2009年6月30日、ドイツ連邦憲法裁判所は、@リスボン条約に基づくEU体制や加盟国からEUへの権限委譲を基本的に承認する一方で、A同条約は条約改正手続を経ない本質的な改正を認めているため、国内議会の立法権限の強化に関し、国内法(現時点ではまだ法案である)の修正が必要であると判断した。なお、Bリスボン条約に基づきEUに与えられる政策分野に関し、市民の日常生活に及ぼす影響や民主主義原則に立脚した加盟国の立法権限に密接に関わることを考慮し、以下のように述べている。
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| 刑事分野での司法協力に関するEUの権限は狭く解釈されなければならず、その行使には特別の正当化事由を要する。
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| EUの機能に関する条約第83条第1項は、国境を越えた重大犯罪に関する指令を制定する権限を理事会と欧州議会に与えている。同項第3款は、「犯罪の発展に応じ」、その他の(重大な国際)犯罪をも含ませることができる旨を定めるが、これはEUの権限の拡大にあたるため、基本法第23条第1項第2文が定める国内法の制定を必要とする。
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| EUの機能に関する条約第82条第3項および第83条第3項は、理事会の立法手続を停止させる権利を加盟国に与えているが(いわゆる緊急停止手続)、ドイツ基本法に照らすならば、理事会におけるドイツの代表は、この手続において、ドイツ議会の見解に拘束されなければならない。
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確かに、ドイツ連邦憲法裁判所の見解は、その他の加盟国やEUの司法機関を拘束するものではないが、その判断は何もドイツという一つの加盟国の特殊性に基づいているわけではない。このことは、違憲と判断された国内議会の権限強化に関する国内法に関しても同様である。つまり、この違憲判断は、ドイツが連邦制度を採用し、議会制度もそれを反映していること(連邦議会と連邦参議院の2院制)を踏まえたものではない。加盟国の主権維持ないし加盟国が独立国家であり続けなければならないことや、加盟国議会を通じた民主的統制は、その他の加盟国憲法上の要請でもあるため、前掲のドイツ連邦憲法裁の判断は、新しいEU法を解釈・適用する上で、参照されなければならないであろう。
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