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トルコ国旗トルコのEU加盟問題

目 次

近時のニュース

2009年上半期の動き

EU法の総体系のスクリーニング、新たに2つの章で開始

憲法裁判所、スカーフ着用を再び禁止

フランス憲法改正へ

2008年1〜4月のEU・トルコ関係


過去のニュースは
こちら




トルコのEU加盟
トルコのEU加盟
トルコのEU加盟


写真提供
Audiovisual Library European Commission


 ・ トルコのEU加盟に関する問題点

  ・ キプロス問題
    ・関税同盟の設立
    ・アンカラ議定書の締結 
    ・トルコ、議定書の実施を拒む
    ・EUの圧力、強まる
    ・
フィンランドの外交交渉、実らず
    ・トルコ、譲歩案を示す
    ・EU加盟国、トルコの譲歩案は不十分
    ・EU理事会、加盟交渉の一部休止を決定 


  ・ アルメニア人大量虐殺事件
    ・ トルコにおける刑事手続
    ・ フランスの刑罰導入にトルコ反発

  ・ 司法・人権保護制度
    ・ 刑法改正(離婚処罰)

    ・ 国家侮辱罪の導入
    ・ キリスト教の差別
    ・ 政教分離
  
  ・ 人権保護制度の改善 鈍る

 ・ トルコのEU加盟を阻むその他の要因
  
   ・ トルコ系住民の統合力の弱さ
   ・ イスラム社会の反応


 ・ トルコのEU加盟がもたらす利点

 ・ 加盟国における議論
  ・ ドイツ  
    ・ 特権的パートナーシップ 
  ・ オーストリア  
  ・ その他の加盟国 

 ・ EU市民の見解
  ・ オーストリア国民の見解
  ・ オーストリア国民、断固として反対

 ・ トルコ国民の見解

 ・ 要人の発言

 ・ 専門家の見解
     Osteuropa-Institut の懐疑論
  オーストリア国防省専門家の懐疑論
  CER の擁護論

 ・ 2004年9月〜12月の動き
  
欧州委員会 条件付で加盟交渉開始提案
     ・ Verheugen 欧州委員
     ・ Rehn 欧州委員

  ・ EU理事会議長国オランダの提案
 
  ・ 欧州議会 加盟交渉の開始を支持 

  
加盟国首脳 交渉開始を早々に決定


加盟交渉の開始が決定された場合

加盟交渉手続

    ・ 2005年10月3日の交渉開始に向けて
    ・ 委員会、交渉手続の枠組みを提案
    ・ 2005年9月の加盟国外相会議
    ・ キプロス外相の見解  
    ・ オーストリアの抵抗

    ・ 加盟交渉の正式開始  
 
    ・ 加盟交渉手続の詳細
    ・
交渉枠組み  (参照

    ・ 交渉中断の可能性

    ・ EU理事会、加盟交渉の一部休止を決定


2006年度版報告書(欧州委員会)


加盟要件
  ・ トルコに関する新要件
  ・ 2006年6月の欧州理事会

国民投票の実施

欧州憲法条約批准危機の影響


2008年1〜4月のEU・トルコ関係

  ・フランス憲法改正へ
  ・憲法裁判所、スカーフ着用を再び禁止


トルコと欧州統合
  ・
年表

 ・Q & A


 リストマーク 
EU加盟一般





  ト ル コ の E U  加 盟 に 関 す る 問 題 点


 トルコのEU(当時はEC)加盟を前提にした連合協定は、すでに1963年に締結され(参照)、加盟申請は1987年4月14日に遡る(参照)。また、トルコ・EC間の経済統合を促進するため、1996年には関税同盟が結成され、1999年には加盟国になりうるとの決定が下されているが、トルコはまだ 加盟基準 を満たしておらず、加盟交渉すら開始されていない状態にある。申請国が加盟基準を満たしているかどうかは、欧州委員会によって調査されるが、2003年11月5日に公表された報告書(リストマークStrategy Paper2003 Regular Report [欧州委員会の公式サイト]) において、欧州委員会は、同イスラム教国の問題点を指摘している。その要点は以下の通りである。



