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個 別 的 授 権 の 原 則


 一般に、国家の権限は制限されず、様々なことをなしうる。例えば、日本国は、農業政策を策定する権限、通貨を発行・管理する権限、様々な法律を制定する権限、裁判を行う権限、死刑を執行する権限、諸外国と種々の条約(例えば知的所有権の保護に関する条約)を締結する権限、国営企業を設けたり、これを民営化する権限、また、不況時には特別の経済政策(金融機関の救済や税制改革など)を講じる権限を有している。

 これに対し、EU(EC)はありとあらゆる権限を有するわけではなく、加盟国より与えられた権限のみを行使しうるにすぎない(個別的授権の原則)。EU(EC)の権限は、EU条約やEC条約の中で挙げられており参照)、EU(EC)は、これらの条約の定めに従い、権限を行使しなければならないが(EU条約第5条、EC条約第5条第1項および第249条第1項参照)、特に、条約が定める手続(立法手続)に留意しなければならない。



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ECに与えられた政策権限は こちら
 
リスボン戦略 (経済発展と雇用の促進)とEU(EC)の権限については こちら

フランスの de Villepin 首相の就任演説

高速道路の速度制限


    

 EC(より厳密には、ECの諸機関である EU理事会欧州議会欧州委員会)が、EC条約の規定に従い、権限を適切に行使しているかどうか、または、与えられていない権限まで行使していないかどうか不明な場合、EC裁判所に提訴し、審査させることができる(無効の訴え)。例えば、健康保護などを目的とし、欧州議会とEU理事会がタバコ広告の規制に関する指令を制定したところ、ドイツは、両機関の立法権限を争い、提訴した。そして判決において、EC裁判所は、@EC条約第152条第4項第c号は、健康保護を目的とした指令の制定を明瞭に否認していること、Aまた、EC条約第95条によれば、ECは、域内市場 を創設し、また、その機能を強化するために必要な指令を制定しうるが、タバコ広告の規制に関する指令は、域内市場に関するものではないとし、同指令を無効と判断した(Case C-376/98 Germany v EP and Council [2000] ECR I-8419)。なお、この判決では、映画館で放映されるタバコ広告や道路脇に貼られるタバコ広告の違法性が問題になったが(これらは、ある加盟国から他の加盟国に持ち出されることはないため、域内市場全体に関わる問題ではない)、EC裁判所は、事後の判決において、域内市場に関わることであれば、第152条第4項第c号ではなく、第95条に基づき、国内法を調整することができると判断し、第95条に基づき、タバコ広告を規制することを認めた(Case 491/01)。


  リストマーク ECによるタバコ広告規制については こちら


 また、ある国際条約を締結する権限をECは有するかどうか疑義がある場合は、EC裁判所に意見を求めることができる(EC条約第300条第6項 [参照])。例えば、欧州人権条約の締結権限はECには与えられていないため、ECは同条約を締結することはできないとEC裁判所は判断している(Opinion 2/94, [1996] ECR I-1763)。



 ところで、EC条約第308条(補充的権限ないし柔軟性の条項)は、EC条約によってECに権限は与えられていないものの、共同市場 の目的達成に必要な場合には、EU理事会は全会一致にて法令を制定することができると定める(「共同市場の目的達成」に必要とみなされるかどうかについて こちらを参照)。

 これによって、前述した個別的授権の原則に例外が設けられるわけではないが、ECの権限は拡大することになる。第308条に基づき、環境政策、研究政策、地域政策、社会政策や通貨政策の分野において、第2次法が制定されてきたが参照、現在はECに権限が与えられているため、同規定の適用範囲は狭められている。


  リストマーク いわゆる smart sanctions に関するECの権限について