Top      News   Profile    Topics    EU Law  Impressum          ゼミのページ



ECのバナナ市場規則に関する法的問題 


 banana  10. GATT/WTO における紛争解決

 ECのバナナ市場規則(1993年制定)をめぐる法的紛争は、1995年に発足した WTO にも持ち込まれ、新しい紛争解決制度の実効性を問う試金石になった。

 なお、バナナ市場規則や、それが発効する前に適用されていた EU加盟国の法令は、1947年のGATT 適用時にも、GATTとの整合性が争われており、小委員会(パネル)は、条約違反を認定している。

(参照) GATT document DS 32/R of 3 June 1993

GATT document DS 38/R of 11 Feb. 1994




リストマーク WTOにおける法的紛争

(1) 1997年9月のDSBの 勧告

 1996年5月8日、エクアドル、グアテマラ、ホンジュラス、メキシコおよびアメリカ合衆国の要請に基づき、小委員会(パネル)が設置された。ACP諸国産バナナの優遇は、発展途上国支援や Lomé協定 の実施に関する Waiver に基づき正当化されるかどうかが主な争点になったが、1997年5月22日、小委員会は、バナナ市場規則は、特に以下の規定に違反するとの判断を下している(Document WT/DS27/R/USA)。


GATT第1条第1項、第3条第4項、第10条第3項、第13条第1項

特に、第13条第1項(数量制限の無差別適用)違反は、バナナの輸出に大きな利益(第13条第2項参照)を有さない国(例えば、ニカラグアとベネズエラ)を優遇する一方で(参照)、その他の国(グアテマラ)を優遇していないことによる。もっとも、Lomé協定 の実施に必要な範囲で、同規定違反は正当化されると小委員会は判断している。

同様に、非伝統的ACP産バナナ の優遇も、Lomé協定 上の義務の履行に必要な範囲で正当化されると判断されている。 


GATS第2条、第17条



 この判断に対し、ECだけではなく、提訴国も異議を述べたため、上級委員会の審査が開始されることになったが、1997年9月9日、同委員会は、以下のように、小委員会(パネル)の裁決を修正している(WT/DS27/AB/R)。

GATT第1条に関する Waiver に基づき、第13条違反は正当化されない(つまり、上級委員会は、Waiver の適用範囲を厳格に解している)。

非伝統的ACP産バナナ の優遇も、前掲の Waiver によって正当化されない(なぜなら、問題の Waiver の性質上、その適用は、伝統的ACP産バナナの優遇に限定されるため)。


 1997年9月25日、上級委員会の報告書は紛争解決機関(DSB)によって採択され、ECはバナナ市場規則の改正を義務付けられることになった。同年10月16日、ECは国際法上の義務を完全に履行する旨をDSBに伝えているが(DSU第21条第3項参照)、Lomé協定上の義務 を遵守する必要性や、EU加盟国市場の統合といった要請に基づき、バナナ市場規則の改正が容易ではないことは明らかであった(上級委員会報告書参照) 。同年11月17日、当初の申立国は、DSBの勧告を実施すべき「適切な期間」の決定を求めたところ(DSU第21条第3項第c号)、同期間は1997年9月25日から1999年1月1日までとする仲裁判断が下されている(1998年1月7日の仲裁判断 [Document WT/DS27/15, para. 20] )。

 DSBの勧告を受け、EU理事会は、1998年7月20日、バナナ市場規則を改正しているが(Council Regulation No. 1637/98)、米国は、改正が不十分であるとし、1998年11月10日、勧告の実施期間が経過すれば直ちに制裁措置を発動する意向を表明すると共に、制裁の対象となる物品のリストを発表した。また、同年12月21日には、1999年2月1日、または、遅くとも、1999年3月3日より、リストに掲げられた製品に対し、100%の関税を課すとの声明を出した。

 

(2) 1999年4月の仲裁判断

 1999年1月14日、米国は、年間5億2000万米国ドルに及ぶ制裁措置の発動許可をDSBに申請した ところ(DSU第22条参照)、ECがこれに異議を申し立てたため、小委員会が再び審議することになったが(DSU第22条第6項参照) 、同年4月9日、新しいバナナ市場規則もWTO諸協定に違反すること、また、年間、1億9140万米国ドルを上限とする制裁措置を認める決定が下された 。これを受け、米国は、直ちに100%の関税(従価税)を同年3月に遡り徴収する物品リストを公表したが、これにはバナナやその他の果物は含まれていない。つまり、米国は、DSU第22条第3項の cross retaliation の制度を利用している。1999年4月19日、この措置の発動がDSBによって正式に承認され たことを受け、米国は直ちに実施している。なお、米国は、すでに同年3月3日より、輸出業者に対し、製品価格の100%にあたる補償額の支払いを命じていたことについて、ECは異議を述べ(3月25日)、小委員会は、遡及的な効力を有する制裁はDSUに反すると判断しているが、上級委員会によって覆されている(WT/DS165/AB/R, United States - Import Measures on Certain Products from the European Communities, report of the Appelate Body of 11. 12. 2000)。




