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欧州憲法



フランス大統領 
国内の青年とテレビ公開討論

フランス国旗 欧州憲法条約批准の是非を問う国民投票を約1ヶ月半後に控えたフランスでは(詳しくは こちら)、批准反対派が過半数を占めているとされるが、情勢を挽回すべく、Chirac 大統領は、2005年4月14日、テレビ公開討論会に参加し、憲法条約の支持を訴えた。

 討論会に出席した18~30歳の若者83名からは、まず、「なぜ我々は憲法条約について良く知らされていないのか、そのような条約の批准について、我々は一票を投じることができるのか」という質問が出されたが、Chirac 大統領は、「統一され、強力なヨーロッパ」の利点ないし重要性を繰り返し指摘するに留まった。また、貴重な時間を情報の普及が適切かどうかという問題に費やすべきではないと答えた。

 さらに、憲法条約の発効後、国民の生活はどのように改善されるかや、弁護士活動の自由化、環境保護の向上など、若者の質問に対する具体的な回答は示されなかった(参照)。逆に、Chirac 大統領は、憲法条約の批准が否決されたとしても、問題は解決されないこと、また、かえって悪影響(国内農家に対するEUの補助金も停止される)が生じることを強調すると共に、欧州統合の発展について恐れる必要は無いと述べるなど、受け身に回った。


 EU加盟国の首脳が、テレビで欧州統合の発展について、国民と直接、意見を交わすのは異例のことであるが、4月14日のテレビ討論会の模様は、740万人のフランス国民が視聴したとされる。Chirac 大統領が当初の目標を達成しえたかどうかは疑わしく、参加した若者を初め、多くの国民の不満ないし懸念はますます強まったとも解されている(参照)。最後に、Chirac 大統領は、国民の不安は理解できず、非常に残念であると発言しているが、参加した若者からは、我々は違う現実の中で生活しているとの感想も聞かれた。

 5月29日の国民投票では、欧州憲法条約の内容そのものよりも、国内の社会・経済問題(失業率の増加、購買力の低下、国家予算の削減)が争点になり、次期大統領選挙の前哨戦になるとも位置づけられている(参照)。なお、Chirac 大統領は、5月29日の国民投票が国内選挙の試金石として濫用されることを警告した上で、将来のヨーロッパにおけるフランスの立場、また、アメリカ、台頭する中国やインドとの関係において、フランスの利益や影響力 (国際的発言力)を維持しうるかどうかが問われる重要な機会であることを強調している(参照)。


New 研究調査機関 CSA が実施したアンケートによると、51%の回答者は、公開討論会での大統領の発言に説得力が無いと感じているとされる。また、どちらかといえば説得力に欠けると感じた人は34%であった(参照)。


 リストマーク こちら も参照



  New Chirac 大統領、2度目のテレビ出演




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point フランス国民が欧州憲法条約の批准に反対する理由


 過去数ヶ月間(より詳細には、過去数週間)、フランスでは国内政治に対する不満や将来のEU統合に対する不安が急速に高まっているが、4月14日のテレビ公開討論会では、このような国民の感情が如実に表れる形となった(Die Welt 紙)。討論会に臨んだ若者は、近時の国内問題(失業に対する危機感、職の移転[フランスから労働力の安い外国への企業移転]、購買力の喪失)や、欧州統合やEUの制度改革(大学の学位の相互承認を含む)に関する不安や懸念を率直に口にしている。これに対し、Chirac 大統領は、先日他界したローマ法王の教えを引用しながら、このような恐れは若者には似つかわしくなく、恐れる抱く必要は無いことを力説したに過ぎなかった。

    リストマーク 国民の3分の2、Chirac 大統領に失望


 前述した点以外にも、サービス市場の自由化トルコのEU加盟こちら も参照)、EUによる農業補助金削減の恐れなども挙げられているが、いずれも、欧州憲法条約の内容には直接的に関連していない。東方拡大によって加速した企業の移転(労働力の安い国への企業流出)やソーシャル・ダンピング、租税ダンピング(参照)、また、それらに伴う国内雇用の喪失などの問題も大きな要因になっており、フランスでは、東方拡大の影響がまだ十分に消化されていないと言える。


New  批准に消極的な欧州統合推進派

 リベラル化に対する左派組織の抵抗




テレビ公開討論会


 Chirac 大統領と83名の青年が参加した討論会は、2005年4月14日の夜、フランスの民間放送局 TF1 で放送された。72歳の大統領と討論したのは、18〜30歳の若者で、意見調査機関によって選出されている。なお、極端な反対派や政治的敵対者は選ばれていない。また、失業者の利益も十分に代弁されていないとされる。

 進行役は、ジャーナリストではなく、通常は娯楽番組を担当する3名の若者が務めた。

 このような形での討論会の開催に対しては、公共放送局だけではなく、欧州憲法条約の批准反対派も異議を述べたとされる。

 

 (参照) FAZ v. 15. April 2005 ("Sagt ja zu Euopa!")




(参照) Der Standard v. 15. April 2005 ("Chirac verpatzte TV-Werbeauftritt für Verfassung") 〔写真つき〕

Der Standard v. 15. April 2005 ("Chiracs Wagnis")

Der Standard v. 15. April 2005 ("Barnier: Ein "Nein" zur Verfassung schwächt Frankreich")

Die Welt v. 16. Apirl 2005 ("Chirc redet, wirbt und droht")〔写真つき〕

Die Welt v. 16. Apirl 2005 ("Chirc")

Die Welt v. 16. Apirl 2005 ("Übrigens: Teile der EU-Verfassung werden bereits umgesetzt")

FAZ v. 15. April 2005 ("Fürchtet euch nicht!")

FAZ v. 15. April 2005 ("Sagt ja zu Euopa!")

 


リストマーク フランスの批准見送り危機

  国民の3分の2、Chirac 大統領に失望

  フランスの国民投票で批准が否決された場合

  2007年大統領選挙の前哨戦としての国民投票



(2005年4月15日 記 4月19日 更新)