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特定の加盟国間における緊密な政策協力


1. はじめに

 ECの政策分野だけではなく、加盟国数が増えるにつれ、全加盟国の同意を得て、政策を統一的に実施することは困難になっている。実際に、全ての加盟国が、あらゆる政策に参加しているわけではない。例えば、マーストリヒト条約の制定当初、イギリスは社会政策に参加していなかったし (参照)、また、同国と共に、デンマークスウェーデン は、現在でも経済・通貨同盟に加盟していない(つまり、単一通貨ユーロを導入していない)。さらに、共通外交・安全保障政策 の分野においても、opting out が認められている(EU条約第23条第1項)。

 緊密な政策統合を望む加盟国の要請に応えるため(また、同時に、それを欲しない加盟国の意思を尊重するため)、アムステルダム条約 に基づき、EU条約第43条〜第45条が新たに設けられることになった。また、刑事に関する警察・司法協力(EUの第3の柱)に関する特別規定(EU条約第40条)や、EC条約内にも特別規定(第11条)が設けられている。これらの規定は、後に ニース条約 によって改正され、要件・手続等が緩和されている。また、共通外交・安全保障政策の分野(EUの第2の柱)でも、緊密な政策協力が認められるようになった(EU条約第27a条〜第27e条)。


 EUの3つの柱全体に適用される規定

 EU条約第43条〜第45条
(基本原則、一般要件、意思決定手続、財政)

 ECに関する特則

 EC条約第11条、第11a条
(認可手続等)

 共通外交・安全保障政策に関する特則

 EU条約第27a条〜第27e条
(特別要件、認可手続等)

 刑事に関する警察・司法協力に関する特則

 EU条約40条〜第40b条
(特別要件、認可手続等)


 なお、加盟国は、前掲の条約規定を適用することなく、より緊密な政策協力を実施することができる(安全保障政策に関し、EU条約第17条第4項および第24条参照)。もっとも、EU条約やEC条約の目的に反してはならない。


2. 定義

 緊密な政策協力とは、EU・ECの目的にのっとり、特定のEU・EC政策をより緊密に実施することを希望する加盟国間で行われる政策協力で、EU条約またはEC条約が定める方法に従って実施されるものを指す。特定の加盟国に例外を認めることから、柔軟な統合と呼ばれることもある。


3. 要件

 緊密な政策協力を実施するには、原則として、EU理事会の認可が必要になる。その他の一般要件について、EU条約第43条は以下の点を挙げている。


a)

EUまたはECの目的を促進し、また、その利益にかない、欧州統合を強化するために行われるものであること

b)

EU条約やEC条約に合致し、また、EUの統一機構制度に反しないこと

c)

EC法の蓄積や第2次法に反しないこと

d)

EUまたはECの政策分野における協力であること
ECが 排他的権限 を有する政策分野における協力ではないこと

e)

EC条約第14条第2項の意味における 域内市場 と 第158条以下の 経済・社会的結束(地域政策) を害するものではないこと

f)

加盟国間の通商を妨げ、または、差別するものではないこと
また、加盟国間の競争を阻害しないこと

g)

少なくとも、8つの加盟国が参加すること

リストマーク

ニース条約によって改正される前は、過半数の加盟国の参加が必要とされていた。

 

h)

参加しない加盟国の管轄権、権利および義務を侵害しないこと

i)

シェンゲン協定 の蓄積に関する議定書に反しないこと

j)

EU条約第43b条に基づき、すべての加盟国が参加しうること


 このように、緊密な政策協力の要件は厳しく、これをなるべく避けようとしていることが読み取れる。なお、相当な期間内にその目的は達成されえないとEU理事会が考えるときは、同協力は例外的にのみ実施しうる(EU条約第43a条)。つまり、その他の方法が考えられるときは、それを実施しなければならない。

 なお、共通外交・安全保障政策の分野における特別要件はEU条約第27a条と第27b条において、また、刑事に関する警察・司法協力の分野における特別要件は第40条第1項において定められている。


4. 認可手続

 EU条約による場合であれ、EC条約による場合であれ、緊密な政策協力は、EU理事会の認可が必要になる(原則)。個々の認可手続には違いがあるが、以下では、EC条約上の手続について説明する。

 緊密な政策協力を希望する加盟国は、欧州委員会に申請しなければならない。これに基づき、委員会はEU理事会に提案し、理事会が認可について決定する(なお、各加盟国は、EU理事会ではなく、欧州理事会 に審議を求めることができる[EC条約第11条第2項第2款])。委員会が提案しないときは、その理由を加盟国に通知する必要があるが(第11条第1項)、加盟国は 無効の訴え (第230条)をEC裁判所に提起しうる。

 理事会の決議は、特定多数決 によるが(第11条第2項)、委員会の提案に従わない場合は、全会一致を要する(第250条第1項参照)。なお、当初は、各国に拒否権が与えられていたが、ニース条約によって廃止された。

 理事会は決議する前に、欧州議会の見解を聴取しなければならない(諮問手続)。共同決定手続 (第251条)が適用される政策分野においては、議会の承認が必要になる(第11条第2項)。


5. 緊密な政策協力への参加

 ある加盟国が緊密な政策協力への参加を事後的に希望するときは、その意思をEU理事会と欧州委員会に伝えなければならない。これを認めるか否かは、委員会によって判断される。EC条約第11a条は、加盟国の申請が届いてから3か月以内に理事会に見解を述べ、また、申請が届いてから4か月以内に、判断を下すと定める。なお、委員会は必要に応じ、特別措置を発することができる。


6.EC裁判所の司法審査

 EU理事会の認可手続の適法性や要件の遵守について、EC裁判所は審査しうるが、これは、第1の柱(EC条約)と第3の柱(刑事に関する警察・司法協力)の分野に限定される(EU条約第40条第3項、第46条第c号参照)。