国際化の時代におけるEU
著しい経済成長を達成している中国、インド、ブラジルは、数年後に個々のEU加盟国の経済力を凌駕し、EU全体に対しても脅威になると解されているが、加盟国や欧州委員会は、EU企業の技術力を向上させることで対応しようと考えている。つまり、質の高い職をより多く創出することが課題とされているが(参照@、A、B)、そのために必要な研究・開発また教育への投資は鈍っている(参照)。この政策分野に関するEU(EC)の権限は弱く、主たる権限は加盟国の下に残されているが、その取り組みは徹底していない。そのため、EUの政策も同時に強化させるべきとの見解が支配的であり、EUの次期(2007〜2013年)財政計画 では、予算を引き上げる一方で、これまで全予算の半分以上が充てられていた農業補助金を削減する必要性も指摘されているが(参照)、農業補助の恩恵を強く受けるフランスは激しく抵抗している。
農業市場への介入に象徴されるEUの保護主義体制は、経済のグローバル化の過程でも批判されており(参照@、A)、その見直しが必須になっているが、諸国間の経済格差(賃金格差)が大きい状況下において、市場の開放は大きな問題を引き起こしている。これは、EU内の「東西問題」にも反映されており、従来の加盟国の多くは、自由化に反対している(参照@、A、B、C)。その背景には、市場の開放は低賃金労働者や低廉な製品の流入を招き、国内労働者の職を奪うとの懸念があるが、国による介入はかえって競争力を低下させると批判されている。また、自由競争こそが豊かさを増幅するとも主張されており、福祉政策のあり方を含めた
社会モデル見直し の必要性が指摘されている。
EU経済を活性化させ、競争力のある、豊かな社会を将来にわたっても実現するには、諸制度の改革が必要であるが、独仏を機軸とした社会モデルはこれを阻んでいる。2005年10月、欧州委員会は、市場の自由化の影響を受ける者を救済するため、基金の創設を改めて提案したが、EU予算の拡大や新たな保護主義につながりかねないと批判されている(参照)。
社会モデル を含め、社会政策一般に関する加盟国間の方針は伝統的に大きく異なっているため(つまり、EU(EC)内での政策統合は不可能ないし非常に困難と解されているめ)、加盟国からEU(EC)に権限はほとんど委譲されていない(参照)。25ヶ国が協調性を見せ、国際化(市場の開放)に対応しうるかどうかは疑問である。
なお、現EU理事会議長国イギリスの Blair 首相は、10月26日、欧州議会(ブリュッセル)で「EU改革に関する5ヶ条計画」を発表し、@
研究・開発の奨励、A 安全保障、B 移民政策の発展、C エネルギー政策、D 少子高齢化問題 に徹底して取り組むべきであると提唱しているが、その他の加盟国の支持が得られるかどうかは定かではない。議長国の任期も約2ヶ月後に終了することから、具体的な協議は2006年以降になるが、同年上半期、議長国を務めるオーストリアは、Blair
首相の提案する原子力発電の活性化(上掲のCのエネルギー政策に関して)に強く反発している。
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