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リスボン条約
〜 リスボン条約 〜


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ドイツ連邦憲法裁判所、批准の合憲性を確認

BVerfG, 2 BvE 2/08 vom 30.6.2009

ドイツ国旗 リスボン条約はすべてのEU加盟国によって批准された後に発効するが(同条約第6条第1項)、各国の批准手続は必ずしも同一ではない。例えば、ドイツは(ほとんどの加盟国に同じく)国民投票を実施せず、国会の審議に委ねているが、ドイツ連邦議会(Bundestag)は2008年4月に(詳しくは こちら)、また、連邦参議院(Budesrat)は同年5月(詳しくは こちら)に批准を了承した。これを受け、連邦大統領はすでに批准書に署名しているが(2008年10月8日)、リスボン条約批准の合憲性を争う6件の訴えがドイツ連邦憲法裁判所に提起されたため、同裁判所が判断を下すまで、批准書の寄託は延期されることになった。

 合憲性が争われているのは、厳密には、@リスボン条約の批准にかかる法律、A同条約の批准に伴うドイツ基本法(憲法)の改正にかかる法律およびBEUの政策に関する連邦議会と連邦参議院の権利拡充・強化にかかる法律であり(いずれもドイツの国内法である)、リスボン条約の適法性が直接的に審査されるわけではない(訴えの理由について、判決文の Rdnrn. 99-135 を参照されたい)。なお、詳しくは後述するように、ドイツ基本法第23条に照らし、連邦憲法裁判所は欧州統合ないしEUへの主権の委譲に総じて好意的である。

 憲法訴願の提起者は非常に多岐にわたる。つまり、国会審議で条約批准に反対した野党だけではなく(参照)、批准を推進する与党CSUに属する議員(Gauweiler 議員)やドイツ出身の元欧州議員(Graf von Staffenberg議員〔CSU〕)、また、学術・経済界からも合憲性を争う訴えが提起された。なお、前掲の Graf von Staffenberg 氏は2009年公開の映画「ワルキューレ」でトム・クルーズが演じた Graf von Staffenberg (ヒトラー暗殺計画の実行者)の第3男である。

 当初、リスボン条約は2008年内の発効が目標に掲げられていたが、アイルランド国民投票 の結果を受け、発効時期が大幅に遅れることになったそのため、2009年6月の欧州議会選挙は現行法(ニース条約体制)に基づき行われたが、新しい欧州委員会の任命にも関わってくるため(詳しくは こちら)、2009年度中の発効が新しい目標として定められた。そのため、なるべく早い時期に判断を下すことがドイツ連邦憲法裁判所には求められていたが、同年6月30日、同裁判所は、前掲の三つの国内法の内、BのEUの政策に関するドイツ国内議会の権利拡充・強化に関する法律のみ憲法に違反するとし、残る二つの国内法は、憲法裁判所の解釈に従うならば、合憲とする判決を下した。また、リスボン条約を違憲とは判断しておらず、前掲Bの国内法を改めることを条件に、同条約の批准を認めている。

 判決は非常に膨大であり、@国家連合体としてのEUの性質や加盟国との関係、Aリスボン条約によるEUの権限の拡大(Rdnrdn. 59-71)個別的授権の原則、B欧州議会やEUの民主的統制など(Rdnrn. 36−38)について包括的に論じらているが、かつての争点である 基本権保護 は特に扱われていない(vgl. Rdnr. 35)。それに代わり、EUの政策・立法は加盟国議会を通じて(つまり、間接的に)、民主主義的な正当化がなされなければならないことが主要な論点となり、ドイツ国内法がその要請に応えているかが検討されている。また、従来の基本権審査権限ではなく、補完性の原則個別的授権の原則 の観点から、EUの権限踰越を審査(Ultra-vires-Kontrolle)する権限が連邦憲法裁判所には与えられていることが強調されている。なお、EU法が国内法に優先すること(リスボン条約附属第17宣言参照)や、リスボン条約に基づく管轄権の拡充(刑事・民事に関する司法協力、外交政策、共通防衛政策、社会政策)がドイツ憲法に違反するとは判断されておらず、判決の姿勢は総じて欧州統合に「友好的」であるある。これはドイツ基本法第23条の趣旨に合致するが、もっとも、特に、刑事分野での司法協力については、市民の日常生活に与える影響や民主主義原則に立脚した加盟国の立法権限に密接に関わることを考慮し、以下の点が留保されている。