@

キプロス問題

 地中海東部に浮かぶキプロス島は、紀元前前より、エジプト、ギリシャ、ペルシャ、ローマに支配されてきたが、1571年、トルコ領となった。1878年にはイギリスの統治下に入るが、1955年に反英運動が起き、1960年8月16日、正式に独立を達成している。

 現在、キプロス島には、主として、ギリシャ系住民(全住民の70%を超える)とトルコ系住民が居住しているが、両者間の対立が続いている。1963年には少数派であるトルコ住民の権利を制限する憲法改正がなされたことをきっかけに内戦が勃発し、国連平和維持軍が派遣された。

 また、1974年には、ギリシャの軍事政権の関与の下、ギリシャ系ナショナリストがクーデターを起こし、キプロスをギリシャに併合しようとしたが、トルコは、トルコ系住民の保護という名目で軍隊を派遣し、キプロス島の北部(全土の約37%)を占領した。そして、1983年11月15日、トルコ系住民からなるキプロス・トルコ共和国を樹立させた。なお、国連安保理は、この新国家樹立宣言を無効とみなし、独立国家として承認しないよう各国に要請している。そのため、キプロス・トルコ共和国を承認しているのは、現在でもトルコのみである。他方、島の南部にはギリシャ系住民からなる、キプロス共和国があり、南北両国が対峙する形となっている。単に、キプロスと呼ぶ場合は、ギリシャ系のこの国を指すが、1990年7月、キプロスはEU(当時はEC)に加盟を申請し、1997年12月、EU(EC)は加盟交渉の開始を正式に決定している(参照)。また、同年1月、キプロスはロシアとミサイルの購入契約を結んでいるが、これはトルコの反発を招き、翌年6月、トルコは戦闘機が飛行させる事態にまでいたった。

 すでに1980年台初頭にギリシャがEUに加盟していることもあり(参照)、EUはキプロス共和国(ギリシャ系キプロス)を支持している。2003年8月8日、トルコとキプロス・トルコ共和国は、関税同盟の設立を目的とした協定を締結するに至った際も、欧州委員会はこのような協定は国際法上無効であるとして非難している。

 キプロス島は、トルコの沿岸から、わずか100キロしか離れていない。安全保障上の理由から、トルコは、キプロスが「ギリシャ系の国家」になることに抵抗しており、現在でも、4万人規模の軍隊をトルコ系キプロスに駐留させている(他方、ギリシャもギリシャ系キプロスに軍隊を派遣している)。30年以上に亘る紛争の平和的解決は、トルコ(ないしトルコ系住民)の態度に大きくかかっていると言えるが (なお、これに反する新しい動きとして こちら を参照)、トルコは従来より態度を軟化させている。かつて、トルコは、全島を支配しようとするギリシャ系キプロスの計画に異議を唱えていたが、数年前、Erdogan 首相 は方針を変更し、両キプロスの統一を容認するようになった。その背景には、EU加盟という長年の夢を実現するため、EUとの関係改善を重視したことがある。

 トルコがEU加盟を実現する見通しは、現在でもまだたっていないが、他方、(ギリシャ系)キプロスは、2004年5月に目標を達成した(EUの東方拡大)。キプロス問題がEU内に持ち込まれることを避けるため、EUは和平交渉を進めてきたが、失敗に終わっている。また、国連の主導下でも、南北の平和的統合に向けた協議が行われたが(詳しくは こちら)、当事国間での交渉は決裂し、決断は両キプロスの国民に委ねられることになった(詳しくは こちら)。国連和平案の是非を問う国民投票は2004年4月24日に実施され、トルコ系キプロスの住民は国連案を支持したが、ギリシャ系キプロスの住民によって否決され、南北統一は達成されなかった(詳しくは こちら)。


    (参照) キプロス全島のEU加盟条件


 前述したとおり、ギリシャ系キプロスは、単独でEUに加盟しているが、トルコ系キプロスが孤立するのを避けるため、欧州委員会は諸策を提案した(詳しくは こちら)。もっとも、新加盟国であるキプロスの反対にあい、採択されていない(リストマーク 妥協案の成立については こちら)。


