・ 欧州議会の性格 ・ 欧州議会の本拠地をめぐる争いについて ・ 議員の報酬 ・ 欧州委員会に対する民主的統制 ・ サンテール欧州委員会の辞任と欧州議会制度 ・ 欧州議会設立50周年 欧州議会の所在地 EU・ECの諸機関をどこに設置するかは、全加盟国の全会一致の判断に基づき決定されるが、諸機関を自国内に設置することのメリットは決して小さくない。そのため、国内誘致をめぐり加盟国が対立することも少なくないが、欧州議会の設置場所に関する争いは特に過熱し、訴訟にまで発展した(詳しくは こちら)。1992年、加盟国は、EC裁判所の判決に沿った形で政治的にも紛争を解決しているが、その決議(エディンバラ決議)の内容はアムステルダム条約(第12議定書)の中で確認されている。それによれば、欧州議会は、以下の3都市に設けられている。 | 写真提供:European Parliament, 2009 欧州議会の本拠地をめぐる争いについて | |
三つの欧州共同体が設立された当初、非常に限定的な権限しか与えられておらず、単に「集会」 ないし「欧州議会制集会」(European Parliamentary
Assembly)と呼ばれていた機関も、欧州統合の発展に伴い徐々に権限を獲得し、今日では「欧州議会」 (European Parliament)と称されるようになった。もっとも、その権限はいまだに弱く(原則として、立法権限はEU理事会が有する)、国内の議会の権限に匹敵するほどの強力な権限は与えられていない(詳しくは
こちら。また、リスボン条約による改正については こちら)。EU市民の代表で構成される欧州議会の権限を強化することは、民主主義原則上、必要であると考えられるが、それがなかなか実現されないのはなぜか。これが欧州議会に関する重要な論点の一つである。
EC設立当初、欧州議会は「集会」と呼ばれており、議員は142名しかいなかった。1962年には「欧州議会」と改称されたが、基本条約上、正式名称が欧州議会に変更されたのは、1987年7月に 単一欧州議定書 (第3条)が発効した時である。議員数の増加は、単に加盟国数が6ヶ国から27ヶ国に増加したことのみではなく、欧州議会の要請にも基づいている。同議会は、市民の関心を集めるには、議員数の拡大も必要であると捉えていた。
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| | 欧州議会は、EU加盟国の国民の代表、すなわち、「EC加盟諸国民の代表」で構成される機関である(リスボン条約による改正については こちら)[1]。もっとも、1979年まで、議員は加盟国議会の議員が兼任していた。それ以降は、各国の国民によって直接選出されるようになり、選挙は5年ごとに行われ ている[2]。
欧州議会の性格
EU市民の選挙権・被選挙権 マーストリヒト条約 に基づき、EU市民(加盟国の国民)には、他の加盟国で実施される欧州議会選挙において、選挙権(投票権)と被選挙権(立候補権)が与えられるようになった。もっとも、EU市民は、その加盟国内に住所を有さなければならない。また、その加盟国の国内法や、EU理事会が特則を設ける場合には、それに従わなければならない(EC条約第19条第2項)。 2006年6月に実施される欧州議会選挙において、ドイツでは、200万人のEU市民に投票権が与えられている。これに対し、ドイツ国民である有権者数は、6,160万人である。
選挙法 |
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東方拡大前(15ヶ国体制)の議席数は626であったが (参照)、これが大幅に増えると、議会の円滑な運営に支障を来たすとされ、アムステルダム条約 は700に制限していた。もっとも、2004年5月の東方拡大に伴い、162 議席増加し、788議席となった。その後、ニース条約 に基づき、732に削減されたが、2007年1月のEU拡大 に伴い、215増え、785となった。 2007年1月現在の議席総数は785であるが、現行EC条約第189条第2項は、732議席を超えてはならないとしている。また、欧州憲法条約は750以下に制限している(詳しくは こちら)。
| ※1 | 2004年5月1日に加盟した10ヶ国の議員数
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※2 |
2007年1月1日に加盟したブルガリアとルーマニアを加えた12ヶ国の議員数(参照) |
※3 | ニース条約による。欧州憲法条約による修正が予定されていたが、同条約の発効は見送られた。代わりに制定されたリスボン条約でも、議席数は変更される(リスボン条約による議席)。 | なお、議員の辞職により、一時的に定数と一致しないこともある。
| | 議席数は暫時、減少していくことになっているが、これは欧州議会の活動の実効性を担保するためである。なお、ニース条約は、上限を732としているが(EC条約第189条第2項)、2007年元旦にブルガリアとルーマニアが新規加盟したことに伴い、議席数が785に増加した。また、2009年6月以降は736となり、前掲の上限は守られていない。 欧州憲法条約による見直し リスボン条約による見直し (こちらも参照) |
