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ECのバナナ市場規則に関する法的問題

 banana  4. バナナ市場規則の内容

 ECのバナナ市場規則(Council Regulation (EEC) No 404/93 of 13 February 1993 on the common organisation of the market in bananas (OJ 1993 L 47, p. 1))は、以下のように、5部(Titel)からなっているが、特に重要なのは、第4部「第3国との貿易」(第15条〜第20条)である。

  第1部 品質および流通に関する規定
  第2部 生産組織
  第3部 EC生産者に対する支援
  第4部 第3国との貿易
  第5部 一般規定


 第15条は、以下のように、バナナを分類している。



EC産バナナ


EC内で生産されたバナナ



伝統的ACP産バナナ


ACP諸国産バナナであるが、85万7700トン を限度とする(第15条第1号参照)。



非伝統的ACP産バナナ


上掲の限度量を超えてECに輸出されるACP産バナナ



第3国産バナナ


EC産とACP産を除くバナナ



 EC産バナナと伝統的ACP産バナナには関税は課されないのに対し、非伝統的ACP産バナナと第3国産バナナについては、以下のように特則が設けられている(第18条)。

非伝統的ACP産バナナと第3国産バナナを合わせ、年間、200万トンまで(後に、220万トンに引き上げられ、また、35万3000トンが追加されている〔リストマーク 輸入割当量の変更については こちら〕)

 非伝統的ACP産バナナ ・・・ 関税免除


 第3国産バナナ ・・・ 1トンあたり、100ECUの関税賦課
                (後に、75ECUに変更〔参照〕)

年間、200万トンを上回る輸入について

 非伝統的ACP産バナナ ・・・ 1トンあたり、750ECUの関税
                  (後に、380ECUに変更)

 第3国産バナナ ・・・ 850ECUの関税賦課
                (後に、680ECUに変更)



注意

750ECU ないし 850ECU の関税(第18条第2項)は、バナナ市場規則制定作業時の市場価格の約2倍にあたるとされ、輸入を禁止する効力を持つ。



 また、年間、200万トンの輸入量は、以下のように、各業者に配分される(第19条)。 


66.5%

第3国産バナナと非伝統的ACP産バナナの取引業者(グループA

30%

EC産バナナと伝統的ACP産バナナの取引業者(グループB

3,5%

1992年以降、第3国産バナナないし非伝統的ACP産バナナの取引を開始する業者(グループC


リストマーク 1998年の改正は こちら
2006年1月1日以降の割当は こちら



 グループBは、従来、第3国産バナナないし非伝統的ACP産バナナを全く、または、ほとんど扱ったことのない業者であるが、200万トンの輸入量の30%は、この業者にのみ与えられる。別の観点から述べるならば、グループAの業者は、自らが開拓してきた市場シェアの30%をグループBに無償で譲り渡さなければならないが、グループBには、他のグループとの市場競争にさらされることなく、輸入割当量が完全に保障される。

 なお、この割当量に従い、グループBの業者が第3国産バナナを輸入するとすれば、従来、自らが扱ってきたEC産バナナや伝統的ACP産バナナの取引に不利な影響が生じかねない。そのため、実際に第3国バナナを輸入する可能性は小さいと解されるが、それにもかかわらず、輸入割当量が保障されているのは、これを他のグループの業者に売却し、副収入を得ることを可能にするためである。このようにして、バナナ市場規則は、EC産バナナや伝統的ACP産バナナを保護している(参照)。

 輸入割当量は、各業者の過去3年間の取引実績を基に算出される。1年ないし2年間、全く取引をしていなかったり、生産者側の一方的契約解除によって輸入できなかったとう事情は考慮されないため、業者は恒常的に取引を行わなければならない。なお、各業者の年間取引量を集計するのは、ECではなく、加盟国の任務である(欧州委員会規則 No. 1442/93 第5条参照、リストマーク ECと加盟国の役割分担)。





輸入(割当)量の変更

当初のバナナ市場規則(Council Regulation No. 404/93)第18条で、年間 200万トンと定められていた輸入量は、ウルグアイ・ラウンドの交渉過程で、220万トンに変更されている(他方、関税は75ECUに引き下げられている〔参照〕)。

また、1995年元旦のオーストリア、フィンランド、スウェーデンのEU加盟に伴い、35万3000トンが追加されている(Commission Regulation No. 1924/95, OJ L 185, p. 24)。これは、EU内の需要増に基づいている。


さらに、2004年5月1日の 東方拡大 (10ヶ国の新規加盟)に伴い、同年5月1日〜12月31日の期間は30万トン、また、2005年は46万トン追加されている。


・  オーストリア、フィンランド、スウェーデンの加盟に伴う移行措置については、Case T-64/01 and T-65/01 Afrikanische Frucht- Campaignie (paras. 11-29)を参照されたい。


