通 商 協 定 の 締 結 |
通商政策の一環として、ECは第3国ないしその他の国際機関と多くの協定を締結している(例えば、1994年のGATTT)。その手続について、EC条約第133条は以下のように定めている。なお、通商協定とは異なる、その他の協定の締結について、EC条約は別個定めている(第300条、第310条など)。 |
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協定締結の交渉に先立ち、欧州委員会はEU理事会に提案する(第133条第3項第1款)。 |
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理事会より委任され、欧州委員会は、ECを代表し、第3国ないしその他の国際機関と交渉する。なお、ニース条約に基づき、理事会と委員会は、協定がECの政策や法令に合致するよう留意しなければならないとする規定が導入された(第133条第3項第1款)。 |
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委員会を補佐するため、理事会は特別部会を設ける。委員会はこの部会と協議し、また、理事会が指針を定める場合には、それに従いながら交渉を行う。なお、ニース条約に基づき、委員会は交渉の発展状況について、特別部会に定期的に報告することが義務付けられた(第133条第3項第2款)。 |
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上掲の案件につき、理事会は特定多数決にて決定する(第133条第4項)。なお、欧州議会の関与については全く定められていない(サービス貿易と知的所有権に関する協定の締結については、後述するように、理事会は議会の見解を聞かなければならない場合がある)。 |
近年、第133条定は、EC条約が改正される度に修正されている。変化が見られるのは、人の移動を伴うサービス貿易と知的所有権に関する協定の締結についてであるが、1994年11月、EC裁判所は、これらの新しいタイプの協定(GATSとTRIPs協定)の締結権限を否認した(詳しくは
こちら)。これを受け、加盟国は、1997年10月のEU・EC条約改正(アムステルダム条約)の際に、第113条に第5項を挿入し、ECによる締結を可能にしている。もっとも、一度も適用されることがない内に、この規定は2000年12月の条約改正(ニース条約)によって再び修正され、現行法は次のように定めている。 |
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前述した一般手続(第113条第1項〜第4項)は、サービス貿易に関する協定にも適用されるが(第113条第5項第1款)、文化やオーディオビジュアルに関するサービス、教育、社会、健康の分野におけるサービスについては、ECと加盟国が共に締結権を有し、混合協定として締結される(第113条第6項第2款)。また、その他のサービスに関する場合であれ、加盟国は従来の協定を存続させたり、また、新たに協定を締結することができる。もっとも、EC法やその他の国際協定に違反してはならない(第113条第5項第4款)。 |
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同様に、知的所有権の貿易的側面に関する協定についても、前述した一般手続(第113条第1項〜第4項)が適用される(第113条第5項第1款)。なお、アムステルダム条約とは異なり、ニース条約は、貿易的側面に限定しているが、現行第7項によれば、EU理事会は全会一致で、その範囲を拡大することができる(簡易なEC条約改正手続)。この決定に先立ち、理事会は欧州議会の見解を聞かなければならないが、それに拘束されるわけではない。 |
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サービス貿易と知的所有権の貿易的側面に関する協定について、以下のような場合、EU理事会は全会一致にて決定する。なお、欧州議会の権限については全く定められていない(第113条第5項第2款)。
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運輸に関する協定は、通商政策より除外され、従来通り、第5編および第300条の規定に基づき交渉・締結される(第113条第6項第3款)。 |
ECが締結する協定は、通商政策だけではなく、その他の政策にもまたがる案件を含んでいることも少なくない。そのため、第133条だけではなく、その他の規定が根拠条文として挙げられることも少なくない。なお、ニース条約によって新たに加えられた第133条第6項は、協定がECの内部権限(域内における権限)を超える事項について定めるときは、EU理事会は締結しえないと定める。特に、国内法の調整が禁止されている分野において(第150条第4項、第151条第4項第c号、第152条)、協定を締結し、国内法の調整を行うことが明文で禁止されている。もっとも、知的所有権に関し、理事会は全会一致にてこれを変更しうる(第133条第7項)。 通商政策に関する権限は加盟国からECに完全に委譲されているため、第3国やその他の国際機関との協定は、ECによって締結されるが、協定がその他の政策事項についても定めており、その権限は加盟国の下に残されているような場合は、ECと加盟国の双方によって締結される(混合協定)。
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