Top      News   Profile    Topics    EU Law  Impressum          ゼミのページ


Star
EU法講義ノート

欧 州 委 員 会 (European Commission)


  目 次
    はじめに
 1. 構成
 2. 行政機構
  3. 任務
  4. 議決方式
  5. リンク

リストマーク リスボン条約体制は こちら

Topics
Barroso 委員長

新欧州委員会の発足
メンバー

欧州委員会

欧州委員会本部 Berlaymont 
  (ベルギー・ブリュッセル)

写真提供
Audiovisual Library European Commission


  は じ め に 


 欧州委員会は「EU理事会の秘書」と揶揄されることもあるが、① 法案の作成だけではなく、② EC諸機関、加盟国や個人がEC法を遵守しているかどうかを監視する重要な役目を負っている。前者に関しては、委員会の発案がなければ、理事会や議会は法令を制定することができないため、委員会は「欧州統合のモーター」と呼ばれる[1]。また、後者の観点から、委員会は「EC法の番人」と称される(EC条約第211、リスボン条約発効後のEU条約第17条第1項参照)。


     リストマーク 委員会と加盟国の関係
欧州委員会

 (写真)2007年元旦のスロベニア・ユーロ導入記念式典  

 写真提供 © European Community




  1. 構成

 委員会は、1名の委員長によって統率されるが、各メンバーは、加盟国の国民でなければならない。また、各国の国民が少なくとも1名含まれていなければならないが、その定数は、EU理事会が全会一致にて変更することができる(第213条第1項参照)。なお、ニース条約 に附属する「EU拡大に関する議定書」第4条第2項 は、加盟国数が27になれば、その時点以降に発足する委員会のメンバーは、加盟国の互選により任命されると定める。したがって、各国より1名ずつ任命されることにはならない 。なお、すでに述べたように、この規定は加盟国数が27に達した後に初めて発足する委員会に適用される。現在の委員会は2004年11月に発足し(参照)、任期は5年であるため、定数が削減されるのは、2009年以降である。

 2007年元旦、ルーマニアとブルガリアがEUに加盟し、加盟国数は27になったが、両国よりそれぞれ1名の委員が新たに任命されているため、現在、委員会の定数も27である(参照)。

 発効の目処がたっていない 欧州憲法条約 は、発効後、最初の欧州委員会には、各国より1名のメンバーが選出されるとし、その後は、加盟国数の3分の2に相当する人数に削減されると定めている(第I-26条第5項、第6項〔参照〕)。


   リストマーク リスボン条約による改正については こちら




    リストマーク 従来の構成東方拡大 が実現する前の15ヶ国体制時)

 ドイツ、フランス、イタリア、イギリスおよびスペインの5大国からは、従来通り各2名、また、その他の加盟国からは各1名の委員が任命されてい た(計20名)。


    リストマーク ニース条約による改正

          ・ 2005年以降に任命される欧州委員会
 
    リストマーク 欧州憲法条約による見直し
    リストマーク ルーマニアとブルガリアの加盟による委員の増員
    リストマーク 現在の欧州委員会のメンバー (欧州委員会の公式 サイト)



 

 委員の任期は、従来通り5年で、再任も可能である(第214条第1項)。 

 ニース条約が発効した現在、委員会のメンバーは次のようにして指名・任命される。まず、理事会(加盟国首脳で構成される理事会)の特定多数決に基づき、委員長候補が指名される。指名には欧州議会の同意が必要である(第214条第2項第1[3])。その後、理事会と委員長候補は、共同で委員候補を指名する(同第2款)。このようにして選ばれた各候補は、欧州議会によって審問され、欧州議会の同意が得られれば、理事会によって任命される。なお、欧州議会は、委員長および委員候補全員を一括して承認するか、否認しなければならない(同第3款)。つまり、特定の候補のみを否認することはできないが、これは小国や少数派の候補が否認されないようにするためである(リストマーク 欧州委員会に対する民主的統制)。


重要従来の手続

 
従来は、EU理事会ではなく、加盟国政府の相互承認に基づき指名・任命されていたこれは、機関間の均衡を保つためであった。つまり、EU理事会が欧州委員会を指名・任命するとすれば、前者は後者に優位することになるため、このような手続はとられていなかった。




 
 ニース条約発効後の欧州委員会選任手続(EC条約第214条第2項)


欧州委員会の指名・任命


欧州憲法によって、この選出・任命手続は改正されるが、この点については こちら

New リスボン条約体制については こちら



 上掲の手続に従い、2004年11月、新しい委員会(各国より1名ずつの計25名体制)が発足しているが、若干の委員候補が欧州議会によって批判されたため、就任時期は当初の予定より遅れている(詳しくは こちら)。