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議席数は、加盟国ごとに定められている(EC条約第190条第2項)[4]。この配分は各国の人口を考慮して定められているが、各国の人口に完全に比例しておらず、小国に有利になっている(参照)。これは、 国際法上の国家主権の平等を(完全にではないが)考慮した結果である。また、EUは市民の「連合」ではなく、加盟国の「連合」であることを表している[5]。 なお、EC条約(第190条第1項)は、欧州議員は「諸国民」の代表と定めており、「加盟国の住民」の代表と定めているわけではない ため、議席配分を各国の人口に完全に比例させる必然性はないとも考えられる[6]。
他方、従来の議席配分は、選挙の平等性の原則[7]に反するとして、特に、(EU人口の約22パーセントを占める)ドイツによって批判されている[8]。また、マーストリヒト条約に基づき、他の加盟国内に居住するEU市民には、その国において選挙権・被選挙権が与えられることになったが(EC条約第20条)、そうであるとすれば、欧州議会の議席数は、加盟国の国民数ではなく、加盟国内に居住するEU市民の数に応じて配分されるべきであり、現在の議席配分は不適切であると批判されている[9]。このような理由に基づき、欧州議会の立法権限を強化することにも、民主主義原則上、問題があると考えられる[10]。
議席の不均衡
欧州議会の議員は、諸国民(EU市民)の代表であるため、加盟国政府から独立し、その指示に拘束されない[11]。議員は、政党ないし党派に所属し活動しているが、これらは各加盟国ごとに組織されるのではなく、EUレベルで組織されている。EUレベルでの政党ないし党派の結成は、ヨーロッパ市民としての自覚や認識を高め、ヨーロッパ諸国民(EU市民)の世論を形成するのに役立つとされる[12]。なお、2004年7月1日より、少なくとも5分の1の加盟国間にまたがる16名以上の議員で、党派を結成する必要性が生じる。
欧州政党 (EUレベルでの統一政党) EC条約第191条第1項は、複数の加盟国間にまたがる政党の結成は、欧州統合の観点から重要であり、ヨーロッパとしての意識やEU市民の意見を代弁することに貢献すると定めている。なお、ニース条約に基づき、第2項が挿入され、EU理事会は、欧州議会と共同で(第251条参照)、欧州政党に関する規定(特に、その財政に関する規定)を設けることができると定めている。
なお、2004年6月に実施される欧州議会選挙において、複数の加盟国間にまたがる政党(欧州政党)は参加していない。欧州政党が候補者を擁立し、複数の加盟国間にまたがり選挙活動を繰り広げるのは、2009年の次回選挙後のことと想定されている。 |
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欧州議会の任務および権限は、三つの共同体ごとに異なっているが、以下ではECについてのみ説明する[13]。EC条約第189条によれば、議会は、同条約が与える権限のみを行使することができる。国内の議会に比べると、非常に弱い権限しか欧州議会には与えられていないが、その権限は次第に強化されるようになっている[14]。その概要は以下のとおりである。
リスボン条約による任務・権限はこちら
(1) 諮問権限 ECの主たる立法機関は欧州議会ではなく、EU理事会であるが、EC条約内には、立法手続の一環として、理事会は欧州議会の意見を聴取しなけれればならない旨を定める規定が多数存在する(例えば、第37条第 2項、第175条第2項、第300条第3項、また、EU条約第48条第1項)。理事会は欧州議会の見解に拘束されないが、同議会の意見を聴取せずに発せられた法規は、重要な手続上の要件に反するため無効となる(第230条)[15]。
また、会計検査院のメンバー(第247条第3項)や欧州中央銀行の理事会(第112条第2項)の任命に際しても、欧州議会の意見を聴取しなければならない。
さらに、EUの「第3の柱」の分野においても、欧州議会の意見の聴取が義務付けられている(参照 @、A)。
| 上掲の案件について、EU市民の代表で構成される欧州議会には、拘束力のない意見を述べる権限しか与えられていないのはなぜ? こちらを参照: @、A |
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(2) 承認 第三国のEU加盟(EU条約第49条第1項第2文)や、EUの基本原則に違反した加盟国に対する制裁(EU条約第7条第1項)には、欧州議会の承認(同意)が必要である。また、第三国やその他の国際機関との協定の締結についても、議会の承認が必要なケースがある(EC条約第300条第3項第2款)。
さらに、マーストリヒト条約に基づき、欧州委員会の指名ないし任命には、欧州議会の承認が必要とされるようになった(EC条約第214条第 2項)。もっとも、議会は、特定の委員の任命のみを承認したり、または拒否することはできず、全員の任命を承認するか、否認するかを選択しるのみである。