バナナ市場規則第18条所定の輸入量は、EC内の需要と、EC産バナナの生産量、また、伝統的ACP産バナナの輸入量を考慮して決定されている。つまり、第一に、EC産バナナと伝統的ACP産バナナが優遇されるが、それらのみでEU内の需要が満たされない場合には、第3国産バナナや非伝統的ACP産バナナが輸入される。当初、この輸入量は、年間200万トンと定められたが、EC内の需要増が見込まれるときは、引き上げられなければならない(第18条第1項)。その際には、前掲の割当配分に従い、各グループの輸入量が追加される。

第16条によれば、年度内に特別の事情が生じるときは、第18条所定の輸入量を変更することができる。なお、EC裁判所は、変更しなければならないと判示している(Case 280/93 R, Germany v. Council, paras. 44 et seq.; Case C-68/95, T. Port [1996] ECR I-6065, paras. 27 et seq.)。







ACP産バナナの優遇

注意

 第3国産バナナに比べ、ACP産バナナの輸入が優遇されているのは、(第4次)Lomé 協定 によって、ECはACP諸国産(バナナに限らない)の輸入奨励が義務付けられているためである(バナナ市場規則前文[第10項]参照)。もっとも、同協定締結時、ACP諸国がすでに有していた利益を保護することで足りる。つまり、協定締結時の輸出量を保障すればよい。バナナに関しては、年間、85万7700トン の輸入品の関税を免除しているのは、同協定締結時、ACP諸国がECに輸出していた数量に関係している(同協定第5議定書および Annex LVVX 参照)。

 この実務は、GATT第1条第1項の定める最恵国待遇に違反するため(参照)、1994年10月、ECは Waiver を申請し、同年12月9日、GATT締約国団によって認可されている 。なお、WTO設立後の1996年10月14日、閣僚会議は、同 Waiver の有効期間を2000年2月29日まで延長している。また、2001年11月にも Waiver が認可されている(参照)。


  リストマーク Waiver の適用範囲


 なお、Lomé 協定 は、2000年2月末に失効し、Cotonou 協定 に引き継がれているが、新協定は、ACP産バナナの優遇について、もはや定めていない。



 
区切り線



リストマーク 欧州委員会の(執行)規則

 前述したように、当初のバナナ市場規則(Council Regulation No. 404/93)は、第3国産バナナと非伝統的ACP産バナナの輸入量を三つのグループの業者に割り当てているが参照、その詳細は、欧州委員会が制定する規則で定められている。すなわち、EU理事会が設けた規則(Regulation No. 404/93)は、ECバナナ市場のいわば憲法にあたるが、これを執行するための規則は、欧州委員会によって発せられる(リストマーク 委員会による執行規則の制定

 1993年6月13日、委員会は規則 No. 1442/93 (OJ 1993, L 142, p. 6)を制定しているが、バナナ市場規則(Council Regulation No. 404/93)の修正を受け参照、1998年10月28日、 規則を改正している。新しい規則 No. 2362/98 (OJ 1998, L 293, p. 32)は、従来、グループBの業者にのみ割り当てられていた30%の輸入量参照をグループAの業者にも開放する一方で、以下のように第3国別に輸入量を定めている(第1条第2文、こちらも参照)。

・ エクアドル 26,17%
・ コスタリカ 25,61%
・コロンビア 23,03%
・ パナマ 15,76%
・ その他 9,43%


リストマーク 2006年1月1日以降の割当



区切り線


リストマーク バナナ市場規則の改正

 1993年2月に制定されたバナナ市場規則は、以下のように改正されている。なお、当初の規則は2002年末に失効し、欧州委員会は、遅くとも、2001年末までに新規則について提案すべきと定められていた(第32条参照)。


Council Regulation No. 3290/94 of  22 December 1994 (OJ 1994, L 349, p. 105)〔枠組み協定〕

 これは、1994年1月18日、GATTの小委員会(パネル)が、バナナ市場規則(Council Regulation No. 404/93)のGATT違反を認定したことを受けてなされた改正である。なお、小委員会の報告書は、ECの反対にあい、採択されていないが、WTO諸協定の発効後、紛争解決手続が強化されることに備え、ECは、1994年3月28・29日、中南米の4ヶ国(コロンビア、コスタリカ、ニカラグア、ベネズエラ)と枠組み協定を締結し、@ 輸入枠の拡大、A 関税の引き下げ、また、B GATT紛争解決手続の利用の放棄について取り決めている(詳しくは こちら)。


 この改正に合わせ、欧州委員会の規則も改正されている(Commission Regulation No. 478/95 of 1 March 1995, OJ 1995, L 49, p. 13)。


(参照) Opinion 3/94, Bananas [1995] ECJ 1995, I-4577
Case C-122/95, Germany v Council



Council Regulation No. 1637/98 of 20 July 1998 (OJ 1998, L 210, p. 28)〔1998年のバナナ市場規則〕

 WTO紛争解決機関(DSB)が、当初のバナナ市場規則はWTO諸協定に違反すると判断したことを受け、バナナ市場規則は、1998年7月に改正され(前文参照)、1999年元旦に発効している(同規則第2条)。

