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EUの旗

2006年6月 欧州理事会の最終決議



 2006年6月15・16日、ブリュッセルにおいて 欧州理事会 (EU加盟国首脳会議)が開催された。前年6月の欧州理事会で、いわゆる Plan D (欧州憲法条約の再検討期間)が採択されてから1年、憲法条約の「将来」について議題が集中したが、主な決定事項は下記の通りである。


オーストリアの Schuessel首相と欧州委員会のBarroso委員長

議長国オーストリアの Schüssel 首相(左)と欧州委員会の Barroso 委員長

写真提供 © European Community 2006

リストマーク 憲法条約に関するアプローチ

 2005年5・6月、フランスオランダ で行われた国民投票で、欧州憲法条約の批准が否決されたことをきっかけに、同条約の発効が危ぶまれている。同年6月の欧州理事会は、いわゆる Plan D (欧州憲法条約の再検討期間)を導入を決定し、2006年前半に 再び協議することを決めている(参照)。これを受け、欧州理事会は現在の状況を確認すると共に、これまで行われてきた議論の結果を出し、その実現に集中して取り組む必要があるとし、以下の2点を決定した。


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EU市民が求める結果を生み出すために、現行条約制度の可能性を最大限に利用する(para. 46)。

つまり、欧州憲法条約の発効を待たず、ニース条約 を最大限に活用する。なお、このような提案は、憲法条約の批准を否決したフランス政府より提唱されていた。


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2007年上半期、議長国は、加盟国と詳細に協議した後で、報告書を提出し、憲法条約やEUの発展について提案する(para. 47)。この報告書を基に欧州評議会は議論 を重ね、遅くとも2008年下半期までに必要な措置を講じる(para. 48)。

2006年上半期、議長国を務めるのはドイツ、また、2008年下半期、議長国を務めるのはフランスであり、両国のイニチアチブが試されることになる。このアプローチについて、独仏首脳は、すでに2006年6月6日の会談で合意している(参照)。なお、2007年上半期には、欧州憲法条約の批准を否決した フランスオランダ で大統領選挙ないし国政選挙が予定されており、憲法条約に関する議論はその後でなければ、実質的に開始されえないことがかねてから指摘されてい る(参照)。2008年までに必要な措置が講じられるべきとされているのは、2009年6月に欧州議会選挙が予定されており、その際、EU市民に信任を問うこと を可能にするためである。



 さらに、欧州理事会は、EEC条約締結50周年 を記念し、2007年3月25日、ベルリンにおいて、政治宣言を採択することを求めている(para. 48)。その中で、ヨーロッパの価値観や将来の目標が示されることになろうが、これは、欧州委員会の Barroso 委員長の発案に基づくものと解される(参照)。



リストマーク EU拡大

 欧州理事会は、EU拡大が新規加盟国だけではなく、EU自身にも与える意義を確認した上で、第5次拡大が予定通り、2007年元旦に実現されうるよう、ブルガリアルーマニアに対し、より精力的な制度改革を要請している。また、欧州委員会に対して、遅くとも2006年10月初頭までに、両国の加盟に関する報告書を提出するよう求めている(paras. 51-52)。なお、2006年5月の報告書で、委員会は結論を保留している(参照)。

 また、トルコクロアチアとの間で、スクリーン作業が進展し(参照)、詳細な協議が開始されたこと(参照)を歓迎する一方で(paras. 54-55)、トルコが関税同盟の拡大より生じる義務を適切に履行していないことに懸念を示し、2006年内に状況を改善するよう要請している。さらに、コペンハーゲン基準の充足や近隣国との友好関係の構築に向け、より徹底した取り組みをトルコ政府に求めている(para. 54)。

 なお、2006年12月、欧州理事会は、EU拡大の影響(EUの政策、財政、統治機構に及ぼす影響)、EUの受け入れ能力、また、拡大プロセスの改善など、拡大に関するあらゆる問題について検討することになった( 2006年12月の欧州理事会)。それに先立ち、欧州委員会には、EUの受け入れ能力などについて、報告書を提出することが求められている(para. 53)。




リストマーク EUの受け入れ能力 リストマーク


 第3国のEU加盟に際し、EUが同国を受け入れことができるかどうかは(EUの受け入れ能力)、特に、高人口国トルコの加盟を想定し、オーストリア政府によって強調されていた。2005年10月、EU理事会(外相会議)は、これを新たな加盟要件として位置づけていると解されるが(詳しくは こちら)、2006年6月16日、欧州理事会終了後のプレス・コンファレンスにおいて、欧州委員会の Barroso 委員長 は、これは、EU加盟に関する新しい要件ではないと述べている。もっとも、第3国の加盟に際しては、EUの受け入れ能力も考慮されるとしており、その判断 基準の一つに、EU市民の態度が含まれることを指摘している。これに対し、現理事会議長国の Schüssel 首相は、すでに2005年10月のEU理事会で、受け入れ能力 は「条件」(Bedingung)として了承されていると反論している。なお、2006年6月の欧州理事会では、このようなオーストリア政府の主張は厳格すぎるとして、イギリスやスウェーデン、中東欧諸国の支持を得られなかった。また、フランスも最終的に反対に回ったとされる。


(参照) Der Standard v. 16. Juni 2006 (Schüssel blitzt mit Beitrittshürde ab)
 

Die Presse v. 16. Juni 2006 (Schüssel blitzt ab)







リストマーク 持続可能な発展

 2001年6月、欧州理事会は持続的な発展(次世代の可能性を損ねることなく、現在の要請を満たすこと)を達成するためのプログラム(SDS)を採択した。これを受け、一連の政策が実施されているが(参照)、地球環境問題やエネルギー問題の深刻化を受け、欧州理事会はプログラムを包括的に見直した(参照)。新しい戦略の重点は以下の分野に置かれている。

  ・ 地球環境の保護

  ・ 社会的正義の実現、人権と異文化の尊重、あらゆる差別の撲滅

  ・ 経済成長

  ・ 世界平和、安全と自由の保障に対する貢献


 なお、経済成長と雇用拡大を強化するプログラムとして、欧州理事会はすでに リスボン戦略 を採択している。同戦略は、とりわけ、EU企業の競争力強化、経済成長および雇用の創出に重点を置く一方で、「新しい持続可能な発展に関する戦略」(SDS)は、次世代に不利益を与えない発展や社会的正義の実現に焦点を当てているが、両者は互いに補完しあうものとされる。





リストマーク 立法手続の透明性向上

 EU理事会の審議が公開されていないことは、かねてより批判されてきたが、欧州理事会は、EU理事会の審議や投票結果を公表する方針を決定した(詳しくは こちら)。



リストマーク 欧州議会の本拠地

 欧州議会の本拠地移転について、近時、議論が再燃しているが(参照)、フランス・ストラスブールからの移転案に加盟国は難色を示していることが事前に明らかになった。そのため、欧州議会の Borrell 議長 は審議要請を撤回しているが、これを受け、EU理事会は審議していない



リストマーク EU基本権庁

 理事会議長国オーストリアは、自国内設置が予定されているEU基本権庁について、強い関心を示したが、加盟国間の見解はまとまらなかった(詳しくは こちら)。






(参照)

欧州理事会の最終決議(EUの公式サイト) (PDF File)

 持続可能な発展に関する決議(EUの公式サイト)(PDF File)


2006年上半期の主要課題


オーストリアとEU The Sound of Eurpoe


EU・ロシア首脳会談(2006年5月:エネルギー問題)

EU統合の一進一退


2006年3月の欧州理事会


オーストリア国旗 オーストリア理事会議長国の公式サイト
 


(2006年6月17日 記