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      E U 法 と は 何 か
    1.  第 1 次 法


 (1) 基本諸条約

 3つの共同体とEUは、条約に基づき発足し、また、条約 [1] に基づき重要な 機構・制度改革がなされてきた。これらの条約(その議定書、附属文書等を含む)は、1次法と呼ばれるが、国内であれば、憲法に相当する。 つまり、第1次法は、EU・ECの憲法として、@EU・ECの目的・目標、重要な諸原則、A機構制度、B立法手続、C諸政策の重要事項について、また、DEU市民の権利について定めている。なお、国内憲法と比較すれば、個々の政策の基本事項について定めている一方で(一般に、国内憲法はそのような規定を置いていない)、いわゆる基本権カタログを設けていない点に特徴がある。基本権カタログの欠缺は、特に、ドイツ連邦憲法裁判所によって批判されているが(詳しくは こちら)、2000年12月に採択された「EU基本権憲章」は、基本権カタログに匹敵する。なお、同憲章は、EU条約やEC条約とは異なる、独立した法規範として制定されている。それらを一本化する動きもあったが(欧州憲法条約)、実現するに至っていない(詳しくは こちら)。




@ 目的・基本原則
  ・ EUの目的
  ・ ECの目的

  ・ 補完性の原則
  ・ 個別的授権の原則

  ・ 法の一般原則


A ECの機構制度
   ・ 欧州議会
   ・ EU理事会
   ・ 欧州委員会
   ・ EC裁判所

B 立法手続
   ・ 共同手続、協力手続
   ・ 特定多数決

C 諸政策

D EU市民の権利



 国際条約である第1次法は、全加盟国の政府が参加する会議(政府間協議)において起草され、全加盟国の全会一致によって採択・制定される(その例外として、欧州憲法条約は、憲法協議会によって起草された。詳しくは こちら)。そして、全加盟国の批准手続が終了すれば発効するEU条約第52条およびEC条約第313条参照)



政府間協議

制定

批准[2] 

発効


リストマーク 第1次法とその制定年・発効年




 2004年10月に締結された欧州憲法条約は、当初、2006年11月の発効を目指していたが、2005年5月ないし6月、フランスオランダ で実施された国民投票で批准反対票が過半数に達したことを考慮し、両国は批准を見送った。これをきっかけとし、1年間の見直し期間(Denkpause)が設けられたが(詳しくは こちら)、2007年3月、EU加盟国は、最終的に新しい条約を締結することを決定した(詳しくは こちら


リストマーク 欧州憲法条約の場合

協議会

政府間協議

制定

批准状況

発効断念



 従来、諸共同体設立条約の改正手続は、それぞれの条約内で定められていたが(EEC条約第236条、欧州石炭・鉄鋼共同体条約第96条、欧州原子力共同体条約第204条)、現在は、EU条約第48条において統一的に規定されている。同規定によれば、諸条約は、加盟国政府または欧州委員会は欧州理事会に諸条約の改正を提案しうる(第1項)。なお、この発議権は欧州議会に与えられていない(欧州憲法条約第IV-443条第1項およびリスボン条約による改正については こちら)。これを受け、理事会は欧州議会の意見を聞いた後(また、場合によっては、欧州委員会の意見を聞いた後)、諸条約改正について審議する加盟国政府代表会議(政府間会議)の召集について決定することができる。なお、同会議は、理事会議長によって召集される。また、通貨政策の分野における条約改正については、欧州中央銀行の意見も聞かなければならない(第2項)。


 欧州憲法条約第IV-443条第2項およびリスボン条約発効後のEU条約第48条第2項は、条約改正について審議する協議会(Convention)の召集について定めているが、この組織は、@国内議会の代表、A加盟国(政府)の代表、B欧州議会の代表およびC欧州委員会の代表からなる属する(憲法条約第IV-443条第3項およびリスボン条約発効後のEU条約第48条第3項)。



 条約改正について、最終的な決定を下すのは加盟国であるが、EU・ECの諸機関にこの権限が与えられている場合がある。例えば、EU理事会は、EC条約内で定められている 欧州委員会の定数(第213条第1項)、EC裁判所法務官の定数(第222条第1項)を変更しうる

 EU条約やEC条約には、改正不可能な規定は設けられていないと解されている(EC裁判所の Opinion 1/91, EEA [1991] ECR I-6079 参照)。つまり、加盟国は、諸条約の全ての規定を改廃することができる。




(2) 派生的な第1次法

 上述した諸条約だけではなく、基本権や加盟国の憲法に共通の諸原則(民主主義・法治国家原則など)、EC裁判所の判例法の中で発展してきた法の一般原則 なども第1次法に当たり、EUはその遵守が義務付けられている(EU条約第6条第2項参照)。 