(参照)  新欧州委員(Barroso 欧州委員会)の選任・任命

新欧州委員会の就任延期

新欧州委員会の就任延期に関する法的問題

東方拡大後の欧州委員会


ルーマニアとブルガリアの加盟による委員の増員

欧州委員会に対する民主的統制

 


 委員長をはじめ、各委員の独立性は完全に保障されているが(第213条第1項第1款)、これは、各人は出身国の意見に拘束されないことを意味している。また、委員長および各委員は、出身国の利益のためにではなく、ECの利益のために職務を遂行しなければならない(同第2[参照 )。それゆえ、委員会は、各国の利益が強く反映される理事会とは対照的な使命を負う。


   委員会の行為規範については こちら 


 上述したように、欧州委員会メンバーの選出・任命にあたっては、欧州議会の承認を要するが、その他、議会は委員会に活動報告を求め、審査したり、また、不信任を決定することによって委員会を統制しうる
( 詳しくは こちら と サンテール欧州委員会の辞任と欧州議会制度




  2. 行政機構

 欧州委員会によって司られているECの行政機構は、1999年秋に改革され、現在は、総計36の総局・部署(日本で言うならば官庁)に分かれている。その内訳は以下の通りである。

 

・専門分野ごとに組織される23の総局 (Directions Générales (DG))

・事務総局

12の専門部署


 各総局・部署について


これらの長は欧州委員が勤める(それゆえ、欧州委員は、我が国で言うならば、大臣に相当する)。総局・部署には、総計約22,500人の職員が勤務しているが[4]、主な勤務地はベルギーの首都ブリュッセルである参照


 各委員の管轄部署

   欧州委員(2004年11月就任)の管轄部署  




  3. 任務

 委員会の主な任務は次の通りである(第211条参照)

 

(1) 法案の作成(発議権)

 EC条約上、法案の制定権は、委員会にのみ与えられており(発議権の独占)、委員会が法案を作成しなければ、理事会は法令を制定しえない(第250条第1項参照)。この観点から、委員会は「ECのモーター」と呼ばれることがあるが、委員会が法案の作成を怠るとき、EC条約上、以下の手段を取ることができる。 

  欧州議会と理事会は法案の提出を委員会に要求しうる(第192条第2項、第208条)。もっとも、委員会はこの要請に拘束されない。

   EC法上の具体的な義務に反して、委員会が法案の作成を怠るときは、EC裁判所に訴えることができる(不作為違法確認訴訟、第232条)。

 

なお、理事会が委員会案の内容とは異なる法令を制定する場合は、全会一致でこれを決定しなければならない(第250条第1項参照)。 

 EUの第2および第3の柱の分野においても、委員会は発議権を有するが、ここでは、加盟国にも発議権が与えられている。

 

(2) EC法遵守のコントロール

 委員会は、ECのその他の機関、加盟国や個人が、EC法やEC裁判所の判例を遵守しているかどうか調査する。例えば、加盟国はEC指令を適切に、また、適時に国内法に置き換えているかどうか、また、私企業がEC競争法等に違反していないかどうかを調査し、罰金を含め、制裁措置を発することができる。さらに、必要な場合には、EC裁判所に訴えを提起しうる[5]EC法違反確認の訴え、第226条参照)。この意味で、委員会は「EC法の番人」と呼ばれる。


リストマーク EC法違反確認の訴えEC条約226条参照)
リストマーク 安価なポケモン製品の輸入阻止はEC法違反

    
 

 EC裁判所が、ある加盟国はEC条約上の義務に違反しているという判決を下す場合には、同加盟国は、それに従い、条約違反状態を除去しなければならない(第228条第1項)。しかし、同加盟国はこのような措置を講じていないと委員会が判断する場合には、委員会は、同加盟国に意見を求める(第2項)。また、委員会は、ある一定の期間内に、適切な措置をとるよう、加盟国に要請しうるが、加盟国がこれに従わない場合は、委員会は(再び)EC裁判所に訴えを提起しうる。その際、委員会は制裁金等の額を定めることができる(第3項)。その後、EC裁判所が、同加盟国はEC裁判所の判決に従っていないと判断するときは、同加盟国に制裁金を課すことができる(第4項)。これに対し、個人に対しては、委員会は自ら制裁を科すことができる。

 

(3) 立法権限

 EC条約上、委員会には原則として立法権限が与えられていないが[6]、理事会の判断に基づき、すでに理事会によって制定された法令の執行規則を制定することができる[7]。これには、理事会の負担軽減といった実務上のメリットの他に、立法権と行政権(執行権)が理事会に集中するのを防ぐといった機能がある。もっとも、例外的に理事会は、執行規則制定権を委員会に与えず、自らこれを制定することもできるが(第202条参照)、その場合には、正当な理由を示さなければならない[8]


