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トルコのEU加盟問題と トルコ国旗
オーストリア国旗オーストリア


オ ー ス ト リ ア の 抵 抗

 2005年10月3日、EU加盟国は、トルコとのEU加盟交渉を開始する予定であるが、それを真近に控えた9月29日に至っても、加盟国は、交渉手続の枠組みについて合意していない。これは、オーストリア政府の根強い抵抗に基づいているが、同政府は、交渉が開始される前の段階において、交渉が失敗に終わる可能性について明確に定めておくべきと主張している。つまり、EU加盟に代わる案(特権的パートナーシップの締結)について規定するよう求めているが、他の加盟国の支持を得るには至っていない。2005年9月の外相会議でも、オーストリアの要請は退けられている(詳しくは こちら)。



リストマーク オーストリア政府の見解:@A

オーストリア政府の提案する交渉枠組み(ドイツ語)




 オーストリア政府が代替案を提唱する背景には、国民の大半がトルコのEU加盟に反対していることがある(詳しくは こちら)。この点について、同国の Plassnik 外相は、多くのEU市民(オーストリア国民に限らない)の声に耳を傾け、責任のある態度で臨む必要があると述べている(参照)。

 また、トルコが全ての 加盟要件 を満たすことは非現実的であるとする考えや、そもそも、EUはトルコを受け入れるだけの余裕がないとする見解も主張されている(参照)。


 さらに、かねてより、クロアチアのEU加盟を支持しているオーストリアは、交渉の切り札として、トルコとの交渉に異議を唱えていると解される。2005年3月、EU理事会(外相会議)は、クロアチアとの加盟交渉延期を決定し、現在でも、交渉は開始されていないが(詳しくは こちら)、近く開かれる会議でこれが了承されれば、オーストリア政府は、トルコとの交渉にも同意するとみられている。なお、9月29日付けの Financial Times 紙において、同国のSchüssel 首相(写真右)は、トルコとの加盟交渉を開始するならば、クロアチアとの交渉も開始すべきであるという趣旨の発言をしている(参照)。これに対し、欧州委員会は、両国との加盟交渉を同一に扱ってはならないと批判しているが(参照)、オーストリア外務省高官は、両者を同一に扱っているわけではないが、クロアチアに対するハードルを高くすること(国連旧ユーゴスラビア刑事裁判所への協力)は受け入れがたいと反論している(参照)。

オーストリアの ヴォルフガング・シュッセル首相

Schüssel 首相

写真提供
Audiovisual Library European Commission


リストマーク Schüssel 首相の見解:@A


 また、9月29日付けの International Herald Tribune 紙において、Schüssel 首相は、オーストリアは加盟交渉の開始を脅かそうとしているいるのではなく、交渉過程を良い方向に変えようとしているだけであると述べている(参照)。

 なお、オーストリアの抵抗は 、直前に控えた国内選挙(Stiermark 州の州議会選挙)を考慮したものとする捉え方も有力であるが、同国政府は、このような見方を否定している。


 欧州委員会の Rehn 委員(EU拡大担当)の報道官は、加盟交渉枠組み案は、2004年12月の決定に正確に基づいており、オーストリアの反発は理解しえないと述べているが、オーストリア政府は、2ヶ国で欧州憲法条約の批准が否決されたことを考慮すれば(詳しくは こちら)、昨年末の決定は実施しえないと反論している(参照)。


(参照) EU加盟国外相会議でオーストリアがトルコとの加盟交渉の開始に反対した理由については こちら



 

区切り線区切り線


オーストリアの譲歩
 

オーストリアの Plassnik 外相

Plassnik 外相
 
写真提供
Audiovisual Library European Commission

 トルコとの加盟交渉予定日である2005年10月3日の直前に至っても、まだ採択されていない交渉枠組みについて協議するため、EU加盟国の外相は、2日(日曜日)、ルクセンブルクで協議を再開した。しかし、この日も、オーストリアは妥協する姿勢を見せず、交渉開始の見通しが立たなかったが、3日の夜に入り、同国はようやく譲歩するに至った 。同日夜の Press Conference において、同国の Plassnik 外相(写真左)は、加盟交渉のゴールがEU加盟であることは(法的にも)明らかであり、オーストリアはこれを疑問視したことはないと述べ、周りを煙に巻いた。

 なお、トルコの正式加盟を決定する前に、EUの受容力(EUはトルコを迎え入れるだけの余裕があるかどうか)を検討すべきとする条項を再度、見直すことが決まった。これはオーストリアの要請に従ったものであるが、3日午後には、かねてより同国が要請しているクロアチアとの加盟交渉開始も決定された 。約30時間に亘る協議の後、オーストリアが最終的に譲歩した背景には、これらの点に加え、米国の介入や多方面からの圧力があったと見られている(参照)。また、来年の上半期、オーストリアは、EU理事会議長国となるため、執拗なボイコットは、円滑な政策運営上、得策ではないと考えられる。


  リストマーク オーストリア首相の評価

  リストマーク オーストリアの懸念





重要なのは、EUの受容力

 従来より、オーストリアは、EU加盟に代わる案(特権的パートナーシップの締結)の採択を要請しているが(参照 @AB)、他の加盟国の支持を得られていない。最終的に、オーストリアの方が譲歩するようになっているが、2005年10月3日、Plassnik 外相は、重要なのは、トルコのEU加盟を承認したり、または、代替案を提唱することではなく、トルコを迎え入れるだけの(財政的および統治機構上の)余裕がEUにあるかどうかであると述べている。10月3日のEU加盟国外相会議で、オーストリアは、この点を明確にすることに成功したと解される。トルコとの交渉は、EU加盟を目標にして行われるが、EUが受け入れ能力に欠けていたり、トルコが全ての加盟要件を満たすことができない場合には、特権的パートナーシップ について検討すべきであろうと Plassnik 外相は語っている(参照)。


    新しい要件について @A







Der Standard v. 28. September 2005 ("Plassnik: "Überzeugungsarbeit" gegen Türkei-Verhandlungsmandat")

Der Standard v. 03. Oktober 2005 ("Türkei: Brüssel rechnet mit Einlenken Wiens nach Steiermark-Wahl")

Der Standard v. 03. Oktober 2005 ("Staatssekretär Winkler: Briten müssen handeln")

Der Standard v. 03. Oktober 2005 ("Österreich gibt starre Position auf")

Der Standard v. 03. Oktober 2005 ("Im Wortlaut: Österreichs Änderungswünsche")

Die Presse v. 29. September 2005 ("Wir drohen nicht, aber wir wollen mehr positive Elemente")

Die Presse v. 30. September 2005 ("Streit um Türkei-Beitritt spitzt sich zu:
Österreich verschärft Vorbehalte
")



FAZ v. 29. September 2005 ("EU-Botschafter verfehlen Einigung über Türkei-Verhandlungen")

FAZ v. 04. Oktober 2005 ("Einigung in letzter Minute: EU beginnt Verhandlungen mit Türkei und Kroatien")

 


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(2005年9月29日 記  2006年6月17日 更新)