通 商 政 策 の 分 野 に お け る E C の 権 限 |
1. ECの権限の排他性 EC(EEC)条約は、12年、3段階からなる過渡期間について定めていたが(旧第7条、旧第13条、旧第112条参照)、この期間は1970年に終了している。それに伴い、通商政策に関する権限は加盟国からECに完全に委譲されたとEC裁判所は判断している。つまり、通商政策に関する権限は、ECのみが有しており(ECの権限の排他性)、加盟国は、もはや、第3国やその他の国際機関との貿易に関する措置を独自に定めることができない[1]。もっとも、EC条約(例えば、第296条ないし第134条)や、EC第2次法[2]によって例外が認められる場合にはこの限りではない[3]。(EC法に合致した)ある加盟国の措置によって、他の加盟国が深刻な状況に陥り、委員会の勧告に従っても事態が改善されない場合には、委員会は、必要な保護措置の発動を加盟国に許可しうる(第134条参照)。 |
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また、ECの通商政策がまだ実施されていない場合には、加盟国は独自の措置を講じうる。ただし、その場合でもEC条約に違反してはならないし、将来のECの政策の発展を妨げるような措置は望ましくないと考えられる。 通商政策の分野におけるECの権限は排他的であるため、補完性の原則(EC条約第5条は適用されない。また、通商政策に関わる国際協議で当事者となりうるのは加盟国ではなく、ECとなる。従って、通商条約は、加盟国ではなく、ECによって締結される(後述「混合協定」参照)。 EC条約第133条第1項は「共通通商政策は共通の原則に基づき形成される」と定める。従って、ECの権限は原則を定めることに限定され、政策を執行する権限は加盟国に属するという考えも成り立ちうるが、EC裁判所はこの見解に従わず、両権限はECにのみ帰属する旨を明らかにしている。これは、加盟国が政策執行権限を有するとすれば、政策の実効性や統一性は保証されず、ECの利益が害される恐れがあるとの理由に基づいている[4]。
2. AETR原則 EC裁判所の判例によれば、ECの権限は、EC条約で明定されている場合以外にも、ECの諸機関が発した第2次法に基づき派生する(AETR原則)[5]。同原則は通商政策にも適用されるため、EC条約は対内的な権限のみを規定するものの、その権限に基づき第2次法が制定され、第3国と国際条約を締結する権限(すなわち、対外的権限)がECに与えられる場合には、その範囲においてECは対外的な権限を有する。もっとも、この権限の行使は、対内政策(EC市場統合)の遂行に必要な場合にのみ許容される。 ![]()
3. 混合協定(Mixed Agreement)の締結 ところで、開発途上国の援助政策および一般的な経済政策の分野におけるECの権限は排他的ではなく、基本的な権限は加盟国の下に残っている[6]。そのため、ある協定が通商政策上の性質のみならず、開発援助政策ないし一般的な経済政策上の性質を有する場合(混合協定mixed agreement)、ECまたは加盟国のいずれが同協定を締結する権限を有するかどうか(またはECと加盟国が共同で締結しなければならないかどうか)が問題になる。EC裁判所の判断によれば、この問題は協定の本質に照らして判断すべきであるとされる(協定の副次的ないし補助的な内容を基に判断してはならない)[7]。また、同裁判所は、EC加盟国が財政活動を目的とした国際機構の財政を負担する場合と、単に国際機構の運営経費を負担する場合とを区別し、後者の場合には、ECに条約締結権限があると判断している[8]。
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[1] See Opinion 1/75, Lokale Kosten [1975] ECR 1355 (1363); Case 41/76, Donckerwolcke [1976] ECR 1921 (1936); Opinion 1/78, Internationales Naturkautschuk-Übereinkommen [1979] ECR 2871 (2910). [2] 例えば、理事会の規則または決定に基づき、加盟国には自らがEC設立以前に締結した条約の更新が認められる。See Streinz, Europarecht (C.F. Müller Verlag 2001, 5th. edition), para. 625. [3] See Case 174/84, Bulk Oil v Sun [1986] ECR 559 (586). [4] Opinion 1/75, op. cit., p. 1363; Opinion 1/94, WTO [1994] ECR I-5267 (5395). [5] Case 22/70, AETR [1971] ECR 263 (paras. 15/19). [6] 開発援助政策に関する基本的な権限は加盟国の下にあり(EC条約第177条〜第181条参照)、また一般的な経済政策の分野において、ECは加盟国の国内政策を調整しうるに過ぎない(EC条約第4条第1項、第98条、第99条および第122条参照)。 [7] 国際天然ゴム協定に関し、EC裁判所は、確かに同協定には開発援助政策および一般経済政策に関する規定が盛り込まれているが、同協定は主として通商政策上の性質を有するため、ECが共通通商政策上の権限に基づき締結しうると判断した。See Opinion 1/78, op. cit., para. 56. [8] Opinion 1/94, op. cit., para. 21. |
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