欧 州 議 会 の 本 拠 地


 欧州議会の本拠地をめぐる議論は絶えないが [1]、1992年、加盟国政府の代表は、本拠地をフランスのストラスブールとすること、また当地で(年間)12回の月例総会と予算審議を行い、それ以外の総会と委員会はブリュッセルで開催されることを決定した(エディンバラ決議 [2])。さらに、同決議では、欧州議会事務局およびその庁舎はルクセンブルクに残存することが確定された。マーストリヒト条約の修正協議において、この決議の内容は確認され、アムステルダム条約の第12議定書 [3](第a項)の中で明記されている。

 ところで、欧州議会が前掲のエディンバラ決議に反し、ストラスブールでの総会を11回に制限することを決定した際、フランス [4]EC裁判所に提訴し、この決定の 無効確認 を求めた。この訴訟において、EC裁判所のレンツ(Lenz法務官 (Advocate General)は、エディンバラ決議の趣旨は、欧州議会の本拠地をストラスブールにすることにあり、総会の回数は必ずしも12回でなければならないわけではないと述べているが [4a]EC裁判所はこれに従わず、総会の開催数を12回に確定した [5]。それゆえ、前述したアムステルダム条約の第12議定書もこのように解釈すべきであろうが、EC裁判所の判断は欧州議会の自律権を制限するだけではなく、場合によってはエディンバラ決議の趣旨に反した事態も生じかねない。すなわち、規定通り、ストラスブールで12回の総会が開催される傍ら、ブリュッセルでも総会や委員会が開催され、その頻度が増せば、欧州議会の本拠地は、実質的に、ストラスブールからブリュッセルに移転することもありうるためである [6]



 エディンバラ゙決議
 (加盟国政府の決議)

ストラスブールを本拠地とする。
同地で年12回の月例総会を開催する。

 欧州議会の決定

ストラスブールでの総会を年11回に制限する。

 レンツ法務官の見解

ストラスブールでの総会が年11回に制限されようとも、ストラスブールが本拠地であればよい。

 EC裁判所の判決

ストラスブールで総会が年12回開催されなければならない。





本 拠 地 に 関 す る 議 論、再 燃


 毎月開催される月例総会に出席するため、欧州議会の議員や助手は、ベルギーのブリュッセルから、フランスのストラスブールに移動しなければならない。膨大な書類を携えての「巡回」は非常に煩雑で、非効率的であるとされているが、その費用は、現在、年間に2億ユーロにも達するとされる。それに加え、ストラスブール市は、議会庁舎の賃料を取りすぎていたことが一部の議員の調査によって明らかになり、本拠地に関する議論が再燃している。庁舎はオランダの年金フォンド SCI-Erasme が所有しており、これをストラスブール市が借り受け、議会に転借している。その際、ストラスブールは高額の賃料を請求しており、過去25年間で少なくとも2500万ユーロの利潤を得たとされる(参照)。

 時間と金銭の無駄遣いを無くすため、欧州議会はブリュッセルへの移転を希望していると解されるが、前述したエディンバラ決議の改正には、全加盟国の賛成を必要とする。フランス政府は、ストラスブールからの移転に反対しているため(欧州議会がブリュッセルに移転すれば、国内からECの主要機関が無くなる)、合理的な提案が採択される可能性は全くない。2006年6月の欧州理事会で再検討すべきとする見解も出ていたが、現議長国オーストリアの Schüssel 首相は、その必要性すら否定している(参照)。


 New 2006年6月の欧州理事会で、議会の本拠地に関する問題は話し合われなかった(参照)。



(参照)

Der Standard v. 16. Mai 2006 (Konservative gegen Debatte um EU-Parlamentssitz Strassburg)

Die Presse v. 18. Mai 2006 (EU-Gipfel: Schüssel gegen Debatte über Parlaments-Sitz)


(2006年6月9日 記)







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 欧州議会

 
議員の報酬






[1]      この点に関する法的紛争つき、山根裕子『EU/EC 欧州連合の基礎』(有信堂、1996年)97頁以下参照。

[2]      Decision taken by common agreement between the Representatives of the Governments of the Member States on the location of the seats of the institutions and of certain bodies and departments of the European Communities, OJ 1992, No. C 341, p. 1.

[3]       Protocol on the location of the seats of the institutions and of certain bodies and departments of the European Communities and of Europol.           

[4]      フランスは、欧州議会の活動の本拠地が自国のストラスブールから他国の都市(ベルギーのブリュッセル)へ移転することを阻止しようとした。

4a   Vgl. Schlusantrage des Generalanwalts Lenz in der Rs. C-345/95, Frankreich/EP, Slg. 1997, S. I-5127 ff. (Rdnrn. 35 ff.).

[5]      そのためEC裁判所は欧州議会の決議を無効と宣言した。Cf. ECJ, Case C-345/95, France v. EP, [1997] ECR, I-5215.

[6]      Vgl. Alber, ZEuS 1999, 487 ff. (489).




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