リスボン条約によってEUは、以下のように大きく変わる。
1. 「3本柱構造」の廃止
リスボン条約が発効するまで、EUは、いわゆる「3本柱構造」を採用していた。つまり、EUは、@ 2つの共同体(欧州共同体と欧州原子力共同体)、A
共通外交・安全保障政策、B 刑事に関する警察・司法協力 という3つの柱を束ねる「屋根」として機能してきた(詳しくは こちら)。
リスボン条約は、この「3本柱構造」を廃止し、一本化している。これは、AとBを1本目の柱に移すことを意味するが(いわゆる「政策のEC化」)、厳密には、Aは政府間協力としての性質を維持する。そのため、新しいEUは、@ 超国家的組織の諸政策と、A 政府間協議としての性質を持つ 共通外交・安全保障政策 の「2本柱構造」からなっている。
要するに、1本目の柱に統合されたのは、3本目の柱の政策(刑事に関する警察・司法協力)のみであるが、新体制下において、この政策は「自由、安全および正義の空間」(EUの機能に関する条約第3部第5編第67条〜第89条)と呼ばれる。
なお、これまで1本目の柱を構成していたた欧州原子力共同体は、EUとは異なる国際機関として存続する。
2.ECの廃止とEUによる承継、EUの法人格取得
リスボン条約によって、1本目の柱の中核であったEC(単数形の European Community)は廃止され、EUに引き継がれた(EU条約新第1条第3項、リスボン条約第2条第2項第a号参照)。なお、この承継はEU加盟国間においてのみ有効であり、第3国やその他の国際機関との関係においては、第3国やその他の国際機関によって承認されなければならない。
法人格を有し、実効性のある法規範を制定することができたECと対比させ、EUは緩やかな政府間協力制度に過ぎなかったが、ECの地位を承継することによって、EUは(も)超国家的組織となった。また、ECが消滅することに伴い、EUがその法人格を承継している(EU条約新第47条参照)。これによって、EUには加盟国から独立した、独自の地位が与えられるとともに、欧州人権条約をはじめとする国際条約を締結する資格も与えられた(EU条約新第6条第2項
、一般的な条約締結権限については、EUの機能に関する条約第3条第2項および第216条第1項参照)。
法人格について
なお、従来、EUとECを明確に区別せず、EUと呼ぶことも少なくなかったが、法律上、厳密には、ECとされなければならないケースがあった。例えば、WTOに加盟していたのは、EUではなく、EC(複数形のEC)であった。他方、第2、第3の柱の措置は、ECの措置ではなく、EU(より厳密には加盟国)の措置であった。しかし、リスボン条約に基づき、ECが廃止され、EUがこれを承継することに伴い、今後は、ECではなく、EUが組織名となる。
また、従来より、第2および第3の柱の分野で活動してきた 欧州理事会 は、EUの機関として位置付けることはできても、ECの機関として捉えることはできなかったが、ECが廃止され、EUに承継されたことに伴い、EUの正式な機関として扱われるようになった(EU条約新第13条第1項および新第15条参照)(詳しくは
こちら)。
なお、ECの消滅に伴い、これまでECが制定してきた法令も廃止されるわけではなく、EUの法令として効力を維持する(欧州憲法条約第IV-438条第3項はこの点について明瞭に定めていたが、リスボン条約は規定を設けていない)。リスボン条約が発効する前、EU条約に基づき制定された法令も同様である(新EU条約およびEUの機能に関する条約附属第36議定書第9条)。
3. 加盟国からEUへの権限委譲、EUの権限拡大
これまで、加盟国はEUではなく、ECに権限を委譲してきたが、前述した地位の承継に基づき、権限はEUに委譲される。また、リスボン条約に基づき、新たに以下の政策分野・案件に関する権限が与えられた(see
BVerfG, Urteil v. 30. 6. 2009 - 2 BvE 2/08 u. a., paras. 351-400) 。
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