欧州憲法条約の批准に先立ち、フランスでは、2005年5月29日に国民投票が実施される予定であるが(詳しくは こちら)、当初の状況は一変し、近時は批准反対派が過半数を占めている。最近実施された15のアンケート調査によれば、約55%の回答者が批准に反対している(参照)。
このような状況は、国内の社会・経済問題や欧州統合に対し、フランス国民が不安を抱いていることに基づいているが(詳しくは こちら)、4月14日のテレビ公開討論会では、国民の感情が露呈された(詳しくは こちら)。この討論の場で Chirac 大統領は参加者を納得させることができなかったため、情勢はますます不利になりつつある。
フランスでは、マーストリヒト条約 の批准に際しても、反対派が多数を占める傾向にあったが、Mitterrand 大統領がテレビに出演し、批准の重要性を訴えたことで情勢が変わり、国民投票では、かろじて過半数(52%)の支持を得ることができた(参照)。これに対し、Chirac 大統領のテレビ出演は、良い効果をもたらしていない。
フランスの研究調査機関 CSA が実施したアンケートによると、51%の回答者は、公開討論会での大統領の発言に説得力が無いと感じているとされる。また、どちらかといえば説得力に欠けると感じた人は34%であった(参照)。
Le Parisien 紙と Paris Match 誌のアンケート調査によれば、それぞれ56%の回答者が欧州憲法条約の批准に反対しており、過去最高を上回っている。また、前述した
CSA の調査でも、反対派は、55%から56%に上昇している(参照)。
フランス海外県・領土の反応
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他のEU加盟国に与える影響 |
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EU(当時はEC)の現加盟国であり、欧州統合の牽引役でもあるフランスが憲法条約の批准を見送るようなことが実際に生ずれば、極めて深刻な影響が生ずることが従来より指摘されているが(参照@、A) 、4月19日付けの Kurier 紙において、オーストリアの Heinz Fischer 大統領は、フランスの批准拒否は破滅的な影響をもたらすと述べている(参照)。
フランス国民が欧州憲法条約の批准を否決する可能性が高まってきたことを受け、オーストリアの Heinz Fischer 大統領は、フランスによる批准拒否は、破滅的な後退であると述べた。また、確かに、憲法条約は妥協の産物で、ベストとは言えないが、しかし、同条約の発効は大きな進歩であるとした。
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欧州憲法条約の改善点(Fischer大統領)
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欧州議会の権限強化 |
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諸条約の統一 |
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立法・意思決定手続の簡素化 |
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EUレベルでの国民投票の実施 |
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近時のフランス国内における情勢について、Fischer 大統領は、社会的側面の強化を訴えることは理解できるが、それゆえに欧州統合を犠牲にすることは受け入れがたいとした上で、ヨーロッパの発展を望むならば、そのために戦うべきであり、後退させてはならないと述べている。
また、フランス国民が憲法条約の批准を見送った場合であれ、Plan B は存在しないため、問題点をよりよく調査し、良好な関係を築く必要があると述べた。なお、これは、2006年上半期に自国がEU理事会議長国となり、困難な課題に取り組む必要性が生じることを踏まえた発言である。
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ところで、世論調査によれば、フランス以上に反対勢力が強いイギリスの Blair 首相は、他国の情勢にかかわらず、国民投票を実施する意向を改めて確認しているが、フランスの国民投票が5月29日であるならば、自国では、早くても2006年上半期に実施されると述べている(参照@、 A)。なお、フランスとは異なり、イギリスでは、国民投票に拘束力はない。
ドイツの Fischer 外相は、近時のフランスの状況について、フランス国民は一種の幻想を抱いているとした上で、憲法条約に反対したとしても、近い将来に、よりよい憲法条約が制定されることはないと述べている(参照)。また、欧州委員会の Wallström 副委員長も、フランス一国のために、協議を再開するのは非常に非現実的であると発言している(参照)。
フランスの国内政治に対する影響
5月29日の国民投票で、欧州憲法条約の批准が否決される場合は、フランスの国内政治にも大きな影響を与えると解されている。Chirac 大統領は退陣しないことを自ら明らかにしているが、その代わりに、Raffarin
首相が辞任し、de Villepin 内務相が後任に就くと考えられている( 5月30日、Raffarin 首相は辞任を表明した〔詳しくはこちら〕)。
これは、国民投票には、国内政治に対する不満が反映されると見られているためであるが、実際に Raffarin 首相の支持率は低下している。4月17日、de
Villepin 内務相は、国民投票の結果にかかわらず、Raffarin 首相に退陣を要求している(参照)。
なお、欧州憲法条約起草協議会の座長を務めた d'Estaing 元フランス大統領(詳しくは こちら)は、中途半端なヨーロッパ人として、Chirac 大統領を批判している(参照)。
2005年4月26日、独仏首脳はパリで会談し、共に臨んだメディア・コンファレンスでは、欧州憲法条約批准の重要性を強調した。Chirac 大統領は、国民投票で反対票を投じる者は、フランスの立場を弱めることに責任を負うべきであると述べると共に、批准の見送りは、50年にわたる欧州統合の歴史を中断することになると語った。また、「ultraliberal
なヨーロッパ」の道を開きかねないと警鐘をならした。欧州憲法条約の内容を国民に説得することに成功していない大統領は、批准が見送られる場合のデメリットを強調し、国民に支持を求めるようになっている。
2005年5月3日、Chirac 大統領は再度、テレビ(France 2)に出演し、29日の国民投票で、欧州憲法条約の批准が否決されるようなことがあれば、フランスの立場を著しく弱めるだけではなく、フランスが50年にわたって貢献してきた欧州統合が後退するとして、憲法条約への支持を国民に訴えた。
欧州憲法条約に関するテレビ出演は今回で2回目であるが、今回は多数のフランス国民は参加せず、2名のジャーナリスト等と対話する形式で行われた。
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フランスと共に、欧州統合を牽引しているドイツでは、国会が欧州憲法条約の批准について決定することになっているが、フランスの国民投票に良いメッセージを送るため、当初の予定を変更し、国会の決議を早めることになった(詳しくは
こちら)。
ドイツにおける議論
ノーベル文学賞受賞者である Gunter Grass 氏を初めとするドイツの知識人は、2005年5月3日付けの Süddeutsche
Zeitung 紙(ドイツの有力日刊紙)に連名で記事を投稿し、フランス国民に欧州憲法条約の支持を訴えている。
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