なお、(c) と (d)
は新たにEUに与えられた権限である(EC条約第63条第3項〜第4項参照)。
また、EUは、加盟国への入国またはその領域内に滞在するための要件を満たさない第3国の国民の送還について、第3国と協定を締結する権限を有する(第79条第3項)。
さらに、理事会と議会には、加盟国内に適法に滞在する第3国の国民の統合を促進・支援するための措置を発する権限が与えられている(手続は通常の立法手続による)。ただし、加盟国の国内法を調整することは明文で禁止されている(第79条第4項)。
他方、労働者ないし自営業者として加盟国内に入ることが許される第3国の国民の数を決定するEUの権限は明確に否認されている(第79条第5項)。それゆえ、移民政策の基本的権限は従来通り、加盟国の下にある。また、第4条第2項において、EUと加盟国が権限を共有することが明記されている(参照)。
3. 加盟国間の連帯
第3国からEU加盟国、特に、地中海沿岸諸国へ非常に多くの難民が押し寄せ、その対処は近年のEUの重要な政策課題の一つにもなっている。このような状況を踏まえ、移民を含む人の移動に関わる政策(国境検査、庇護・難民保護)に関し、全加盟国は連帯して行動し、また、責任を適切に分配することが明記された。これは財政面についても同様である(第80条第1文)。加盟国間で負担を公平に分担することは、従来のEC条約内でも、亡命者や難民の受け入れについて規定されていたが(EC条約第63条第2項第b号)、新条約は、この原則が移民政策にも適用されることを、より明確かつ詳細に定めている。
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