欧 州 委 員 会 に 対 す る 民 主 的 統 制


 従来、欧州議会は、加盟国政府が欧州委員を選出するにあたり、拘束力のない意見を述べうるにすぎなかったが(EC条約旧第158条第2項第1款)、199710月制定のアムステルダム条約に基づき、同意権(承認権)が与えられている(第214条第2項第1款)。従って、議会の同意がなければ委員長は選出されず、この意味において議会は「民主的統制機関」であると言える。

委員候補が議会によって承認されると、次に19名の委員が指名されるが、同人らは欧州議会の専門部会によって個別に審問される(欧州議会運営規則第33条参照)。そして、議会の承認が得られるならば、指名された委員長と各委員は加盟国政府によって任命される。このような手続によって、執行機関に対する民主的コントロールが強化される点は歓迎すべきだが、委員会が欧州議会に「従属」、ないし、欧州議会内の勢力関係の影響を受ける弊害も払拭されない。20046月の新委員長の指名の際には、まだ発効していない 欧州憲法条約第I-27条第1 を参照し、直前に実施された欧州議会選挙の結果が考慮されているが(つまり、同選挙で勝利した保守系政党から新委員長は指名されている〔参照〕)、EU内の人事や政策決定に対する政治団体の影響力は強まっていると言えよう(参照)。




欧州委員会の指名・任命



 その他、マーストリヒト条約の発効以降、欧州議会には、委員会の不信任案を採択し、その総辞職を求める権利が与えられているが、その採択には投票数の3分の2の賛成と、かつ、それが欧州議員総数の過半数を占めることを必要とする(EC条約第201条)。そのため、欧州議会による委員会の罷免は容易ではない。また、各委員は加盟国政府の相互承認によって任命されるが、加盟国の政権政党と欧州議会の多数派が同一である場合には、委員会の不信任案が採択される可能性はほとんどない。もっとも、前述した要件が満たされず、不信任案が否決される場合であっても、議会による批判は委員会の命運を左右しうるため、議会はEC条約上の権利の他に、実質的な統制権を持っていると言える(参照)。また、この不信任決議権には、委員会の自発的な自己統制を促すといった機能もある。なお、議会による委員会批判は、EU全体(つまり、委員会だけではなく、議会自ら)の信頼を失墜させるといったマイナス面があるため、最終的に、議会は譲歩せざるをえないと事情もある(参照)。 

なお、欧州議会は、指名された委員長は各委員を一括して承認するか、否認しなければならない。つまり、特定の者のみの承認を拒むことはできない(第214条第2項第3款参照)また、不信任案に関しても、特定の委員についてのみ採決を取ることはできない(第201条参照)。この点において、議会の権限は制限されているが、これによって小国または少数派に属する委員が罷免されるといった事態を回避することができる。なお、理事会は、個々の委員の罷免を求め、EC裁判所に提訴しうるが、このような権利は欧州議会には与えられていない(第216条)。



(参照) サンテール欧州委員会の辞任と欧州議会制度

バロッソ欧州委員会早期発足の阻止

欧州議会の性格





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