New リスボン条約(欧州憲法条約も同じ)は、法律とその他の第2次を明確に区別している。それによれば、法律とは、EU理事会と欧州議会が立法手続に従い制定するものに限られる(詳しくは こちら)。そのため、従来、欧州委員会が制定してきた執行規則等は、法律に当たらない。


(4) 行政権限

 競争政策や通商政策の分野等において、委員会は行政機関として調査したり、行政処分を行うことができる。


 

(5) ECの対外的代表

 委員会は、対外的にECを代表する。例えば、通商条約やその他の条約の締結のために開かれる国際会議や国際機関の会合には、委員会がECを代表して出席する(第133条第3項、第300条、第302条~第304条参照)。もっとも、条約等の締結権限は、委員会には与えられておらず、これは理事会の権限である(第300条参照)。なお、理事会は締結交渉を委員会に委任することができる。

リストマーク

ECによる条約の締結
WTO交渉における欧州委員会の交渉権限
飛行機搭乗者の個人情報に関する米国との交渉 


New
リスボン条約体制については こちら


EC(EU)を代表し、2007年6月のG8に出席した Barroso 欧州委員長(右端)

写真提供: © European Community 2007



(6) ECの対内的代表

 ECは加盟国内でも法人格を有する機関として行動し、財物を購入・譲渡したり、国内裁判所に出廷することができるが、その際、ECは委員会によって代理される(第282条)。 


(7) ECの財政

 委員会はECの予算案を作成する他、理事会と議会に決算報告をしなければならない。



 

  4. 議決方式

 欧州委員会は、合議制を採用しているが、全委員の絶対多数決により議決をとる(第219条第1項、EUの機能に関する条約第250条第1項)。なお、委員会議事規則によれば、議決には過半数の委員が主席していなければならない(委員会手続規則 第7条参照)。



 

 5. 欧州委員会に関するリンク

  欧州委員会の公式ホームページ 英語版  仏語版  独語版

    欧州委委員会の任務・権限・意思決定手続について 英語版

  駐日欧州委員会代表部のページ 日本語版  英語版

  



欧州委員会

欧州委員会本部 Berlaymont 
  (ベルギー・ブリュッセル)

 スロベニアのユーロ導入に際して

© European Community 2008



 

 

[1]     初代欧州委員長のHallstein は、自らが勤める機関をそう呼んでいた。

[2]      削除

[3]      欧州議会の同意権は、アムステルダム条約に基づき、19995月に創設された。なお、欧州議会は、投票数の絶対多数決にて採決をとる(EC条約第198条参照)。

[4]      Waltraud Hakenberg, Grundzüge des Europäischen Gemeinschaftsrechts (Verlag Vahlen 2003, 3rd edition), p. 44 (para. 51).

[5]      226条第2項は、「しなければならない」とではなく、「することができる」と定めており、委員会は、常に訴えを提起しなければならないわけではない。See Case 247/87, Star Fruit Company/Commission, ECJ 1989, 291; Case C-196/97 P, Cornelis/Commission, ECJ 1998, S. I-199.

[6]      その例外として、例えばEC条約第86条第3項および第166条が挙げられる。他方、欧州石炭・鉄鋼共同体条約においては、High Authority(完全にではないが、ECの欧州委員会に相当する)が主たる立法機関であった。

[7]      EC条約第202条参照。なお、この規定は、1987年発効の単一欧州議定書に基づきEC条約内に挿入されたが、これはそれ以前の実務を明文化したにすぎない。また、EC条約第144条を参照されたい。

  ECの重要な政策分野においては(例えば農業政策など)、理事会によって制定された「基本法令」の運用規則(執行規則)が委員会によって多数制定される(バナナ市場規則に関して)。このような規則の効力期間は短かいことが多く、そのため制定される規則の数も多数にのぼる。委員会が制定しうる法規の内容・性質に関して、see Case 16/88, Commission v Council [1989] ECR 3457. 通常、理事会は、自らが(場合によっては、欧州議会と共同で)制定する基本法令の中で、委員会の執行規則制定権について定めており、委員会はこれに拘束される。See Case C-303/94, European Parliament v Council [1996] ECR I-2943.

委員会による法令の制定は、いわゆる「コミトロギー手続」に従って行われる。

[8]      See Case 16/88, Commission v Council [1989] ECR 3457 (para. 10). なお、1987年発効の単一欧州議定書以降、理事会は執行規則制定権限を委員会に与えることが義務づけられており、通常は委員会に執行権限が付与される。 

 



Voice Home Page of Satoshi Iriinafuku


EU法講義ノート