委員会は、1名の委員長によって統率されるが、各メンバーは、加盟国の国民でなければならない。また、各国の国民が少なくとも1名含まれていなければならないが、その定数は、EU理事会が全会一致にて変更することができる(第213条第1項参照)。なお、ニース条約 に附属する「EU拡大に関する議定書」第4条第2項 は、加盟国数が27になれば、その時点以降に発足する委員会のメンバーは、加盟国の互選により任命されると定める。したがって、各国より1名ずつ任命されることにはならない 。なお、すでに述べたように、この規定は加盟国数が27に達した後に初めて発足する委員会に適用される。現在の委員会は2004年11月に発足し(参照)、任期は5年であるため、定数が削減されるのは、2009年以降である。 2007年元旦、ルーマニアとブルガリアがEUに加盟し、加盟国数は27になったが、両国よりそれぞれ1名の委員が新たに任命されているため、現在、委員会の定数も27である(参照①、②)。 発効の目処がたっていない 欧州憲法条約 は、発効後、最初の欧州委員会には、各国より1名のメンバーが選出されるとし、その後は、加盟国数の3分の2に相当する人数に削減されると定めている(第I-26条第5項、第6項〔参照〕)。
委員の任期は、従来通り5年で、再任も可能である(第214条第1項)。
上掲の手続に従い、2004年11月、新しい委員会(各国より1名ずつの計25名体制)が発足しているが、若干の委員候補が欧州議会によって批判されたため、就任時期は当初の予定より遅れている(詳しくは
こちら)。
委員長をはじめ、各委員の独立性は完全に保障されているが(第213条第1項第1款)、これは、各人は出身国の意見に拘束されないことを意味している。また、委員長および各委員は、出身国の利益のためにではなく、ECの利益のために職務を遂行しなければならない(同第2項[参照 ①、②])。それゆえ、委員会は、各国の利益が強く反映される理事会とは対照的な使命を負う。
欧州委員会によって司られているECの行政機構は、1999年秋に改革され、現在は、総計36の総局・部署(日本で言うならば官庁)に分かれている。その内訳は以下の通りである。
・専門分野ごとに組織される23の総局 (Directions Générales (DG)) ・事務総局 ・12の専門部署 これらの長は欧州委員が勤める(それゆえ、欧州委員は、我が国で言うならば、大臣に相当する)。総局・部署には、総計約22,500人の職員が勤務しているが[4]、主な勤務地はベルギーの首都ブリュッセルである(参照)。 欧州委員(2004年11月就任)の管轄部署
委員会の主な任務は次の通りである(第211条参照)
(1) 法案の作成(発議権) EC条約上、法案の制定権は、委員会にのみ与えられており(発議権の独占)、委員会が法案を作成しなければ、理事会は法令を制定しえない(第250条第1項参照)。この観点から、委員会は「ECのモーター」と呼ばれることがあるが、委員会が法案の作成を怠るとき、EC条約上、以下の手段を取ることができる。 ① 欧州議会と理事会は法案の提出を委員会に要求しうる(第192条第2項、第208条)。もっとも、委員会はこの要請に拘束されない。 ② EC法上の具体的な義務に反して、委員会が法案の作成を怠るときは、EC裁判所に訴えることができる(不作為違法確認訴訟、第232条)。
なお、理事会が委員会案の内容とは異なる法令を制定する場合は、全会一致でこれを決定しなければならない(第250条第1項参照)。 EUの第2および第3の柱の分野においても、委員会は発議権を有するが、ここでは、加盟国にも発議権が与えられている。
(2) EC法遵守のコントロール 委員会は、ECのその他の機関、加盟国や個人が、EC法やEC裁判所の判例を遵守しているかどうか調査する。例えば、加盟国はEC指令を適切に、また、適時に国内法に置き換えているかどうか、また、私企業がEC競争法等に違反していないかどうかを調査し、罰金を含め、制裁措置を発することができる。さらに、必要な場合には、EC裁判所に訴えを提起しうる[5](EC法違反確認の訴え、第226条参照)。この意味で、委員会は「EC法の番人」と呼ばれる。
EC裁判所が、ある加盟国はEC条約上の義務に違反しているという判決を下す場合には、同加盟国は、それに従い、条約違反状態を除去しなければならない(第228条第1項)。しかし、同加盟国はこのような措置を講じていないと委員会が判断する場合には、委員会は、同加盟国に意見を求める(第2項)。また、委員会は、ある一定の期間内に、適切な措置をとるよう、加盟国に要請しうるが、加盟国がこれに従わない場合は、委員会は(再び)EC裁判所に訴えを提起しうる。その際、委員会は制裁金等の額を定めることができる(第3項)。その後、EC裁判所が、同加盟国はEC裁判所の判決に従っていないと判断するときは、同加盟国に制裁金を課すことができる(第4項)。これに対し、個人に対しては、委員会は自ら制裁を科すことができる。