         リストマーク EU加盟要件(EU条約第49条)




      2.  第 2 次 法


 (1) 形態・効力 

 第1次法が定める目標を実現したり、第1次法を補うため、EU・ECの諸機関は法令を制定しうるが、この権限や立法手続は、第1次法の中で定められている。第1次法に基づき諸機関が制定した法令や、EC裁判所の判例法も重要な法源である。これらを第2次法とよぶ。

 EU(EC)の機関によって、例えば、以下の法令が制定されている。

@

第3国からのバナナの輸入や、バナナの品質・価格、EC内の農家の助成等に関する各加盟国の法令を統一するための「規則」(regulation)

A

各加盟国の消費者保護法令を調整するための「指令」(directive) [3]



 ※

ある法令を制定する際、「規則」にすべきか、「指令」にすべきかは、EC条約内で定められている。どちらかの選択が可能な場合は、後述する両者の性質・効力を考慮して決められる



 規則 (regulation) は、各加盟国の法令を統一するために制定され、加盟国内で直接、適用される。したがって、この法令を通し、ECは、個人に直接権利・義務を与えることができる(EC法の独自性)。この法令は、ある事項について一般的かつ抽象的に定める場合に発せられ(この点で、特定人のみを対象にして発せられる「決定」とは異なる)[4]、すべての点で法的拘束力を有する。それゆえ、規則は、国内の一般的な法令に匹敵すると言える。

 





 これに対し、指令 (directive)  は、原則として、加盟国内で直接、適用されるわけではない(その例外については、こちら)。つまり、加盟国は指令の趣旨・目的を考慮し、所定の期間内に国内法を整備する必要があり(EC条約第249条第3項および第10条第1項参照)、この国内法が適用されることになる。なお、国内法への置き換えに際し、加盟国にはある一定の裁量権が与えられている。つまり、各国は独自の判断に基づき法令を制定しうる。そのため、すべての加盟国の法令が完全に同一になるわけではない。指令は、国内法の統一ではなく、調整を目的とするというのは、そのためである。指令は、加盟国に一定の判断権限を与え、緩やかな統合を実現するために適した法令であるが(別の観点から述べるならば、国内法の統一が困難な場合に制定される)、特に、域内市場の分野において多用されている。






指 令 の 国 内 法 へ の 置 き 換 え



指令の置き換え


例)

通信販売契約に関する指令は、クーリングオフ期間を7日以上と定める。

ドイツは、民法典の中で、2週間と定める[5]





 指令は、その実効性が最も保証される形で置き換えなければならない。つまり、法的安定性を有し、十分に明確で拘束力のある国内法が制定されなければならない。法的拘束力がなく、裁判規範性に欠ける行政措置は不適格である(Case C-361/88, TA Luft [1991] ECR I-2567)。このような要件が満たされるのであれば、必ずしも法律が制定される必要はないが、指令が個人に権利(例えば、法的救済を受ける権利)を与えることを目的としている場合は、加盟国は、その権利が保障されるような形で国内法を整備しなければならない(Case C-433/93, Vergaberichtlinien [1995] ECR I-2303)


 前述したように、指令が直接的に適用されることはなく(原則)、加盟国は所定の期間内に国内法に置き換えなければならないが、置換期間が終了する前であっても、指令はある一定の効力を持つ。つまり、置換期間中、加盟国は指令の目的に反する措置を発してはならない。これは、EC条約内の指令に関する規定(第249条第3項)だけではなく、第10条第2項より導かれる(Case C-129/96, Inter-Environnement Wallonie [1997] ECR I-7411)。

 指令が所定の期間内に適切な形で国内法に置き換えられた場合であれ、その国内法は指令の目的に完全に合致しないこともある。そのような国内法は適用が排除されるのではなく、指令の目的に合致するように解釈・適用されなければならない(指令に合致した国内法の解釈)。






指 令 の 置 換 義 務 違 反


 指令は、定められた期間内に国内法に置き換えられなければならない(EC条約第249条第3項および第10条第1項参照)。各国がこの義務を遵守しているかどうかは、欧州委員会によって調査される(参照)。同義務違反の存在が確認される場合、委員会は、当事国に義務の履行を求めることができるが、それでもなお、事態が改善されないときは、EC裁判所に訴えることができる。実際に訴えが提起されることも決してまれではない。