 同規則に基づき、第3国産バナナ非伝統的ACP産バナナ の輸入割当ては以下のように改正された。


従来の グループB に割り当てられていた輸入量を他のグループにも開放する。

全ての輸入割当量の8%は新規参入者に割り当てる。

残りの割当量は、@ 4ヶ国(エクアドル、コスタリカ、コロンビア、パナマ)を対象にした特別枠と、Aその他に分ける。その詳細は、欧州委員会によって定められるが、
委員会規則 No. 1442/93 は以下のように配分している。

  ・ エクアドル 26,17%
  ・ コスタリカ 25,61%
  ・コロンビア 23,03%
  ・ パナマ 15,76%
  ・ その他   9,43%



「その他」には、非伝統的ACP産バナナと、上掲の4ヶ国以外の第3国産バナナが含まれる。この枠内において、非伝統的ACP産バナナは、240,748トンまで関税が免除される。それを超えて輸入されるバナナには、1トンあたり、537ユーロの関税が賦課される。

他方、第3国産バナナが割当量を超過して輸入される場合には、1トンあたり、737ユーロの関税が賦課される。

 新規則に基づき、欧州委員会には、WTO加盟国との間に適切な合意が締結されない場合、輸入割当量や伝統的ACP産バナナの数量を第3国に割り当てる権限が与えられた(同第4項)。

 この改正に合わせ、欧州委員会の規則も改正されている(Commission Regulation No. 2362/98 of 28 October 1998, OJ 1998, L 293, p. 32)。


(参照) Joined Cases T-64/01 and T-65/01, Afrikanische Frucht-Campagnie



Council Regulation No. 216/2001 of 29 Januar 2001 (OJ 2001, L 31, p. 2)〔2001年のバナナ市場規則〕

 前述したように、1997年9月のDSB勧告を受け(参照)、ECはバナナ市場規則を改正しているが(1998年のバナナ市場規則)、これもWTO法に違反することがDSBによって確認されたため(1999年5月のDSB報告書)、2001年1月、EU理事会は、再度、市場規則を改正している。新規則(No. 216/2001) の 前文 によれば、紛争解当事国と協議した後でなければ、制度は改正しえないが、それまでに適用される制度は2段階に分かれる。まず、第1段階では、従来のように、輸入割当制度 が維持されるが、その詳細は以下の通りである。

輸入割当量A: 年間220万トン

輸入割当量B: 年間35万3000トン

 この数量は、EC内の需要の増加に応じ、変更することができる。

輸入割当量C: 年間85万トン


 いずれの割当量も、ACP産と第3国産に開放されているが、ACP産には関税が免除される。他方、第3国産バナナの場合、割当量AとBに関しては、1トンあたり75ユーロ、また、割当量Cに関しては、1トンあたり300ユーロの関税が賦課される。割当量Cの関税が高いため、これはACP産バナナの輸入に向けられるものと想定されているが、欧州委員会はこの関税を引き下げることができる。

  欧州委員会は、新しい執行規則(Commission Regulation No. 896/2001 of 7 May 2001, OJ 2001, L 126, p. 6)を制定し、前掲の第1段階の実施について定めている。また、EU理事会は、2001年12月19日、規則(Council Regulation No. 2587/2001 of 19 December 2001, OJ 2001, L 345)を制定し、前掲の輸入割当量Bを45万3000トンに増やす一方で、輸入割当量Cを75万トンに削減している。

 


リストマーク 2006年以降の規則

 第2段階(2006年元旦)に入ると、上掲の割当制度が廃止され、関税措置に一本化される(第16条第1項)。なお、関税額は、第3国との交渉によって決定されるが(GATT第28条参照)、従来の割当制度の下でのEC・ACP産の保護が維持されるべきとされている。

 この内容に沿った形で、ECは米国およびエクアドルと合意を締結している(参照)。これを受け、欧州委員会は、新しい執行規則(Commission Regulation No. 896/2001 of 7 May 2001, OJ 2001, L 126, p. 6)を制定し、前掲の第1段階の実施について定めている。また、両国との合意を守るため、EU理事会は、2001年12月19日、規則(Council Regulation No. 2587/2001 of 19 December 2001, OJ 2001, L 345)を制定し、前掲 の輸入割当量Bを45万3000トンに増やす一方で、輸入割当量Cを75万トンに削減している。

 2005年1月31日、ECは、2006年元旦以降の関税を1トンあたり230ユーロにするとWTO加盟国に通達したが、中南米の9ヶ国(コロンビア、コスタリカ、エクアドル、グアテマラ、ホンジュラス、パナマ、ベネズエラ、ニカラグア、ブラジル)の申し立てにより、WTOの仲裁手続が開始され、8月1日、ECによる新関税の決定は不適切であり、第3国産バナナの輸入を(現在の状態より)制限する効果があるとの採決が下されているこれを受け、欧州委員会は、9月12日、@ 関税を1トンあたり230ユーロから187ユーロに引き下げること、また、A 77万5000トンの輸入量(関税免除)をACP産バナナに割り当てることを提案している参照

 




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