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Afrikanische Frucht-Campagnie 判決

Joined Cases T-64/01 and T-65/01, Afrikanische Frucht-Campagnie [2004] ECR II-521(2001年3月20日提起)

第1審裁判所、2004年2月10日 判決


 本件の原告 Afrikanische Frucht-Campagnie はドイツ・ハンブルクに本拠を置く法人であるが、特に、中南米産のバナナをEUの新規加盟国(1995年元旦に加盟した3国〔参照〕)に輸出していた。しかし、ECのバナナ市場規則(Council Regulation No. 1637/98)や、その執行規則(Commission Regulation No. 2362/98)によって損害を被ったとして、EU理事会と欧州委員会に対する訴えを第1審裁判所に提起し、損害の賠償を求めた(その他の請求は省略する)。

 EC裁判所の確立した判例によれば、損害はECの違法行為より生じていなければならない(参照)。これを基礎付ける事由として、原告は何点か挙げているが(para. 72)、第7点目として、理事会規則第1637/98号委員会規則第2362/98号 は、WTOの紛争解決機関(DSB)の判断に違反していることを指摘した。1999年4月、小委員会(パネル)は、両規則がGATTやGATSに違反することを認定しているが、ECは控訴しなかったため、同年5月、小委員会の報告書はDSBによって採択された(参照)。しかし、EC(欧州委員会)はその後も規則を適用し続けており、これはDSBの判断の拘束力について定めるWTO法に違反すると原告は主張している(para. 134)。

 原告は、さらに、確かに、Cordis 事件、Bocchi Food Trade International 事件、T. Port 事件では、個人がWTO諸協定を援用し、提訴することは許されないと判示されているが、本件では、紛争処理機関がECのWTO法違反を認定しており、ECはこの判断に拘束されるため、個人はこの判断を援用することができると主張している。なお、Fruchthandelsgesellschaft 判決(Case T-254/97, [1999] ECR II-2743, para. 30)において、第1審裁判所は、この問題について判示していないとされる(para. 135)。


 これに対し、理事会と委員会は、以下の点を指摘し、反論している。


WTO諸協定は、原則として、法令審査の規準にはなりえない(Case C-149/96 Portugal v Council [1999] ECR I-8395, para. 47)。また、WTO諸協定は、原則として、個人に権利を与えることを目的としていないことが Cordis 判決、Bocchi Food Trade International 判決、T. Port 判決より読み取れる(参照@A)。これらのことは、WTOの機関の判断(DSBの勧告)にもあてはまる(para. 137)。

DSBの判断を踏まえ、どのような措置を講ずるか、WTO加盟国の政府にはある程度の裁量権が与えられている(para. 137)。

参考として、EC裁判所の Atlanta 判決(Case C-104/97 P, [1999] ECR I-6983)を挙げることができる(para. 137)。

理事会規則第1637/98号委員会規則第2362/98号 は、WTO諸協定上の特定の義務をEC法に置き換えることを目的とはしていない。また、WTO諸協定の規定についても明瞭に触れていない(para. 137)。



 本件判決において、第1審裁判所は、理事会と委員会が指摘するように、WTO諸協定に照らした法令審査は、Nakajima 判決理論とFediol判決理論が適用される場合にのみ行われることを明らかにした上で、理事会規則第1637/98号委員会規則第2362/98号 は、1999年4月の紛争処理小委員会(パネル)の判断やDSBの判断より生じる義務を「実施する」(implement/umsetzen)ために制定されたことを原告は主張・証明していないと述べている。また、同様に、両規定は小委員会やDSBの判断より生じる特別の規定について明瞭に言及していないことも主張・証明されていない(para. 140)。そのため、第1審裁判所は、原告の請求を退けている。






 解  説 


 本件判決において、第1審裁判所は、DSBの判断が下されている場合であれ、Nakajima 判決理論や Fediol 判決理論の要件が満たされない限りは、WTO諸協定ないしDSBの判断に照らし、EC法の適法性について審査することはできないと判断しているが、他のケースにおいて、EC裁判所は、司法審査を完全に否認する判旨を批判している(参照)。

 第1審裁判所は、理事会と委員会によって指摘された Atlanta 判決 について触れていない 。事後の判決では同判決が参照されているが、第1審裁判所の判例解釈は適切でないことがEC裁判所によって批判されている(参照) 。

 DSBの 勧告が下された後にECが何からの措置を講じていることから、Nakajima 判決理論の要件が満たされるかどうかについて、第1審裁判所は厳格に捉えている 。要件の充足性を否定する同裁判所の立場は、事後の判決でより明確にされている(参照)。要件を厳格に解釈すれば、司法審査が否認され 、また、DSB の判断の意義が限定される。EC裁判所がこれを批判していることは前述したとおりである(参照)。




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