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EUの司法・内務政策 − 「自由、安全および正義の空間」

〜 リスボン条約体制の概要 〜

   
 1. 「自由、安全および正義の空間」
 2. 国境検査、庇護および移民に関する政策
 3. 民事に関する司法協力 
 4. 刑事に関する司法協力
 5. 警察協力 
 6. EU裁判所の管轄権 


 

2. 国境検査、庇護および移民に関する政策

 EUの機能に関する条約は、司法・内務政策全般にかかる一般規定に次いで(第5編第1章)、@国境検査、A庇護およびB移民について定めている(第2章)。従来、これらの案件は、EC条約(EU条約ではない)で包括的に定められていた(同条約第62条〜第64条)。また、既存の権限に基づき、ECは政策を実施してきたが、リスボン条約はそれをさらに発展させるため、新たな規定を設けている。その概要は以下の通りである。なお、第3国からEU加盟国、特に、地中海沿岸諸国へ非常に多くの難民が押し寄せ、その対処は近年のEUの重要な政策課題の一つになっている。このような状況を踏まえ、国境検査、庇護および移民の各政策分野において、全加盟国は連帯して行動し、また、責任(財政負担を含む)を適切に分配することが明記された(第80条第1文)(参照)。従来、同趣旨の規定は、難民政策についてのみ設けられていた(EC条約第63条第2項第b号)。

 ビザ、庇護、移民およびその他の人の移動に関する政策(EC条約第3部第4編)に関し、これまでEC裁判所に先行判断を求めることができるのは国内の最終審に限られていた(EC条約第68条第1項)。また、国境検査の撤廃に関し、公序や国内の安全を維持するために理事会が発する措置や決定(第62条第1号)について、EC裁判所に先行判断を下す権限は与えられていなかったが(第68条第2項)、リスボン条約はこれらの制限をなくしている。

(1) 国境検査(ビザ政策を含む)
 EUの機能に関する条約第77条(EC条約第62条に相当)第1項第c号は、加盟国の国境警備、つまり、EUの外境警備制度を段階的に統合し、発展させることをEUの政策の一つとして明記する。また、そのために必要な措置を発する権限を欧州議会と理事会に与えている(第2項第d号)。これに基づき、EUは、加盟国の国境警備制度を調整するだけではなく、加盟国を支援するための組織を設けることができると解されるが、これを目的とする組織(FRONTEX)は、EC条約第62条第2項第a号および第66条を根拠規定とし、理事会によってすでに設置されている(参照)。


(参照)

ニース条約体制(EC条約第61条) について

FRONTEX について (欧州委員会の公式サイト)



(2) 庇護および難民保護
 加盟国による庇護請求者の受入、難民の認定やその手続、また、第3国より追放された者の暫定的保護に関し、従来、ECには最低限の基準しか設けることができず(EC条約第63条第1項第1号および第2号)、加盟国はより保護に厚い規定を導入することが認められていたが、リスボン条約は、EU内で統一的に適用される、包括的な制度の導入を可能としている。なお、そのために必要な第2次法は、欧州議会と理事会が通常の立法手続に従い制定する(EUの機能に関する条約第78条第2項第a号〜第d号)。

(3) 移民
 移民政策の分野でも、従来より、理事会には、入国・滞在条件、ビザ発給手続や違法入国・滞在に関する措置を発する権限が与えられていたが(EC条約第63条第1項第3号)、リスボン条約は、移民政策の目標として、@移民流入の実効的な管理や、A加盟国内に適法に滞在する第3国の国民の適切な処遇を挙げている(EUの機能に関する条約第73条第1項)。また、B違法移民や人身取引の防止および対策の強化を新たな目標として掲げ、その実現に必要な措置を発する新しい権限を欧州議会と理事会に与えている(第79条第2項第c号〜第d号)。

 なお、労働者ないし自営業者として加盟国内に入ることが許される第3国の国民の数を決定するEUの権限は明確に否認されている(第79条第5項)。それゆえ、移民政策の基本的権限は従来通り、加盟国の下にある。

    リストマーク 移民政策について詳しくは こちら





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刑事に関する警察・司法協力