さらに、国内法の調整が行われている、その他の政策分野において、その実効的な実施には国内刑事法の調整が必要と解されるときも、指令を制定しうる。なお、立法手続は対象となる政策分野の手続による(第83条第2項)
。
なお、この場合も、個々の加盟国は通常の立法手続を停止し、欧州理事会に審議させることができる(第83条第3項第1款)。また、手続の停止から4週間以内に、欧州理事会が指令案を理事会に差し戻さない場合、少なくとも9の加盟国間で緊密な政策協力を実施しうる点も同じである(第2款)。
(2) Eurojust
2002年、理事会は、当時のEU条約第31条第2項に基づき、Eurojust を設置した (詳しくは こちら)。その任務は、複数の加盟国に関わる重大犯罪の捜査や刑事訴追に関する加盟国間の協力を調整・支援することに行われていたが(EUの機能に関する条約第86条第1項第1款参照)、リスボン条約に基づき、独自の捜査を開始したり、または、加盟国に刑事訴追を提案しうるようになった。なお、その詳細は、欧州議会と理事会が通常の立法手続に従い制定する規則において定められる(第86条第1項第2款)。
(3) 欧州検察(European Public Prosecutor's Office)
かねてより欧州委員会は欧州検察の設置について検討してきたが
、EUの機能に関する条約には、その設立・任務に関する規定が盛り込まれた(第86条)。それによると、理事会は、特別の立法手続に従って規則を制定し、Eurojust
を母体とする欧州検察(European Public Prosecutor's
Office)を設置することができる(第86条第1項第1款第1文)。なお、理事会は、欧州議会の同意を得た後で、全会一致で決定する(第2文)。全会一致が得られない時、少なくとも9の加盟国からなるグループは欧州理事会に審議を要請しうる(第2款第1文)。欧州委員会が総意に基づき、理事会に提案を差し戻さないとき、少なくとも9の加盟国は、規則案に沿った形で、緊密な政策を実施することができる(第3款)。
欧州検察の任務は、EUに財政的不利益を与える犯罪を撲滅するため、犯罪捜査、刑事訴追および告訴することにあるが、加盟国の裁判所においては、検察の役割を務める(第86条第2項)。前述したように、対象となる犯罪として挙げられているのは、EUに財政的不利益を与える犯罪のみであるが、欧州理事会(理事会ではない)は、重大な国際犯罪を任務に加えることができる。なお、欧州理事会は、欧州議会の同意を得て、また、欧州委員会の見解を聴いた後に全会一致で決定する(第4項)。
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