(3) 1999年5月のDSBの勧告

 なお、エクアドルの申請(1998年12月18日)に基づき、小委員会(パネル)が設置され、DSBの勧告の実施状況について審査されることになったが(DSU第21条第5項参照)、1999年4月、小委員会は、新しいバナナ市場規則も以下の点でWTO諸協定に違反するとする報告書を提出している(WT/DS27/RW/ECU, paras. 6.161 and 6.163)。


伝統的ACP産バナナの無関税輸入量(年間)を85万7700トンに制限することは(参照)、GATT第13条第1項および第2項に反する。

エクアドルや、その他のバナナ輸出国ごとに定められた輸入割当(参照)は、GATT第13条第2項に反する。

非伝統的ACP産バナナと第3国産バナナとでは、関税率が異なるのは(参照)、GATT第1条第1項に反する。

輸入ライセンスの交付に関し、エクアドルの業者がECやACP諸国の業者より不利に扱われているのは、GATS第2条および第17条に反する。

新規参入業者としての資格に関しても、エクアドルの業者は不利に扱われており、これはGATS第17条に反する。


 この判断に対し、ECは控訴しなかったため、1999年5月6日、DSBによって採択されている(WT/DSB/M/61)。なお、小委員会は、同時に、勧告の実施方法を提案している (paras. 6.154-6.159)。これを参考にした上で、ECは、2001年1月29日、新しい規則(Council Regulation No. 216/2001)を制定している。



(4) 2000年3月の仲裁判断

 ECによるDSB勧告の実施が滞っていたため、1999年11月8日、エクアドルは、4億5000万アメリカ・ドルに及ぶ制裁措置の発動許可を申請ところ、ECがその額について異議を申し立てため、仲裁手続が開始され(DSU第22条第6項参照)、制裁の規模を、年間2億160万アメリカ・ドルに制限する決定が下された(2000年3月24日決定)。

 

(5) 2001年4月の紛争当事者間の合意

  前述した仲裁判断を受け、EC製品にかかる関税は大幅に引き上げられることになった。

 今日まで、ECはDSBの勧告を完全に実施していないが、2001年4月11日、アメリカとエクアドルとの間では合意が締結され、制裁の停止(米国) ないし中止(エクアドル)が決定されている(米国は2001年6月30日に制裁を中止し、翌日より、制裁の対象となった製品の関税率は通常の値に戻されている)。この合意によれば、2001年7月より、残存するWTO諸協定違反について Waiver を認めるが、ECは、遅くとも2006年元旦までに数量制限(輸入量の割当)を廃止し、関税措置に一本化しなければならない。

 なお、2001年6月26日、米国は、これによってDSU第3条第6項の意味における合意が成立したわけではなく、DSBの議事録から事件を削除するのは時期尚早であることを明確にしている(Document WT/DS27/59 - G/C/W/270)。

 2001年11月14日、WTO 閣僚会議は、特に、バナナ市場規則が ACP諸国 の経済支援を目的としていることを考慮し、Waiver を認めている (Doha Waiver (WT/MIN(01)/15))。これによって、ECは、EC・ACP諸国間の協定(Cotonou 協定) の履行上、必要なACP諸国産の物品を優遇(関税の免除ないし軽減)を2007年12月31日まで維持することが可能になった。なお、2006年元旦より、ECは数量制限(輸入量の割当)を廃止し、関税に一本化しなければならない(Waiver にかかる決定の議定書参照)。



(6) 2005年8月の仲裁判断

 前掲の合意に従い、ECは、2005年1月31日、2006年元旦以降は数量制限を廃止し、新たな関税を1トンあたり230ユーロにするとWTO加盟国に通達した が、これは第3国産バナナの輸入を制限することにならないかという新たな問題が生じ、関係国と交渉が行われた。しかし、見解の調整がつかず、中南米の9ヶ国(コロンビア、コスタリカ、エクアドル、グアテマラ、ホンジュラス、パナマ、ベネズエラ、ニカラグア、ブラジル)は、3月31日ないし4月1日、WTOに仲裁手続の開始を申請した。8月1日、ECによる新関税の決定は不適切であり、第3国産バナナの輸入を(現在の状態より)制限する効果があるとの判断が下されている(参照)。

 これを受け、欧州委員会は、9月12日、@ 関税を1トンあたり230ユーロから187ユーロに引き下げること、また、A 77万5000トンの輸入量(関税免除)をACP産バナナに割り当てることを提案している参照



(参照) Joined Cases T-64/01 and T-65/01, Afrikanische Frucht-Campagnie

Case C-377/02, Van Parys






「ECのバナナ市場規則に関する法的問題」のトップページに戻る