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星

 
E  C 法 秩 序 に お け る 国 際 法
  


1. 国 際 慣 習 法


 ECは、国際社会の一員として、国際慣習法に拘束される(Case C-162/96 Racke v HZA Mainz [1998] ECR I-3655, paras. 45-46 〔国際条約の無効化ないし適用停止について〕)。また、国際条約の基盤として一般に認められている「国際法の一般原則」(参照)も同様に、EU/EC法の一部となる。国際慣習法や国際法の一般原則は、特別な措置を必要とせず、直接的に適用され、EU/EC法 は、これらに合致するように解釈・適用されなければならない。



2.  ECによって締結された条約


2.1. 条約の締結

 EUとは異なり、ECは国際法人格を有する (参照)。そのため、ECは、国際法の主体として、条約を締結することができる(EC条約第300条、通商協定の締結について、第133条参照 )。このような条約は、ECの機関によって締結されるため、第2次法である 。ECが自ら締結した条約に拘束されるのは当然であるが、第2次法として加盟国も拘束する(同条第7項)。

 


ECが締結した条約の効力

(1) 手続 

 条約制定作業に従事するのは欧州委員会であるが(理事会の委任を必要とする〔参照〕)、締結するのはEU理事会である。通常、理事会は、規則 (regulation) を制定し、理事会議長(ないし委員会)に条約締結権限を与える(参照)。なお、例外的に、欧州委員会に締結権が与えられている場合もある(欧州原子力共同体条約第101条第2項・第3項参照)。

 条約の締結について、理事会は、原則として、特定多数決に基づき決定する 。ただし、条約の規定事項について、第2次法を制定するとすれば、全会一致が必要とされる場合には、全会一致による(第300条第2項)。



注意

 前述したように、条約の締結は、規則に基づき行われるが、それゆえに条約は規則と同じ効力を持つわけではない(リストマーク 規則の効果については こちら)。 どのような効果が生じるかについて特に定められておらず、疑義が生じる際は、EC裁判所によって判断されることになるが、後述するように、同裁判所は、条約の趣旨・目的、体系、また文言に照らし、この問題を決している(詳しくは こちら)。




 条約の締結に関し、欧州議会は、原則として、拘束力のない意見を述べうるに過ぎない(諮問権限)。もっとも、以下の場合には、欧州議会の同意が必要となるが、単に理事会と議会が共同で、または協力して法令を制定すべき事項に関わることのみに基づき(参照)、議会の同意が必要になるわけではない(第300条第3項)。

EC条約第310条に基づき、連合協定 が締結されるとき

条約によって特別な制度的枠組みが設けられるとき

条約によって、第251条所定の 共同決定手続 に基づき制定された法令が改正されるとき


    リストマークリスボン条約による手続については こちら


(2)EUの権限

 ところで、EC法上の基本的ルールである 個別的授権の原則 は、国際条約の締結に関しても適用される。つまり、ECは、第1次法ないし第2次法によって権限が与えられている場合に限り、条約を締結することができる。例えば、EC条約第133条 は通商政策(貿易)に関する条約の締結権限をECに与えている。また、第310条は、いわゆる 連合協定 の締結権限について、第111条は通貨政策に関する協定の締結権限に定めている。

 なお、ECは、@ EC条約内で明確に権限が与えられている場合に限らず、A 第2次法が制定され、その執行に不可欠な場合には、国際条約を締結することができる(EC裁判所のAETR判決参照)。例えば、第3国やその国民に関する第2次法がすでに制定されている場合には、対外的にもECのみが権限(条約締結権限)を有する。また、加盟国は、それに反する内容の条約を第3国と締結することはできない(Case C-476/98, [2002] ECR I-9855, paras. 101 et seq., 109, 122 et seq.)。


 ある条約が定める
すべての事項について、ECが権限(排他的権限)を有せず、加盟国が権限を保有している場合には、ECと加盟国の双方によって条約が締結される。 このように、ECと加盟国が共に締結権限を持つ条約を混合協定(mixed agreements)と呼ぶ。

    参照 混合協定について詳しくは こちら



(3) EC裁判所による審査

 ECが条約締結権限を有するか、また、条約はEC法に違反しないかどうかについて、EU理事会、欧州委員会、欧州議会、また、加盟国は、EC裁判所に審査させることができる(参照EC裁判所の意見手続)。

    
参照 飛行機乗客の個人情報保護に関する条約

 

2.2. 条約の効力

 ECが締結した条約の効力について、EC条約第300条第7項は、ECの諸機関だけではなく、加盟国をも拘束すると定める。また、EC裁判所は、加盟国は第3国(ECと条約を締結した国)に対してだけではなく、ECに対しても条約を適切に履行する義務を負うと述べている(Case 104/81, Hauptzollamt Mainz v Kupferberg [1982] ECJ 3641, para. 13)。


 これに対し、EC条約は、ECによって締結された条約がEC法体系下において、どのような効力を有するかについて、特に定めていない。また、EC裁判所は、ECによって締結された条約はEC体系内に組み込まれ 、EC法の一部を構成するとしているが(つまり、第2次法 となる)、同判決より、具体的に、どのような条約の効力が導かれるかは、必ずしも明らかにされていない。一般に、学説は、条約は特別な措置を必要とせず、直接的に適用され、諸機関が制定した第2次法に優先すると解しているが、このような解釈は適切ではない。なぜなら、条約の効力は、その趣旨・目的、体系、また文言に照らし決定されるべきであるためである (Case 104/81, Hauptzollamt Mainz v Kupferberg [1982] ECJ 3641, para. 17)。なお、諸機関が制定した第2次法が条約に違反することを理由に、EC裁判所が第2次法を無効と判断したケースはまだない(なお、Case C-61/94 Commission v Germany [1996] ECR I-3989, para. 52 を参照されたい)。


