TOP      News   Profile    Topics    EU Law  Impressum          ゼミのページ



英 国 流 「欧 州 統 合 懐 疑 論」 の 再 燃 か

イギリス国旗 2005年6月17日、EUの 次期財政計画 が成立しなかったことを受け、欧州理事会 議長国の Jean-Claude Juncker 首相 は、EUは単なる危機ではなく、深刻な危機に直面していると語っている(詳しくは こちら)。また、審議が物別れに終わったのは、財政計画に関する見解の対立ではなく、協議を成功裏に終了させようとする政治的意思の決如によるところが大きいとしている(詳しくは こちら)。

 最後まで、議長国案に反対したイギリスの Blair 首相は、EU財政制度が「現代化」されない限り、 優遇策 の見直しにも応じられないと述べているが(詳しくは こちら)、財政制度の根本的改革(農業補助金の削減)を持ち出すのは、協議の失敗をもくろむ行為と捉えることができよう(参照)。実際に、農業政策の分野で、Chirac 大統領が妥協する姿勢をみせたときも、Blair 首相は譲歩していない。また、6月17日の審議終了間際に、 新規加盟10ヶ国 がEU助成金の受け取りを自主的に放棄し、財政計画案の「救済」を試みた際にも、イギリスは、新規加盟国の不利になるようなことは認められないとして、申し出に応じていない。

 6月20日(月)、Blair 首相は、イギリス下院で、週末の欧州理事会について説明しているが、財政的特権 を維持したことは、野党議員より評価されている。農業補助の見直しは、自らの批判を交わすための口実に過ぎないと見ることも可能である。



 欧州理事会の終了直後、Blair 首相は、伝統的な「ヨーロッパ型社会モデル」ないし「社会主義的 市場経済」は、今日の国際化・市場開放政策の観点から修正を余儀なくされていると述べているが(詳しくは こちら)、最も豊かな国の一つに発展したイギリスが 財政的特権 を保有している状態の方がはるかに深刻な問題である。


対立

特に、東方拡大 が、ソーシャル・ダンピング(従来の加盟国において)や経済発展の援助(新規加盟国)という新たな問題ないし課題を生み出していることを考慮すると、イギリスは自らの利益を重視し過ぎていると言えよう。また、EU加盟国に要求される連帯的意識に欠けた態度は、「豊かな国のエゴ」として他の加盟国首脳より批判されている(参照)。

 第2次世界大戦終了直後より、イギリスは欧州統合に距離をおいてきたが(参照)、国際化・市場開放政策を掲げる Blair 政権は、むしろ経済統合に積極的であるとも解されている(詳しくは こちら)。もっとも、英国が望むのは、まさに経済統合そのものであり、加盟国の連帯性を前提とした政治同盟ではないと捉えることもできる(参照)。今日、EUは単なる経済同盟にとどまるものではない。この点において、イギリスは欧州統合に消極的であると言える。

 なお、フランスオランダ の国民投票で、欧州憲法条約の批准が否決されたことを受け、イギリスは、いち早く、批准手続の凍結を決定したが(詳しくは こちら)、これは自国内でも批准が否決される危険性を踏まえた判断であるとすれば、欧州統合に懐疑的であるとは言えない。実際に、批准手続の一時休止ないし見直しは、欧州理事会によって決定されている(詳しくは こちら)。

 種々の課題が残されたまま、理事会の議長国はイギリスに承継される(参照)。通常、議長国は欧州統合の推進に尽力するが、2005年下半期はどのような展開が見られるか注目される。6月23日、イギリスは 欧州議会 に方針を説明する予定であるが、議長としての任期がまだ残っているルクセンブルクの Juncker 首相 は欠席するとしている。その理由として、同日は母国の公休日であることが挙げられているが、次期財政計画の決定をめぐって生じた Blair 首相との確執も無視できないであろう。Juncker 首相が指摘する「EUの深刻な危機」とは、24ヶ国対1ヶ国の構図を呈しているとも解される。




(参照)

FAZ v. 19. Juni 2005 (Zwei Konzepte von Europa)

Blair 首相の描く「ヨーロッパ」


(2005年6月20日)