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EU法講義ノート



リスボン条約
E   U  法 の 優 先 性



 目次

       
     1. 総論

      1.1. 従来のEC法
      1.2. 欧州憲法条約

      1.3. リスボン条約
     2. 各論
      2.1. EC裁判所の判例
      2.2. ドイツ法上の問題
     3.
問題

 



1.総 論

 1.1. 従来のEC法

 国内法とEC法が矛盾する場合、どちらが優先的に適用されるであろうか。この問題について、EC条約や加盟国法は必ずしも明瞭に定めていなかったが( ⇒ 例外)、EC裁判所は、Costa v ENEL 判決において(Case 6/64 [1964] ECR 1251)、前者の優位性を明確にした。現在、この判例法は、加盟国によって受け入れられている。詳細には、自国の憲法上の規定に基づき、EU法の優先性を承認しているが、同様に国内憲法上の理由から、条件付けもなされている(参照)。

 EC法の優先性の根拠( ⇒ 参照)や、その効果(適用上の優先性か、または効力に関する優先性か)について、見解は必ずしも一致していないが、一般的に、EC法の優先性はEC法の特殊性や実効性を維持するといった要請に基づいている。他方、ほとんどの加盟国は、EC法の優先性が認められるのは、国内憲法がそれを容認するためと捉えている。つまり、EC法の優先性の根拠を国内憲法に求めている。

 優先性の効果については、EC法に抵触する国内法は無効となるわけではなく、ECには関係しない事例(純粋な国内事件や加盟国と第3国の間におけるケース)には、変わりなく適用されると解されている(参照)。

 なお、EC法の優先性は、文字通り、「EC法」についてのみ適用される。つまり、EUの「第1の柱」の法についてのみ該当する。他方、「第2の柱」や「第3の柱」の分野で採択される法令には適用されない(詳しくは こちら)。



 1.2. 欧州憲法条約

 なお、欧州憲法条約 には、EU法(憲法条約と諸機関によって制定される第2次法)は国内法に優先するとする規定が設けられた(第I-6条)。また、この規定は従来のEC裁判所判例を反映したものであるとする宣言が政府間協議で採択されたが(参照)、このEU法の優先性を理由に、フランス、スペイン、ドイツでは裁判所に訴えが提起され、憲法条約批准の合憲性が争われた。フランスの憲法裁判所(Conseil Constitutionnel)とスペインの憲法裁判所(Tribunall Constitucional)は、憲法条約 第I-5条第I-2条 および 第I-60条 を指摘をしながら、EU法の優位性も国内憲法に合致すると判断した(see EuR 2004, 911, 913-914 and EuR 2005, 339, 343 et seq.)。なお、第1-5条は、EUは加盟国憲法のアイデンティーを尊重することを(参照)、また、第1-2条は、EUはすべての加盟国が享有する価値・諸原則に依拠することを定める(参照)。第I-6条 は、加盟国がEUから脱退する権利について定めている(参照)。

 これに対し、ドイツ連邦憲法裁判所は、欧州憲法条約の発効に見通しがたたなくなったことを受け、判断を下していない(参照、従来のドイツ連邦憲法裁判所の判断については こちら)。



 1.3. リスボン条約  

 上述したように、フランスやスペインの裁判所は、EU法の優先性を認めているが、加盟国による批准を困難にする可能性があることを考慮し、EU法の優先性について定める規定をリスボン条約に導入することは見送られた(詳しくは こちら)。特に、オーストリアでは、そのような規定がリスボン条約に盛り込まれなかったため、国民投票は回避された。

 もっとも、同条約の締結に際し、加盟国は宣言(第17宣言)を採択し、EU基本諸条約やそれに従い発せられた第2次法は、従来のEC裁判所判例で確立しているように、また、同判例法で示された条件に従い、国内法に優先することを確認している(なお、その条件の内容については触れられていない)。また、EU法の優先性について定める条項が基本諸条約内に盛り込まれないことは、EU法の優先性や従来のEC裁判所判例を否定するものではないとするEU理事会法務担当の見解も同時に支持されている(参照)。この点において、EU法の優先性は、憲法条約第I-6条 より明確になっていると解される。

