HP of Satoshi Iriinafuku      News   Profile    Topics    EU Law  Impressum          ゼミのページ

 

 W T O 交 渉 に お け る 委 員 会 の 権 限

農 業 補 助 金 の 削 減

 貿易交渉     

 現在、WTO加盟国は、2005年12月、 香港での交渉(ドーハ開発アジェンダ)成立を目指し、協議を進めているが、農業補助金を見直す点では、すでに合意がまとまっている(参照 @A)。 かねてより、EUは、EU産品に高額の補助金を支出しているが、EU(厳密にはEC)を代表して交渉に臨んでいる欧州委員会(参照)は 、補助金を70%、また、関税によって特別に保護されている農産物の関税を50%削減する計画を示した。これは、EUに並び、保護主義的な政策が批判されている米国の譲歩(農業補助金の50%削減)に応じたものであるが、 しかし、欧州委員会はそのような権限を有さないとして、フランス政府より厳しく批判されることになった。かねてより、フランスはEU農業政策の恩恵を最も大きく受けており、予算の大幅削減に強く抵抗している。

 欧州委員会の(一方的な)行為を阻止するため、フランス政府は、2005年10月18日、EU加盟国外相会議を召集し(ルクセンブルク)、交渉の枠組みについて協議させた 。しかし、具体的な交渉に先立ち、欧州委員会の方針は専門部会によって調査され、加盟国の承認を得る必要があるとする、フランスの提案は採択されなかった。ドイツの日刊紙 Süddeutsche Zeitung や Frankfurter Allgemeine (10月19日付け)によると、フランスに同じく、EU農業補助金の恩恵を受けているポーランド、スペイン、ギリシャ、ポルトガル、また、アイルランドやオーストリアは、フランス案に賛成しているが、他方、ドイツやスカンジナビア諸国は反対したとされる。欧州委員会の Peter Mandelson 委員(通商政策担当)は、フランス案が採択されていたとすれば、委員会の交渉権限は骨抜きにされたであろうと述べている。

 もっとも、外相会議では、フランスの要請に応じ、問題の委員会案の影響について審査することが決まった。また、欧州委員会は交渉内容について、加盟国に情報を提供しなければならないことになった。そのため、フランス政府の方も自らの主張が受け入れられたとして、外相会議の成果を評価している(参照)。

 欧州委員会(ないしEU)の交渉権限 については、過去にも争われたことがあるが、欧州委員会の提案がEUの農業政策に合致せず、見直しを余儀なくされるとすれば、WTOの新ラウンド(ドーハ開発アジェンダ)は失敗に終わりかねない。そのため、前述したフランスの行動を保護主義的として批判する立場もある(Süddeutsche Zeitung v. 19. Oktober 2005, Seite 4)。WTOの Pascal Lamy 事務総長(前欧州委員〔通商政策担当〕)もEUに譲歩を求めているが、彼の出身国フランスがそれに応じるかどうかは定かではない。

 EUの農業補助金は、欧州委員会ではなく、加盟国の全会一致にて決定される。2005年6月の欧州理事会(加盟国首脳会議)でも、この問題が浮上し、協議は成立しなかったが(詳しくは こちら)、欧州委員会がWTO交渉に臨む前に、加盟国のコンセンサスが形成されるべきであろう。なお、Mandelson 欧州委員(通商政策担当)は、農業予算の削減に積極的なイギリスの出身である。10月18の外相会議で、フランスとは異なる立場をとったドイツに謝意を示しているが、独仏の協力関係 のひずみや、加盟国間の見解が大きく異なる案件に関する欧州委員会の調整能力が注目される。


                                                
(参照)

Süddeutsche Zeitung v. 19. Oktober 2005, Seite 1 ("Kluft in der EU belastet freien Welthandel")

Süddeutsche Zeitung v. 19. Oktober 2005, Seite 4 ("Ritter gegen die Globalisierung")

Frankfurter Allgemeine v. 19. Oktober 2005, Seite 11 ("EU-Kommission gewinnt Machtkampf")

Die Presse v. 19. Oktober 2005 ("WTO: Frankreich blitzt im Agrarstreit ab")


欧州委員会の対外的代表権限

WTOの新ラウンド成立に向けたEUの呼びかけ



(2005年10月19日記)