 条約義務違確認の訴え
 
域内市場に関する指令の置き換え

  環境政策の分野における指令の置き換え

 
 加盟国が指令の置換義務を怠った場合、個人は、指令の規定を直接援用し、加盟国をに対し、訴えを提起することができる場合がある(指令の直接的効力)。また、置換義務違反より生じた損害の賠償も訴求しうる(EC条約第288条参照)。これらの対抗措置は、EC裁判所の判例法を通し発展している。


 EC法上の損害賠償請求



 なお、指令の置換義務違反は加盟国によるEC法違反の顕著な例に当たる。これを防ぐため、EU条約(マーストリヒト条約)には宣言が盛り込まれている(参照)。





 「規則」と「指令」の他に、ECは、「決定」、「勧告」および「意見」を発しうるが、以上の5つの法令の性質・効力は、EC条約第249条内で定められている。




 

◎ 第2次法

法令名

立法者

相当する国内法

対象者

法的拘束力

直接的効力

規 則(regulation)


EU理事会、欧州議会、欧州委員会、欧州中央銀行


一般の法令


加盟国、私人


すべての点においてあり


あり

指 令(directive)


EU理事会、欧州議会、欧州委員会


一般的になし


加盟国


その目的に関してのみあり


加盟国が置き換えを怠っており、規定が無条件かつ明確に定められている場合はあり


決 定 (decison)


EU理事会、欧州委員会、欧州中央銀行


行政行為行政命令


主として、特定の私人、加盟国  

(通常、対象者を限定して発せられる)



対象者に対してのみあり


あり

勧 告・意 見(Recommendation and opinion)


EU理事会、欧州委員会、欧州中央銀行、会計検査院



行政措置


加盟国、私人


なし


なし



 なお、諸機関が制定した法令を第2次法と捉えるならば、諸機関が締結した条約も第2次法となる(詳しくは こちら)。




(2) 立法手続

 EUは3本の柱からなるが、法令(第2次法)を制定するのは、通常、第一の柱のEC、より厳密には、その中の一つの European Communitiy(単数形のEC)である[6]。立法手続は、案件ごとに異なっているが[7]、最も基本的な手続の概要は以下の通りである。








※ 上掲の各機関の構成・役割について注意すること(こちら を参照)。

諮問手続 

協力手続

共同決定手続





 ところで、ECは、EC条約 が定める立法権限のみを行使しうる(個別的授権の原則)。例えば、租税法については、間接の調整に関する立法権限は与えられているが、直接に関する立法権限は与えられていない。これは、直接税は加盟国の財政に直接的な影響を及ぼすためである〔リストマーク 法人税(直接税)の調整〕。


 間接税法は、欧州委員会の提案に基づき、欧州議会と経済社会部会の意見を聞いた後、理事会が全会一致にて制定することができる(EC条約第93条参照)。理事会の議決は多数決では足りず、全会一致を必要とすることは、間接税に関する場合であれ、加盟国はECへの権限委譲に消極的であることを表している。また、ECが制定しうるのは、規則ではなく、指令であることも、租税制度に関する加盟国の裁量権を考慮したものである。











(3) 理由付け義務

 第2次法の制定にあたっては、立法趣旨(理由)を示さなければならない(EC条約第253条)。これがなされなかったり、不十分な場合は、重大な手続要件違反 にあたるとして、無効と宣言されることがある(第230条第2項参照)。

  リストマーク 詳しくは こちら





(脚注)本文に戻るときは、文頭の注番号をクリックして下さい。

[1]

単一欧州議定書(1986年)、マーストリヒト条約(1992年)、アムステルダム条約(1997年)、ニース条約(2000年)。制定年・発効年については、 こちら

なお、これらの改正条約は、EU条約内の規定に基づき制定される(EU条約第48条参照)。

EU条約第52条第1項とEC条約第313条第1項によれば、条約は、各国の憲法上の規定に従い批准されなければならないが、これは、条約と国内憲法が矛盾しないようにするためである。

[3]

マーティネック(入稲福訳)「EUの消費者保護法に関する一考察」慶應義塾大学法学研究会編『法学研究』第73巻第7号(2000年7月)51〜76頁を参照されたい。

[4]

なお、アンチ・ダンピング政策の分野では、ある特定人(例えば、ダンピングを行った輸出業者)に対し、「規則」が発せられているが、実質的に、これは「決定」に相当する。

[5]



[6]

EC法という場合には、第1の柱の分野の法規だけであるが、EU法という場合には、さらに第2および第3の柱の分野における法規も含まれる。しかし、最も重要なのは、第1の柱の中の ECの法規 (EC法) である。

[7]

どの立法手続が適用されるかどうかはEC条約内で定められている。間違った手続が用いられた場合、法令は無効である。




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