 他方、第1次法との関係については、一般に、第1次法の方が優先するとされている。その根拠として、EC条約第300条第6項が指摘されている。もっとも、同項は、EC条約に合致しない条約は、EC条約を改正した後でなければ締結 しえないと定めているに過ぎない。すなわち、この規定は、条約締結の許容性について定めるのみで、その効力については定めていない。なお、かつて、EC裁判所は、欧州経済領域協定(EEA協定) は、EC条約第220条(EC裁判所の管轄権)やECの基礎に修正をもたらすため、ECは 同協定を締結しえないと判断したことがある (Opinion 1/91 EEA [1991] ECR I-6079, paras. 69 and 72) (参照)。つまり、同裁判所は、自らの管轄権について定める第220条は修正しえないと捉えているが、これは、EC条約を改正すれば、協定の締結が可能な旨を定める第300条第6項に合致していない。


 ところで、条約の効力は、条約自体の中で定めることができるが、規定されていないときは、(条約制定者として)ECが決定しうる。その立法機関、つまり、EU理事会がこの点を明らかにしていないときは、条約の趣旨・目的、体系、文言に照らし、EC裁判所が判断することになる (Case 104/81, Hauptzollamt Mainz v Kupferberg [1982] ECJ 3641, para. 17)。条約の効力について、特に問題になるのは、直接的効力の有無であるが(直接的効力について詳しくは こちら)、一般に、EC裁判所はこれを肯定している。その性質に鑑み、直接的効力が否定されたのは、GATT・WTO諸協定のみとされている(Opinion of Advocate General Tesauro in Case C-53/96 Hermès [1998] ECR  I-3603, para. 30 (note 54))。



             
参照 自由貿易協定の直接的効力

             
参照 WTO諸協定の効力



2.3. 解釈

 条約の効力だけではなく、条約の解釈について争いがあるときは、EC裁判所が判断しうる。なお、全加盟国における条約の解釈・適用を統一するため、また、ECによって締結された条約はEC第2次法にあたるため、その解釈権限は、EC裁判所にのみ与えられる (Case 104/81, Hauptzollamt Mainz v Kupferberg [1982] ECJ 3641, para. 14)。

  なお、条約規定の解釈に際しては、条約の趣旨・目的を度外視してはならない。つまり、文言上、EC条約規定に類似するからといって、同規定を同じように解釈すべきとは限らない (Case 104/81, Hauptzollamt Mainz v Kupferberg [1982] ECJ 3641, para. 30)。




3.EEC条約発効前に締結された条約


 EEC条約が1958年に発効する以前、加盟国が第3国と締結していた条約は、EEC条約の発効によって影響を受けない。つまり、両者が矛盾する場合には、第3国との間で締結された条約の方が優先する。なぜなら、第3国にとって、EEC条約は無関心事項 (res inter alios acta) であり、また、加盟国は第3国との条約を誠実に履行しなければならないためである (pacta sunt servanta 〔ウィーン条約法条約第26条参照〕)。それゆえ、EC条約第307条第1項は、EEC条約が発効する前に締結された条約上の権利・義務は、EEC条約の発効によって影響を受けないと定める。また、後にEUに加盟した国が加盟前に締結していた条約についても同様に定めている。したがって、加盟前に締結された条約がEC条約に抵触する場合には、前者が優先する。

 なお、前述したことは、EU加盟国と第3国間の間においてのみ該当する。つまり、第307条第1項は、第3国の条約上の権利保障を目的としている。他方、EU加盟国の間においては、EC条約が優先的に適用される。

 第307条第1項は、EEC条約の発効前に締結された条約に矛盾する措置をECが発することを禁止していないと解されるが、このような場合、加盟国は、このEC法に拘束されない。

 ところで、EEC条約発効前に締結された条約の方が優先的に適用されるとすれば、EC条約の実効性は害される。そのため、EC条約第307条2項は、加盟国は、両者間の矛盾を除去しなければならないと定めている。

 なお、現在でも、加盟国は、自らが権限を有し(つまり、ECに権限を委譲していない分野・案件に関し)、また、EC条約に反しない場合には、第3国と条約を締結することができる。

 EEC条約発効前に加盟国が締結した条約の管轄権が、その後、加盟国からEC(EEC)に委譲された場合には、条約の当事者としての地位も、加盟国からECに委譲される。例えば、GATT の規定事項(関税と貿易)に関する権限は、加盟国からECに完全に委譲されているため、GATT 締約国(または加盟国)としての地位もECに承継されている。この点は他のGATT締約国からも了承されており、GATTの枠内における交渉、条約の締結、また、紛争の解決は、EU加盟国ではなく、ECによって行われている。もっとも、それによって、EU加盟国は、GATT締約国としての地位を完全に失ったわけではない。議決に際し、投票権は各国に1票ずつ与えられており、ECには与えられていない。なお、加盟国は事前に見解を調整し、相互間に矛盾が生じないように投票する。

 

New リスボン条約体制については こちら



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