に対する第3国の支払い等が挙げられるが、いずれも額としては小さい。

 なお、EU理事会は、全会一致にて、新たな財源を導入することができるが、この決定に際し、欧州議会は拘束力のない意見を述べうるに過ぎない(EC条約第269条第2項)。

 EEC設立当初、その予算は主として加盟国の拠出金で賄われていたが、後に、加盟国に頼らない独自の財源(前掲の@〜B)が導入され、1995年以降、財政は独自の財源で完全に賄われている(EC条約第269条第1項も、独自の財源で完全に調達することを定める)。この点で一般的な国際機関と異なっているが、上掲のように、加盟国が直接負担する金銭(C)も、独自の財源として扱われ、それが歳入の大部分を占めている。




3. 予算の編成

 予算は、中期的な計画(7年間の財政計画)に基づき、原則として単年度ベースで編成される(第268条第1項、第271条第1項および第2項参照)。予算年度は、1月1日から12月31日までである(第272条第1項)。1999年1月1日より、貨幣単位には、ユーロ が用いられている(第277条、EU理事会規則第2779/98号参照)。



財政


 予算は、EC条約の規定に従って編成される(第272条)。欧州委員会の提案に基づき、EU理事会と欧州議会が共同で審議するが、最終的には欧州議会の議長名で発表される(第272条第7項参照)。つまり、この案件に関し、欧州議会の権限は強化されている(参照)。欧州議会議長の決定は、EC条約第230条 所定の法令に当たらないが、理事会、委員会および加盟国は、その有効性を争い、EC裁判所に提訴することができる。被告は、欧州議会となる。

 予算編成に際しては、財政均衡が保てるように注意し(EC条約第268条第3項、第272条第10項)、運用上、赤字が生じる場合には、その削減に努めなければならない。なお、財政均衡を保つため、EC条約第270条は、欧州委員会は、赤字になるような政策(その法的根拠となる法令)を提案したり、執行規則を制定してはならないと定めている。


     リストマーク 2007〜2013年の財政計画参照





4.歳出

 伝統的に、歳出の大部分は、農業支援や地域振興に充てられている。2004年度は、歳出全体のそれぞれ44%、34%であった(参照)。特に、巨額の農業補助金に対しては、EC内部からの批判も強いが(特に、イギリスはその削減を要請している)、諸外国との貿易摩擦をも生じさせている。近時は、EC経済の発展により大きく貢献しうる分野(研究・開発政策)に資金を投じるべきであるとの批判が有力に主張されている(参照)。

     リストマーク WTO交渉


 2004年6月、欧州委員会は、農業政策よりも、EUの恒常的発展に貢献しうる諸政策(地域振興、競争力の向上、研究・開発)により多くの資金を計上する予算計画案(2007〜2013年の予算計画案)を初めて発表している。


リストマーク 2007〜2013年の財政計画 リストマーク
欧州委員会案

 競争力の向上
 (研究・開発政策を含む)

 1216.9 

 地域政策(地域振興)

 3363.1 

 農業政策

 3010.7 

 農村開発

  873 

 その他

外交政策内政・司法協、行政費用など)

1478.8 


(単位:億ユーロ)

New
欧州理事会の決定




 2004年度の歳出は、2065億ユーロであったが、その約4.5%(92億ユーロ)は、農業地域競争、雇用、研究・開発 といった政策の一環として、加盟国に還元されている。最も多くの資金を得ているのは、スペイン(164億ユーロ)で、フランス(129億ユーロ)、ドイツ(117億ユーロ)と続いている。





5. 予算計画の執行

 作成された予算計画に基づき、欧州委員会は予算を配分する(EC条約第274条)。また、毎年、決算書を作成し、EU理事会と欧州議会に提出しなければならない(第275条)。なお、欧州議会は、欧州委員会の予算計画監視義務を免除することができる。また、予算計画の実施状況について自ら調査するため、欧州委員会に必要な情報の提示を求めることができる(第276条)。

 1975年7月のEEC条約改正に基づき、会計検査院が設置されている(EC条約第7条、第246条〜第248条参照)。同機関は、EC(および、ECによって設けられた機関)の歳入・歳出の適法性や適正さを審査し、翌年の11月30日までに年次報告書を公表しなければならない(第248条参照)。なお、会計検査院は、各加盟国より1名のメンバーで構成され(第247条第1項)、ルクセンブルクに設置されている

貯金


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