(3) 監督 委員会を(一括して)承認すること以外にも、欧州議会には、種々の統制権限が与えられている。例えば、議会は、委員会によって作成された年次報告について討議したり(第200条)[16]、投票数の3分の2(これは、総議員の過半数に相当していなければならない)の多数によって不信任決議を採択し、委員会を総辞職させることができる(第201条)[17]。
また、ECの機関、加盟国または個人がEC法に違反している疑いがある場合には、欧州議会は、臨時の調査委員会を設置し、調査することができる(第193条)。もっとも、EC裁判所に訴えが提起され、審理されているときは、調査しえない。 さらに、EU理事会や欧州委員会の制定した法規を違法と考える場合には、欧州議会はEC裁判所に訴えを提起することができる(提訴権)[18]。それとは逆に、欧州議会が制定した法規で、第三者に法的効果を及ぼすものは、EC裁判所によって、その適法性が審査されうる(被提訴権)。なお、当初、EC条約は、このような提訴権や被提訴権について定めていなかった。なぜなら、欧州議会の権限は極めて制限され、また、議会は第三者に法的効果を及ぼす法規を制定しえなかったためである。現行EC条約は議会の訴権を明瞭に認めているが、明文化される以前、EC裁判所は、被提訴権を容認 する一方で(これは法治主義の原則にかなう)[19]、議会は他の機関を訴えることはできない(提訴権の否認)と判示した[20]。これが、議会の地位を弱め、また、EC法体系を害することは明らかであるため、後にEC裁判所は先例を改め、提訴権も容認している。同様のことは、第232条の不作為訴訟 にも当てはまる。 EC裁判所への提訴 (4) 予算決定権限・立法権限 ECの予算の決定に関しては、理事会に並ぶ立法機関としての権限が議会に与えられている(第272条第3項以下参照)。予算の成立を最終的に宣言するのは、欧州議会の議長である(同7項)(参照)。 その他の分野では、ECの主たる立法機関は理事会であり、欧州議会は、理事会と協力または共同で、立法手続に関与しうるに過ぎない(第251条、第252条参照)。なお、理事会が単独で法令を制定する政策分野もある(前述の諮問権限参照)。ある案件にどの立法手続が適用されるかは、EC条約内で規定されている。
・ 協力手続(第252条) |
これは、1986年の 単一欧州議定書 によって導入された手続で、欧州議会の諮問権限が若干、強化されている。すなわち、議会の見解には拘束力はないが、議会が反対する場合、理事会は、全会一致でしか法案を採択することができない。 アムステルダム条約 に基づき、協力手続の適用ケースは大幅に削減され、下記の共同決定手続に変更されている。現在でも協力手続が用いられているのは、経済・通過連合 に関する場合のみである(EC条約第99条第5項、第102条第2項、第103条第2項、第106条第2項)。
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・ 共同決定手続(第251条)[21] |
これは1992年の マーストリヒト条約 に基づき導入された手続で、欧州議会の立法権限がさらに強化されている。この手続において、議会は、第2次法の制定を阻止することができる。 アムステルダム条約 や ニース条約 によって、同手続の適用分野は拡大されている(詳しくは こちら)。 例) 環境政策の分野における立法手続
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(5) 発議権 EC法上、法案の提出権限(発議権)は、原則として、委員会にのみ与えられており、議会は、欧州議会の統一選挙手続の制定に関してのみ発議権を有する(第190条第4項)[22]。議会は法案の提出を委員会に要求しうるが(EC条約第192条第2項)、議会は法案の提出を委員会に要求しうるが、委員会はこれに拘束されない。
(6) EU市民の請願の受理、オンブズマンの任命 あらゆるEU市民と、EU加盟国内に設けられた法人は、ECの活動範囲に属することで、かつ、自らに直接的に関わる案件について、欧州議会に請願を提起することができる(EC条約第21条第1項および第194条参照)。また、欧州議会によって任命されたオンブズマンに苦情を申し立てることができる(第21条第2項および第195条参照)。
オンブズマンについて
欧州議会は、原則として、投票数の過半数で意思決定を行うが(EC条約第198条)、例外的に、全議員の過半数の支持を必要とする場合がある(第251条第2項第3号b、第252条第c号およびEU条約第49条第1項)[23]。
欧州議会の公式ホームページ 英語版 仏語版 独語版 参照 ・ 2004年6月の欧州議会選挙 ・ 欧州議会の性格 ・ 欧州議会の本拠地をめぐる争いについて ・ 議員の報酬 ・ サンテール欧州委員会の辞任と欧州議会制度 この点について、入稲福智「ユーロ導入後のEU(欧州連合) ― 1999年上半期におけるEUの法と政策の発展 ―」平成国際大学法政学会編『平成法政研究』第4巻第1号(1999年11月)53頁以下を参照されたい。 |