 

刑事分野での司法協力に関するEUの権限は狭く解釈されなければならず、その行使には特別の正当化事由を要する。

EUの機能に関する条約第83条第1項は、国境を越えた重大犯罪に関する指令を制定する権限を理事会と欧州議会に与えている。同項第3款は、「犯罪の発展に応じ」、その他の(重大な国際)犯罪をも含ませることができる旨を定めるが、これはEUの権限の拡大にあたるため、基本法第23条第1項第2文が定める国内法の制定を必要とする。

EUの機能に関する条約第82条第3項および第83条第3項は、理事会の立法手続を停止させる権利を加盟国に与えているが(いわゆる緊急停止手続)、ドイツ基本法に照らすならば、理事会におけるドイツの代表は、この手続において、ドイツ議会の見解に拘束されなければならない。


 

 また、リスボン条約の発効後も、ドイツが主権国家たりうることや、EUはドイツをはじめとする主権国家によって統制され続けることも確認されている。



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EUの政策・立法に関する連邦議会と連邦参議院の権利拡充・強化にかかる法律

 

〜 連邦政府(行政)と議会の拮抗 〜


 上述したように、2009年6月30日の判決において、ドイツ連邦憲法裁判所は、EUの政策に関する連邦議会(Bundestag)と連邦参議院(Bundesrat)の権利拡充・強化に関する法律のみを違憲としたが、この法律は、EUの立法手続に関する国内議会の権限強化を目的としている。つまり、EUの立法機関である理事会に出席するのは連邦政府の代表であるが、議会に必要な情報をできるだけ早く伝えることを連邦政府に義務付けている。したがって、本来、この法律は、ドイツ連邦憲法裁判所が打ち出した「国内議会による間接的な民主的正当化」の要請に合致している。もっとも、リスボン条約は、欧州理事会やEU理事会が条約の改正手続を経ずに、つまり、国内議会の批准承認手続を必要とせずに、改正することを認めているが(理事会の議決方式について、全会一致から特定多数決への移行〔リスボン条約発効後のEU条約第48条第7項、Rdnr. 53〕)、この点に関し、前掲の国内法は議会に充分な権利を与えておらず、ドイツ基本法第38条第1項や第23条第1項に合致しないと連邦憲法裁判所は判断している(Rdnr. 273)。つまり、現在の条文でも、確かに議会には条約改正を阻止する権限が与えられているが、議会が見解を表明しない場合には、同意するものとして扱っており、これはドイツ憲法に反するとされる。

 なお、この法律は、前掲のリスボン条約の批准に伴うドイツ基本法改正法が発効した後でなければ発効しえない(つまり、基本法改正を踏まえた法律である)。基本法はまだ改正されていないため、同法はまだ正式には採択されていないが(Rdnr. 86)、憲法裁判所は、この法律(厳密には法案)が改正された後でなければ、ドイツはリスボン条約の批准手続を完了してはならないとしている(Rdnr. 4)。そのため、ドイツ国会は夏休み明けの早い時期に審議し、9月中には採択するとみられている。なお、ドイツでは9月27日に連邦議会選挙が予定されているため(その結果を受け、連邦首相は選出される)、議事日程にゆとりはない。

    New ドイツ議会、批准に必要な国内法を整備


 これまでにも、ドイツ連邦憲法裁判所は、EU法の合憲性を争うのではなく、EU法との衝突を避けるため、国内法の改正を要請したことあがるが(参照)、本判決でも、リスボン条約を批准するため、国内法の改正を要請している。




 

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(参照)

ドイツ連邦憲法裁判所判決の要点 

EUや他の加盟国に与える影響

 

ドイツ連邦憲法裁判所の判決(BVerfG, 2 BvE 2/08 vom 30.6.2009

 


リストマーク リスボン条約の批准 

リストマーク 欧州憲法条約


(2009年 6月 30日 記 7月 2日 更新)