 なお、これまで、加盟国法に対する優先性は、EC法(「第1の柱」の法)についてのみ認められ、「第2の柱」や「第3の柱」の分野で採択される法令には適用されなかった(詳しくは こちら)。リスボン条約はこの「3本柱構造」を廃止し、一本化していることから(詳しくは こちら)、全分野において国内法に対する優先性が認められる。特に、「第3の柱」は「第1の柱」に組み込まれていることから(詳しくは こちら)、特にあてはまる。これに対し、「第2の柱」(共通外交・安全保障政策)は、従来通り、政府間協力制度の性質を残しており、その他のEUの政策とは異なる規定・手続が適用される(詳しくは こちら)また、法律の制定も禁止されている(EU第24条第1項第2款第3文)。そのため、同政策分野において、国内法に対する優先性は妥当しないと考えることもできる。




リストマーク 国内における国際法の効力

  
加盟国(ないし加盟国法)から見た場合、EC法は国際法にあたる。国内法と国際法(EC法)が矛盾抵触する場合、どちらが優先するであろうか。これは、国際法の国内的効力の問題であるが、国内憲法は明確に定めていない場合が多い。もっとも、オランダ憲法第94条やアイルランド憲法第29条第4項第3款第2文は国際法(EC法)が優先する旨を明らかにしている。

 また、EC条約もこの問題について明確に定めていないが、EC裁判所は、EC法が優先する根拠として、EC条約第10条第2項を挙げている(Case 6/64 [1964] ECR 1251)。なお、第83条第2項第e号は、EC競争法と国内競争法の関係について定める権限をEU理事会に与えている。




2. 各 論
2.1. EC裁判所の判例

 1964615日に下された判決(Costa v ENEL事件)の中で、EC裁判所は、EC条約と加盟国法が矛盾する場合は、前者が優先的に適用されると明瞭に判示した。その理由はいくつか挙げられ、説得力に欠けるものもあるが、重要な点は、国内法が 優先するとすれば、EC法の実効性effet utile) が害されるということである。その他の判例においても、effet utile は、キー・ワードとして用いられている。さらに、全加盟国において、EC法の適用を統一するといった要請も働いている。



 EC法が国内法に優先する理由  GO



 事後の判決において、EC裁判所は、EC法に矛盾する国内法を適用するだけではなく、そのような国内法を制定してはならないことを加盟国に命じている(Simmenthal II 判決、Case 106/77 [1978] ECR 629)。

  EC裁判所は、さらに、EC法は、加盟国の憲法(基本的人権に関する規定)にも優先すると判断した(参照)。これは、各国より大きな批判を浴びた。これを受け、EC裁判所が各国の憲法(基本権)を尊重するようになったため、この問題は解消された。しかし、マーストリヒト条約の批准に際して再び問題視されるようになった。EUの権限が強化されればされるほど、この問題は、各国にとってますます重要となる。



2.2. ドイツ法上の問題

 ドイツ基本法(憲法)第23条は、EC(現在はEU)への主権委譲を認めているが、同規定は、EC法(現在はEU法)がドイツ国内でも適用されることの根拠条文ともなっている。もっとも、ドイツ連邦憲法裁判所は、あらゆるEC法(EU法)の適用が許されるのではなく、ドイツ憲法の本質(ドイツ基本法〔憲法〕第79条第3項および第23条第1項参照)を害するようなEC法(EU法)は適用されないと述べている。つまり、EC法(EU法)によってドイツ憲法の本質が変更されてはならないと考えている(BVerfGE 37, 277 - Solange I, BVerfGE 89, 155 - Maastricht)。この意味において、憲法裁判所は、EC法のドイツ憲法に対する優先性を認めていない。


 EC法(EU法)とドイツ憲法の関係については、特に、権利保護に関する問題が重要である(参照)。これまでにも、EC法(第2次法)によってドイツ憲法が保障する基本権が侵害されていないかという問題が提起され、判例・文献上で検討されている(参照)。この点について、ドイツ連邦憲法裁判所は、ECレベルでも、国内憲法上の基本権が本質的に保護されるのであればよいと判断している。つまり、国内法上の基本権保護とEC法上の基本権保護は、完全に同一である必要はない(BVerfGE 73, 339 - Solange II)


