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フィンランド議長国のロゴ 2006年12月のEU首脳会談

新 し い E U 拡 大 政 策 を 決 定


 2006年12月14/15日、定例の欧州理事会(EU加盟国首脳会議)がブリュッセルで開かれ、@EU拡大政策、A 欧州憲法条約、B 移民政策、C エネルギー政策、D 環境政策、また、E 種々の外交問題について話し合われた。主な決定事項は以下の通りである。


リストマーク ブルガリアとルーマニアのEU加盟(2007年元旦)を歓迎

 会議終了後に発表された報告書(最終決議)の冒頭では、ブルガリアとルーマニアの2007年元旦の時点におけるEU加盟を歓迎する声明が盛り込まれている(para. 2)。これは、2006年9月に出された欧州委員会の提案(詳しくは こちら)に従うものである。


リストマーク EU拡大政策

 前述したブルガリアとルーマニアの加盟によって第5次拡大は完結するが、さらなる拡大に向けた交渉も進められている(参照)。2006年11月8日、欧州委員会は、将来の拡大に関する報告書を発表しているが(詳しくは こちら)、これを基に欧州理事会は審議し、以下の方針を決定した。

 @ さらなるEU拡大の決定に際しては、EUの受け入れ能力を考慮するが、すでに加盟候補国となっている国の扱いに変更はない。さらなる拡大の成功は、機構制度が実効的に機能するだけではなく、諸政策が恒常的に発展し、かつ、財政的に賄いうるようでなければならない(paras. 4, 7 and 9)。

 A 加盟候補国は、加盟基準を厳格に遵守しなければならない(para. 6)。

 B 新メンバーの受け入れ時期は、加盟交渉が終了する少し前に決定する(para. 7)。これは、ブルガリアとルーマニアの加盟時期が早々に決定されたことを踏まえてなされた決定である。

 C 困難な案件(行政・司法制度改革や汚職対策など)は、加盟交渉の早い段階で取り扱う(para. 7)。従来の加盟交渉(特に、ブルガリアやルーマニアとの交渉)を踏まえ、欧州委員会は、2006年11月8日、交渉手続の見直しを提唱していた(詳しくは こちら)。

 これらの点を総合すると、将来のEU拡大は、第5次拡大(東方拡大より慎重に進められることになるが、議長国フィンランドの Vanhanen 首相 は、新しい加盟要件を設けたわけではなく、従来どおり門戸は開かれていると述べている。また、将来のEU拡大を成功させるためには、EU機構制度の改革が必要であることを指摘している(参照)。なお、ドイツの日刊紙 Frankfurter Allgemeine によると、決議の草案には、拡大と深化の両立性に関する文言が盛り込まれていたが、ベネルクス3国の要請により、削除されたとされる(3国は深化の方を優先すべきと考えていたと解される)。この点に関し、ドイツの Merkel 首相は、深化よりも拡大により大きな関心を寄せる加盟国であれ、EUの機能強化の重要性を疑問視していないとし、憲法条約の発効とEU拡大は密接に関連していると述べている


◎ トルコとのEU加盟交渉

 さらなるEU拡大に関しては、トルコとの交渉が最も注目されている。2006年12月11日、EU理事会(加盟国外相会議)は加盟交渉の一部中断を決定しているが(詳しくは こちら)、欧州理事会はこれを了承している(para. 10)。



リストマーク 欧州憲法条約

 2006年下半期、議長国フィンランドは、欧州憲法条約について、個々の加盟国と協議してきたが、Vanhanen 首相 よりその成果が報告された(参照)。同条約に関する審議は今後も継続されるが、特筆すべき新しい決定は下されていない(para. 3)。



リストマーク 内政問題

 EU拡大やエネルギー問題に並び、移民政策は近時の主要テーマの一つになっているが、同政策に関する基本的な権限は加盟国の下に残されており、EUレベルでの政策統合は進展していない。アフリカから大量の移民(難民)が押し寄せている、スペインやイタリアなどの地中海諸国は国境警備に関する支援をEUに求めているのに対し、ドイツやオーストリアは、東欧からの移民対策の必要性を訴えている(参照)。

 移民政策(ないし不法移民対策)をEUレベルで実施する必要性に鑑み、加盟国首脳は、加盟国間の政策調整を強化するだけではなく、移民政策をEUの外交政策の分野に組み入れることができないか検討することで合意した(para. 24, a)。もっとも、従来どおり、基本的な権限は加盟国の下に留まり、EUレベルでの政策は、アフリカにおける "Job Agency”の設置や、労働需要に関する情報交換の強化に限定されると解される。

 不法移民の取り締まりについては、出身国との協力の強化や、EU国境警備機関 Frontex の機能・組織を迅速に拡充することで合意された。また、南部の海岸警備制度の導入について検討すべきとされている(para. 24, c)。




(参照) フィンランド理事会議長国の公式サイト

 

写真提供 © European Community 2006


Die Deutsche Bundesregierung, 15. Dezember 2006 (Gute Voraussetzungen für deutsche EU-Präsidentschaft)

FAZ v. 15. Dezenber 2006 (Gipfeltreffen in Brüssel: Die EU bleibt offen für neue Mitglieder) 

Die Presse v. 14. Dezember 2006 (Brüssel: Dunkle Wolken über dem Erweiterungsgipfel)



(2006年12月16日 記    12月28日更新)