(3) 立法権限 EC条約上、委員会には原則として立法権限が与えられていないが[6]、理事会の判断に基づき、すでに理事会によって制定された法令の執行規則を制定することができる[7]。これには、理事会の負担軽減といった実務上のメリットの他に、立法権と行政権(執行権)が理事会に集中するのを防ぐといった機能がある。もっとも、例外的に理事会は、執行規則制定権を委員会に与えず、自らこれを制定することもできるが(第202条参照)、その場合には、正当な理由を示さなければならない[8]。
(4) 行政権限 競争政策や通商政策の分野等において、委員会は行政機関として調査したり、行政処分を行うことができる。 (5) ECの対外的代表 委員会は、対外的にECを代表する。例えば、通商条約やその他の条約の締結のために開かれる国際会議や国際機関の会合には、委員会がECを代表して出席する(第133条第3項、第300条、第302条~第304条参照)。もっとも、条約等の締結権限は、委員会には与えられておらず、これは理事会の権限である(第300条参照)。なお、理事会は締結交渉を委員会に委任することができる。
(6) ECの対内的代表 ECは加盟国内でも法人格を有する機関として行動し、財物を購入・譲渡したり、国内裁判所に出廷することができるが、その際、ECは委員会によって代理される(第282条)。
(7) ECの財政 委員会はECの予算案を作成する他、理事会と議会に決算報告をしなければならない。
欧州委員会は、合議制を採用しているが、全委員の絶対多数決により議決をとる(第219条第1項、EUの機能に関する条約第250条第1項)。なお、委員会議事規則によれば、議決には過半数の委員が主席していなければならない(委員会手続規則 第7条参照)。
![]() 欧州委委員会の任務・権限・意思決定手続について 英語版
[1] 初代欧州委員長のHallstein は、自らが勤める機関をそう呼んでいた。 [2] 削除 [3] 欧州議会の同意権は、アムステルダム条約に基づき、1999年5月に創設された。なお、欧州議会は、投票数の絶対多数決にて採決をとる(EC条約第198条参照)。 [4] Waltraud Hakenberg, Grundzüge des Europäischen Gemeinschaftsrechts (Verlag Vahlen 2003, 3rd edition), p. 44 (para. 51). [5] 第226条第2項は、「しなければならない」とではなく、「することができる」と定めており、委員会は、常に訴えを提起しなければならないわけではない。See Case 247/87, Star Fruit Company/Commission, ECJ 1989, 291; Case C-196/97 P, Cornelis/Commission, ECJ 1998, S. I-199. [6] その例外として、例えばEC条約第86条第3項および第166条が挙げられる。他方、欧州石炭・鉄鋼共同体条約においては、High Authority(完全にではないが、ECの欧州委員会に相当する)が主たる立法機関であった。 [7] EC条約第202条参照。なお、この規定は、1987年発効の単一欧州議定書に基づきEC条約内に挿入されたが、これはそれ以前の実務を明文化したにすぎない。また、EC条約第144条を参照されたい。 ECの重要な政策分野においては(例えば農業政策など)、理事会によって制定された「基本法令」の運用規則(執行規則)が委員会によって多数制定される(バナナ市場規則に関して)。このような規則の効力期間は短かいことが多く、そのため制定される規則の数も多数にのぼる。委員会が制定しうる法規の内容・性質に関して、see Case 16/88, Commission v Council [1989] ECR 3457. 通常、理事会は、自らが(場合によっては、欧州議会と共同で)制定する基本法令の中で、委員会の執行規則制定権について定めており、委員会はこれに拘束される。See Case C-303/94, European Parliament v Council [1996] ECR I-2943. 委員会による法令の制定は、いわゆる「コミトロギー手続」に従って行われる。 [8] See Case 16/88, Commission v Council [1989] ECR 3457 (para. 10). なお、1987年発効の単一欧州議定書以降、理事会は執行規則制定権限を委員会に与えることが義務づけられており、通常は委員会に執行権限が付与される。
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