 このような理論に従い、ドイツ連邦憲法裁は、EU法による基本権の制約(ただし、その本質が害されるわけではない)を認めている(バナナ市場規則)。また、EU法の実施にかかる要件(手続的要件)を厳格に適用することにより、国内法との抵触を回避している(ヨーロッパ逮捕令状法)。他方、EU裁判所においても、加盟国憲法の(特別な)要請を考慮しているため(Case C-36/02 Omega Spielhallen [2004] ECR I=9609, paras. 31 et seq)、EU法の優先性より生じる緊張関係は弱まっている。



 ところで、あるEC法(第2次法)はドイツ憲法の本質を侵害するため、ドイツ国内では適用されないとドイツ連邦憲法裁判所は判断しうるであろうか。換言すれば、ドイツでは国内法の方を優先させることが認められるであろうか。従来のEC法の審査権限に関する憲法裁判所の判断は変遷している。まず、1967年、同裁判所は、EC法はドイツ法とは異なる独自の法規範であるため、ドイツ法に照らし、その適法性について審査しえないと述べた(BVergGE 22, 293)。ところが、1974年には、ECが独自の基本権カタログ(これは、議会によって制定され、ドイツ基本法(憲法)に匹敵するものでなければならない)を有さない限り、ドイツ基本法に照らし、EC第2次法の適法性を自ら審査すると判断した(BVerfGE 37, 271 - Solange I)。これは学説によって厳しく批判されることになったが、判旨より、EC裁判所による基本権審査は不十分であるというドイツ連邦憲法裁判所の批判的な態度が読み取れるよう。後に、この点は改善されことになった。そこで、憲法裁判所は、1986年、ドイツ基本法の本質的要素が侵害されず、また、ECレベルでも、国内憲法上の基本権が本質的に保護される限り、自らの判断を控えると述べた(BVerfGE 73, 339 - Solange II)。つまり、EC裁判所によって基本権が一般的に保護されるのであれば、憲法裁判所はEC第2次法の適法性について審査しない。EC裁判所と憲法裁判所の協力関係は、1993年のマーストリヒト判決(BVerfGE 89, 155 - Maastricht)でも確認されているが、他方、ECがその権限を超えて法令を制定した場合には、その適法性について審査すると留保している。

 なお、前述したように、本来、ドイツ連邦憲法裁判所は、EC第2次法の適用性につい審査しえない。なぜなら、第2次法はドイツではなく、ECによって制定された法律であるが、ドイツ連邦憲法裁判所の司法審査は、国内措置に限定されるためである。もっとも、第2次法の制定には、ドイツ政府も関与していることから、第2次法についても間接的に審査しうると同裁判所は判示している(BVerfGE 37, 271 - Solange I, BVerfGE 89, 155 - Maastricht)。


 ところで、2002年11月、「EU基本権憲章」が欧州理事会によって「歓迎」され、EUは基本権カタログを持つことになった(詳しくは こちら)。



(参照) 

バナナ市場規則
ヨーロッパ逮捕令状法




3. 問 題


Q.


 国内におけるEC法(国際法)の効力は、国内法上の問題として捉えることもできますが、国内裁判所ではなく、EC裁判所が判断しているのはなぜですか。


A.


 EC裁判所には、EC法の適用および解釈について最も権威のある判断を下す権限が与えられています(EC条約第234条)。EC法に関する問題について、国内裁判所が判断を下すとすれば、加盟国で判断が異なり、EC法の適用・解釈が統一されなくなるといった問題が生じてきます。そのため、EC裁判所に管轄権が与えられています。

 なお、EC法(国際法)と国内法の優先関係についても、国内憲法上の規定に従い判断すべきとする見解がありますが、これによれば、前述したように、EC法の統一性が保障されるとは限りません。そのため、このような見解は支持されていません。



Q


 EC裁判所は、EC法に違反する国内法を無効と宣言することはできますか。


A


 いいえ。EC裁判所にはこのような権限は与えられていません。つまり、EC裁判所は、国内法の有効性について判断しえません。そのため、EC法が国内法に優先するとは、国内法の無効を意味するのではなく、国内法の適用を否認するに過ぎません。つまり、EC法の優先性とは、適用上の優先性(国内法よりも優先的に適用されること)を指しています。

 なお、EC法の適用範囲は、加盟国間にまたがる問題に限定されます。そのため、1国内でのみ生じる、純粋な国内問題には、もっぱら国内法が適用されます(原則)。このような場合、国内法は、EC法に矛盾していても、適用されます。
 




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