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星

 
混 合 協 定
  


1.定義

 ある国際条約がECの管轄事項だけではなく、加盟国の管轄事項についても定めていることから、両者に よって締結される条約(協定)を混合協定 (mixed agreements) と呼ぶ。例えば、WTO諸協定の一部である TRIPs 協定やGATS 、また、ACP諸国(アフリカ、カリブ海、太平洋諸国)との間に締結された Lomé 協定などがそれに該当する。 このような国際条約が定める案件について、ECに (完全なる)権限が与えられているわけではないため、加盟国と共に締結しなければならない。ニース条約に基づき、EC条約内には、初めて、混合協定に関する規定が設けられた(EC条約第133条第6項第2款 参照)。



2. 締結

 混合協定に関する権限は、ECまたは加盟国が有するため、両者によって締結される。実務では、加盟国からECに
権限が (完全に)委譲されているかどうか、もし、されているとすれば、混合協定としてではなく、ECが単独で締結することができるかどうか問題になる。

 ECは、EC条約によって明瞭に権限が与えられている場合だけではなく、A 第2次法が制定され、その執行に不可欠な場合には、国際条約を締結することができる(EC裁判所のAETR判決参照)(詳しくは こちら)。このような場合に該当しない場合には、混合協定として、ECと加盟国の双方によって締結されなければならない。



リストマーク W T O 諸 協 定 の 締 結 権 限  リストマーク

EC裁判所の意見 (Opinion 1/94 WTO [1994] ECR I-5267)


 ウルグアイ・ラウンドの成果として、1994年には多くの協定が締結されたが、主要協定である GATT、GATS、TRIPs協定の締結権限について、EU内部では争いが生じた。特に、EC条約第133条は、通商政策
に関する権限をECに完全に与えており、政策の一環として、ECに条約締結権限を与えているが(この権利は、加盟国からECに完全に委譲されている)、これに基づき、ECはWTO諸協定を締結することができるかどうかが問題になったが、1994年に下された 意見 において、EC裁判所は以下のように判断している。

リストマーク GATT の締結権限

  GATT は物品の貿易について定めているが、それに関する権限は、加盟国からECに完全に委譲されている。それゆえ、GATT はECが単独で締結しうる(paras. 22 et seq. )。


リストマーク GATS の締結権限

 サービスの貿易について定める GATS は以下の理由に基づき、混合協定となる (paras. 36 et seq.)。

人の移動を伴わないサービス貿易(例えば、提供者はA国に住み、受給者はB国に住む場合)は、物品の貿易に相当する。そのため、このような貿易は、EC条約第133条の適用範囲となり、ECは排他的権限を有する (para. 44)。

人の移動を伴うサービス貿易については、加盟国が権限を有する。
もっとも、EC第2次法が制定され、第3国の国民の権利やECの交渉権限が定められるときは、ECに排他的権限が与えられる (paras. 45 et seq.)。

 
リストマーク TRIPs 協定の締結権限

 模倣品の自由流通禁止に関する措置を除き、TRIPs 協定内の規定は、共通通商政策の対象にならない。また、従来、ECは知的所有権の保護に関する第2次法を制定していないため、ECの権限は派生しない。そのため、TRIPs協定は、ECと加盟国の双方によって締結されなければならない (paras. 54 et seq.)。




アムステルダム条約とニース条約による改正


 サービス貿易と知的所有権の保護に関する協定について、アムステルダム条約は、理事会の全会一致に基づき締結することができる旨を定め、ECによる協定締結を可能にしている(EC条約第133条第5項)。もっとも、フランスの要請を受け、ニース条約は、ECのこの権限を制限している。つまり、文化やオーディオビジュアルに関するサービス、教育、社会、健康の分野におけるサービスについては、ECと加盟国が共に条約締結権限を有し、混合協定として締結される(第133条第6項第2款)。

   リストマーク 詳しくは こちら





3. 解釈・効力
 

 ECと加盟国が共同で締結した混合協定は、発効後、EC法の一部となり、ECと加盟国を拘束する(Case 181/73 Hageman [1974] ECR 449, paras. 2/6; Case 87/75 Bresciani [1976] ECR 129, para. 17)。

  リストマーク 参照

 また、その解釈に疑義が生じる場合は、EC裁判所に判断を求めることができる。加盟国も権限を有することを強調すると、加盟国の裁判所も判断を下しうると解されるが、EC内における解釈の統一性を図るため、EC裁判所はこれを否定している。

 他方、混合協定の効力に関しては、加盟国の裁判所が独自の判断を下してよい。加盟国が管轄権を有する規定について、EC条約第300条第7項 は適用されないため、国内裁判所は、国内法に照らし、判断することになる。



4. 履行

 混合協定はECと加盟国によって締結されるとはいえ、制定過程や履行に際し、両者の見解を調整し、国際舞台における行動を統一するため、両者は協力しなければならない (Opinion 1/94 WTO [1994] ECR I-5267, para. 109)。特に、紛争解決手続や議決に関して、ECと加盟国は協力し合わなければならない (Case C-25/94 Commission v Council [1996] ECR I-1469, paras. 48 et seq.)(加盟国の協力義務について、EC条約第10条も参照されたい)。議決権の行使については、通常、欧州委員会とEU理事会(理事会は加盟国の利益を代表する)の間で取り決めがなされるが、ECが代表して議決権を行使するときは、欧州委員会によって行使される。




リストマーク 混合協定について、こちら も参照