はじめに
従来通り、基本諸条約は、諸機関の中で、まず欧州議会について定めているが(EU条約第13条第1項、第14条、EUの機能に関する条約第223条~第234条)、これはEU市民によってメンバーが直接選出される同機関の民主的基盤を考慮したものである。組織的にも、議員は、従来のように、加盟国の国民の代表と捉えるのではなく、EU市民の代表と定められるようになり(EU条約第14条第2項第1文、第10条第2項参照)、EUの立法機関としての民主的正当性が強化された(参照)。欧州議会が、理事会とともに立法機関の一つであることも明記されているが(第14条第1項、第16条第1項)、最大の論点である議会の議席配分を基本諸条約の中で特定することは見送られた(第14条第2項参照)。
1.組織
前述したように、新EU条約は、EU市民はEUレベルで直接的に、欧州議会において代理されると定め(第10条第2項)、欧州議会の民主的正当性を強化している。また、議員は加盟国の国民の代表ではなく、EU市民の代表と改められていることに照らし、各国別の議席配分も基本諸条約より削除されている(従来のEC条約第190条第2項参照)。代わりに、EU条約第14条第2項は、議席の上限を750とし(これに議長1名が加わる、こちらを参照)、各加盟国から少なくとも6名、また、最大で96人と定める。なお、議席の配分は従来通り、各国の人口を考慮して決定されるが(第14条第2項第1款)、詳細は、欧州議会の提案に基づき、また、その同意を得て、欧州理事会が全会一致にて決定する。
リスボン条約が発効する前の2009年6月に実施された選挙によって選出された議員の総数は736であり(詳しくは こちら)、新EU条約が設ける上限(750 + 1)を下回っているが、欧州理事会は、すでにこれを上回る議席数について合意している(詳しくは こちら)。
前掲の枠組みによれば、最も人口の多いドイツの議席数は、従来の99から96に減少し、逆に最も人口の少ないマルタの議席は5から6に増加する。また、そもそも人口に完全に比例させた議席配分は、従来通り、不可能であるが、国際舞台における各国の形式的平等を考慮すれば、正当化されると解されている
。なお、この 議席不均衡問題 は、理事会または欧州理事会の議決方式(人口を考慮した二重の特定多数決制度)によって修正することができる(詳しくは こちら)。
2. 権限
(1) 立法権限
基本諸条約が改正されるごとに、欧州議会の立法権限は強化されてきたが、リスボン条約はさらに拡充し、理事会と同等の立法機関としている(EU条約第16条第1項参照)。例えば
農業政策 や EUの第3の柱 の分野において、これまで欧州議会には諮問権限しか与えられていなかったが (参照)、現在は、EU理事会と共同で法律を制定する権限が与えられている。なお、両機関の見解が整わない場合、理事会の意思決定が優先する「協力手続」(EC条約第252条)は廃止された。
第2次法は、原則として、欧州議会と理事会に対等の権限が与えられている「通常の立法手続」(EUの機能に関する条約第294条)に従い制定される。
(2) 諮問・承認権
ただし、議会には拘束力のない意見を述べうるに過ぎないか(第21条第3項、第81条第3項)理事会の意思決定を単に承認しうるに過ぎない(第352条第1項)、「特別の立法手続」(第289条第2項)も残されている。この手続は加盟国の重大な利益に大きく関わる案件の採択に適用されるが(つまり、欧州議会の関与を弱め、加盟国の代表で構成される理事会によって第2次法が制定される)、リスボン条約は「特別な立法手続」を「通常の立法手続」に変更する手続(簡素な条約改正手続)についても予め定めている(EU条約第48条第7項第2款)。
・条約締結手続における議会の役割については こちら
基本諸条約の制定・改正は、通常、加盟国によって行われ、EUが決定するわけでもないため、EUの機関である欧州議会に意思決定権は与えられていない(議会の初案権について、後述(3)参照)。なお、基本諸条約の改正に際し、通常は、欧州理事会によって協議会(Convent)が招集されるが、欧州議会の同意を得て、招集しないこともできる(EU条約第48条第3項第2款)。
(3) 発案権
従来通り、欧州議会には法案を作成する権限は与えられておらず、欧州委員会に要請しうるのみである(EUの機能に関する条約第225条第1文)。なお、この要請に従わない場合、委員会は議会に理由を述べなければならないことが新たに規定された(第2文)。
他方、基本諸条約の改正に際し、欧州議会には新たに発案権が与えられることになった(EU条約第48条第2項)。
(4) 欧州委員長の選出
欧州委員長の選出に関し、これまで、議会にはEU理事会が指名した候補を承認する権限しか与えられていなかったが、委員長を選出しうるようになった(ただし、候補は欧州理事会によって指名される。EU条約第14条第1項第3文、第17条第1項第1款第2文)。
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2004年7月22日、欧州議会によって次期、欧州委員長に承認された Barroso 氏(当時のポルトガル首相、詳しくは こちら)
なお、当時、欧州議会は、EU理事会が指名した候補を承認する権限しか与えられていなかったが、リスボン条約体制下では、委員長は議会によって選ばれる。
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(5) 欧州委員会の統制
こちらを参照
(6) 予算の編成
従来より、予算編成手続において、欧州議会には 、通常の立法手続より強力な権限が与えられていたが、リスボン条約はさらに強化している。つまり、いわゆる「必要的支出」と「非必要的支出」の区別が廃止され、議会には、前者についても最終決定権限が与えられることになった。なお、同時に、理事会も決定権を持つことから、両機関の見解を調整するための手続が設けられた(EUの機能に関する条約第314条第4項第c号)。この手続において、両機関のメンバーないしその代表は、21日以内に妥協案を作成
し、その14日以内に、両機関が妥協案を採択すれば、予算が成立する(第5項~第7項)。他方、議会は妥協案を支持するものの、理事会が採択しない時は、議会の立場
を優先させ、予算を成立させることができる(第314条第7項第d号)。
3. 議決方式
こちらを参照
4. リンク
欧州議会の公式ホームページ 英語版 仏語版 独語版
・ 欧州議会議長
・ 前議長
・ 2009年6月の欧州議会選挙
・ 2004年6月の欧州議会選挙
・ 選挙法
・ 議席の不均衡
・ 欧州議会の性格
・ 欧州議会の本拠地をめぐる争いについて
・ 議員の報酬
・ サンテール欧州委員会の辞任と欧州議会制度
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