1. リスボン条約の批准
アイルランド国民投票の結果 を受け、リスボン条約の発効には暗い影が伸びているが、2008年6月、欧州理事会は、早急な対応を避け、同年10月に再び協議することを決定した(詳しくは
こちら)。審議は、アイルランド政府の提案に基づき行われるが、フランスは、ポーランド や チェコ といった欧州統合に懐疑的な国が危機をさらに深めないよう牽制する使命を負っている(参照)。
そもそもリスボン条約は、欧州憲法条約の発効に見通しが立たなくなったため制定されたが、その原因をつくったのはフランスである。約3年の歳月を経て、フランスは再び同じような課題に直面することになったと言えるが、2005年5月、フランス国民が欧州憲法条約の批准を否決した背景には、拡大EUないし経済のグローバル化に対するEU市民の不安や不満があった(詳しくは
こちら)。このような問題を解消し、EUを真に市民に身近な組織にすることがリスボン条約の発効についても求められている(参照)
2. 地中海連合
現在、EUは、旧ユーゴスラビア諸国やトルコにEU加盟の見通しを与え、様々な支援を行っている(詳しくは こちら)。また、それよりも東方の欧州諸国との間には「欧州近隣政策」を実施し、関係の強化に努めているが、この「東方政策」に対し、「南方政策」は発展に遅れがみられる。つまり、地中海沿岸諸国との間に自由貿易圏を創設する試みもすでに1995年に開始されているが(いわゆるバルセロナ・プロセス)、近時は停滞している。地中海に接し、また、伝統的にアフリカ諸国との結びつきも強いフランスは、新たに地中海連合を発足させ、EUと沿岸諸国との関係強化に力をいれることになった。第1回会合は7月13日
(パリ)に予定されている。
なお、当初のフランス案では、地中海に接していないEU加盟国は参加しないものとされていたが、ドイツの強い抵抗にあい、修正を余儀なくされた。同連合には、全EU加盟国と地中海に接するアフリカ諸国(例えば、チュニジア)や中東諸国(イスラエル、パキスタン、レバノン)が参加する。総計では39ヶ国(人口は約7億5000万)にも及ぶ。
3. 気候変化と新しいエネルギー政策
地球環境の保全やエネルギー政策(環境にやさしいエネルギー源の利用と安定した供給確保)は、近年の主要な政策課題に挙げられ、フランスもこれを承継するが、核保有国であり、また、古くから原子力発電に推進してきたフランスは、二酸化炭素を排出せず、また、供給が安定するエネルギー源として、原子力発電の重要性を強調している。
4. 庇護・移民政策
地中海に面したEU加盟国には、大量の難民が押し寄せ、大きな問題となっているが、加盟国間の政策は大きく異なっている。自国の利益にも大きく関わる案件として、フランスは庇護政策の調整を議長国期間の主要課題の一つに挙げている。
なお、2008年6月、欧州委員会は、EUの新しい移民政策の大綱案を発表しており、10月の欧州理事会での採択が目標に掲げられている。また、同時に、庇護政策の調整に関する提案も示されている。
5. 安全保障・軍事政策
Sarkozy 大統領は、フランスの NATO 復帰を宣言しているが、それだけではなく、EU軍 と NATO との関係を強化すべきとし、従来のフランスの方針を大きく転換させている。なお、リスボン条約の発効の遅れは、この政策分野に影響を及ぼす。
6. 農業政策改革
EU内最大の農業国であるフランスの要請を強く反映し、古くからEU(EC)の予算の大半は農業政策の分野にあてがわれているが、農家に対する補助金の支給は削減される傾向にある。WTOの貿易交渉を進める上でも、農業政策改革は重要な政策課題となるが、近時の食糧不足問題を受け、フランスは農業の重要性を指摘している。
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