6.
EU裁判所の管轄権
(1) 先行判断手続
刑事に関する司法・警察協力(第3の柱)に関し、従来、EC裁判所の管轄権は限定されていたが、リスボン条約に基づき、同政策分野はいわゆる「EC化」され、EU裁判所の司法統制が原則として及ぶようになった。つまり、これまで、同政策分野で発せられた決定や枠組み決定に関し、EC裁判所は、加盟国が認める場合にのみ、先行判断を下すことができ、また、加盟国は先行判断を求めうる国内裁判所を最終審に限定することも可能であったが(旧EU条約第35条第2項および第3項)、リスボン条約に基づき、このような制限はいずれも撤廃された。なお、同条約の発効から5年間は従来の規定によるという移行措置が設けられている(EU条約およびEUの機能に関する条約附属第36議定書第10条)。
他方、新条約は、@加盟国の警察またはその他の刑事訴追当局が講じる措置の有効性または比例性について、また、A公序や国内安全の維持に関する加盟国の権限行使についてEU裁判所は審査しえないことを明確にしている(EUの機能に関する条約第276条)。特に、後者に関する権限はEUに委譲されておらず、加盟国の下に残っていることは第72条でも明記されている。
ビザ、庇護、移民およびその他の人の移動に関する政策分野(EC条約第3部第4編)においても、これまでEC裁判所に先行判断を求めることができたのは国内の最終審に限られていた(EC条約第68条第1項)。また、国境検査の撤廃に関し、公序や国内の安全を維持するために理事会が発する措置や決定(第62条第1号)について、EC裁判所に先行判断を下す権限は与えられていなかったが(第68条第2項)、リスボン条約はこれらの制限をなくしている
(つまり、EUの機能に関する条約には、EC条約第68条第1項および第2項に相当する規定は盛り込まれていない)。
(2) 第2次法無効の訴え(取消訴訟)
EU裁判所の法令審査権はEUの offices や agencies の法的効力を伴う措置にも及ぶことが明確にされた(EUの機能に関する条約第263条第1項第2文〔参照〕)。それゆえ、Europol の措置で、第3者に対し法的効力を発するものの適法性はEU裁判所によって審査されると解される。なお、Europol
協定第41条は Europol 職員の免責について定めているが、これは加盟国の裁判権に服さないことを規定したものであり、EU裁判所の審査には関係しない
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