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運転免許に関する指令案

 ECは、指令 (directive) を制定し、加盟国間における運転免許の相互承認制度を確立している(相互承認義務の性質)。これによって、ある加盟国で免許を取得した者は、他の加盟国に引っ越したとしても、そこで新たに免許を取得する必要性が無くなった。もっとも、免許の有効期間や健康診断の周期に関し、各国の法律は調整されておらず、混乱が生じることもあった。また、EU加盟15ヶ国では80種類以上の免許証が発行されており(25ヶ国では100種を超える[参照])、偽造の取り締まりは容易ではなかった。このような状況を克服し、道路交通をより安全にするため、欧州委員会 は、2003年10月、新しい指令案を作成している。この法案によれば、@ EC内の運転免許証は、プラスチック製(クレジット・カード型)に統一されることになるが、希望する加盟国は、マイクロチップを組み込み、偽造防止に役立てることができる。また、A 免許に有効期限を設ける他(自動車やオートバイの場合は10年であるが、65歳を超える者については5年とする)、職業運転手に対する健康診断の態様を調整している。さらに、欧州委員会は、B ある加盟国で免停処分を受けた者が、他の加盟国で新たに免許を取得することを禁止するとしている(他の加盟国で取得した運転免許の有効性に関するEC裁判所判決)。


 この指令案は、EC条約第71条 を法的根拠にしているが、同規定によれば、欧州議会EU理事会 が共同で立法作業にあたらなければならない(共同決定手続[EC条約第251条])。2005年2月に行われた第1読会において、欧州議会は、指令案を支持しているが、同年6月20日のEU理事会(運輸相会議)では、否決された。これは、欧州憲法条約批准危機EU次期財政計画の不成立 を発端に、EU市民の不信感が高まっているさなか、「運転免許旅行」を規制すれば、市民の感情をさらに逆立てることになりかねないと一部の加盟国が考えたためであるとされる。指令案の採択には、EU理事会の 特定多数 の賛成が必要であるが、ドイツ、フランス、ポーランド、オーストリア、デンマークが反対したため、否決された(参照)。このような場合、EU理事会は共通の立場を採択し、欧州議会に送付しなければならないが、ドイツで国政選挙(連邦議会選挙)が予定されている2005年9月まで、手続は進行しないとも解されている(参照)。


 EU理事会の持票数の総計

 321票

 法案の採択に必要な票数

 232票

 法案の否決に必要な票数

 反対票を投じた国(票数)
   ドイツ (29票)
   フランス (29票)
   ポーランド (27票)
   オーストリア (10票)
   デンマーク (7票)
      合計 102票

  89票


リストマーク 各国の持票数



(参照) 欧州委員会の公式サイト (運転免許について)

European Commission, Driving licences: ensuring security, safety and free movement

Die Presse v. 24. Juni 2005 (EU-Plastikführerschein: Neue Widerstände)

Die Presse v. 25. Juni 2005 (Verkehr: Führerschein wird erstes Opfer der Krise)


他の加盟国で取得した運転免許の有効性に関するEC裁判所判決

相互承認義務の性質



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