EC裁判所判決
Case 22/70, Commission v Council (AETR) [1971] ECR 263
1. 事案の概要
1962年、EEC加盟5カ国(当時、EECには6カ国が加盟していた)と他の欧州諸国は、ヨーロッパ国際道路運送業従事者に関する条約(AETR)を締結したが、批准手続が滞り、条約は発効するに至らなかった。1967年には、この条約の見直しが行われるようになったが、関連する問題についてはEC内でも並行して検討され、理事会は以下の措置を講じた。
@ |
道路運送に携わる者の勤務時間と休息に関する規則 (Regulation 543/69, OJ
1969 L 77, 49) の制定
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A |
AETR 締結交渉において、加盟国のとるべき立場の決定 (proceedings)
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しかし、欧州委員会は、EC条約第71条(旧第75条)に基づき、すでに@の法令が発せられているため、AETRの締結権限も加盟国からECに完全に移譲されていると考え、Aの決定は、ECの条約締結権限を侵害するとしてEC裁判所に提訴した。
これに対し、理事会は、運輸政策 の分野において、ECの条約締結権限は明瞭に定められておらず、仮に、ECがこの権限を有するとしても、それは排他的なものではなく、加盟国も共有しうると反論した。
2. EC裁判所の判決
運輸政策 の分野に関する条約の締結権限について、EC条約は明瞭に定めていないため、第3国との関係に関する一般規定に照らし判断しなければならないが、第281条(旧第210条)は、ECが法人格を有すると定めており、ECが第3国と条約を締結しうることを認めている(paras.
13/14)。この権限は、第133条(旧第113条)や第310条(旧第238条)のように、明文の規定で定められている場合だけではなく、その他の条約規定や第2次法より派生する。このことは、ECの目的 を実現するため、すでに 第2次法 が制定されており、もはや加盟国は単独で第3国と交渉しえないような場合に、特に当てはまる。第2次法の実効性を保障するため、第3国との交渉はECのみによって行われる必要がある。そのため、第2次法の規定より、第3国との関係に関する対外的な権限も生じる(paras.
15/19)。
また、第10条(旧第5条) は、EC法上の義務を履行するために必要なあらゆる措置を講じるよう加盟国に命じており、また、EC条約の目的実現を阻止しかねないあらゆる措置を控えるよう命じている(paras.
20/22)。
これらの点を踏まえると、すでに、理事会によって規則(前掲@)が制定されており、AETRの規定事項は、この第2次法の範囲に含まれるため、ECがその締結権限を有すると解される。また、共通市場の統一性やEC法の適用の統一を考慮すると、条約締結権はECのみが有しており、加盟国がこれを共有するとは解されない(paras.
30/31)。
もっとも、AETR交渉はすでに1962年、つまり、前掲@の規則が1969年に制定される前より行われているため、前掲Aの決定は、ECの条約締結権限や欧州委員会の交渉権を侵害するものではないとEC裁判所は判断している。
発展
前述したAETR 判決では、すでに制定された第2次法より、対外的な権限が生じることが明確にされているが、第2次法の制定前であれば、加盟国は自由に第3国と条約を締結することが許されるであろうか。この問題について、EC裁判所は、前述した
EC条約第10条 の義務に鑑み、加盟国は後に発せられる第2次法の実効性を害するような行為を行ってはならないと判断している (Joined Cases 3, 4
and 6/76 Kramer [1976] ECR, 1279 (paras. 39/45))。
また、1977年、EC裁判所は、第2次法の制定前であっても、国際条約の締結がECの目的実現に必要な場合は、ECに条約締結権限が与えられると判示しているが
(Opinion 1/76 Stilllegungsfond für die Binenschifffahrt [1977] ECR 741 (paras. 3 et seq.))、1994年に下された意見(WTO諸協定)では、再び厳格に捉えている。
なお、AETR 判決では、共同市場 やEC法適用の統一性も論拠として挙げられているが、この点を考慮するならば、もっぱら国内法を調整(統一ではない)するために第2次法が制定されている場合には、この第2次法に基づき、対外的な権限が派生するとは解されない(Streinz,
Europaereht, 6th edition, para. 594)。
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