 ギリシャ系キプロスのEU加盟により、EUはキプロス問題の当事者となったが、近時、この問題、トルコのEU加盟 の観点から注目されている(参照)。トルコのEU加盟申請は1984年に遡るが、加盟交渉が開始されたのは、2005年10月のことである(詳しくは こちら)。この交渉を成功裡に導き、トルコが念願のEU加盟を実現するには、(ギリシャ系)キプロスを承認し、和平を樹立することが必須の課題となっている(参照 @ABC) 。なお、トルコは、キプロス問題の解決(ないし、ギリシャ系キプロスの承認)は、EU加盟交渉の場ではなく、国連の主導下で進められるべきであるとしている。また、南北統一を阻止しているのは、トルコ系キプロスではなく、ギリシャ系キプロスであるとされる(参照)。さらに、和平実現の前提条件として、EUは北キプロスに対する制裁を解除しなければならないと主張している。



リストマーク 関税同盟の拡大に関して

 EU(EC)は 関税同盟 を基礎としているため、トルコがEUに加盟するには、キプロスを含めたすべてのEU加盟国と関税同盟を構築する必要がある。従来のEU15ヶ国とトルコの間には、すでに関税同盟が結成されているが、2004年5月にEUに加盟した10ヶ国(キプロスを含む)にもこれを拡大するための議定書は2005年7月に締結された。もっとも、今日まで、トルコはこれを批准しておらず、EUより厳しく批判されている。2006年末までに、キプロスとの関係において、関税同盟に関する義務を誠実に履行しない場合には、EU加盟交渉を部分的に中止すべきと欧州委員会は提案しているが(詳しくは こちら)、2006年12月、EU加盟国は最終判断を下す予定である。


  @ 関税同盟の拡大に関する議定書の文面について合意 (2005年3月25日)

  A トルコ、関税同盟の拡大を見送る (2005年7月27日)

  B トルコ、議定書に調印 (2005年7月29日)

  C キプロス承認拒否に対するEU加盟国の批判

  D キプロス外相の見解

  E 2005年9月の加盟国外相会議

  F トルコ、議定書の実施を拒む

  G EUの圧力、強まる

  H フィンランドの外交交渉、実らず

  I トルコ、譲歩案を示す

  J EU加盟国、トルコの譲歩案は不十分




  リストマーク その他のテーマ

  @ キプロス問題解決の重要性

  Aキプロス大統領の方針

  B 交渉再開の提案

  C 欧州理事会(2004年12月)


  D トルコ系キプロス、新大統領を選出 (2004年4月 )


   E Talat 大統領、和平実現の可能性について語る


リストマーク

キプロス問題について (外務省)





A

司法制度・人権保護の改善

 さらに、トルコの司法制度は、依然として西欧法治国家の水準に達していないことが問題視されている。特に、国家治安裁判所の権限、管轄および実務、防御権の水準、また、警察や司法当局による暴行・拷問が批判の対象になっている。なお、2002年にErdogan 政権が成立して以来、国家による人権侵害はなくなっており、Amnesty International も拷問は、もはや制度的に行われていないとしているが(反対の見解として、こちら を参照)、
国内の人権保護団体からの批判は止まない(参照 依然として残る問題)。



New 2004年9月23日、Verheugen 欧州委員(EU拡大担当)は、もはや拷問は組織的に行われておらず、トルコは、すべての加盟条件を満たしたと述べた。

 (参照) FAZ

(2004年9月23日記)



 また、最近では、離婚に対する刑罰を再導入する動きが物議を醸している(参照)。さらに、性別を問わず、不貞行為の取り締まりを強化する法改正も進められており、今後、問題になる可能性がある。



New 2004年12月4日、トルコ議会は、 刑事法改正法案の一部を可決した。改正法は、2005年5月1日に発効する(詳しくは こちら)。


 (参照) Der Standard

(2004年12月6日記)



 なお、近時は、トルコの憲法裁判所がオンブズマン法の適用を停止したことが問題になっている(参照



(参照) 人権保護に関する問題

離婚に対する刑罰の再導入


依然として残る問題 

人権保護制度 改善のテンポ 緩む


   キリスト教に対する差別

   政教分離



  ト ル コ の E U  加 盟 を 阻 む そ の 他 の 要 因

 希望に反し、トルコがEU に加盟できない理由としては、前述したキプロス問題や司法制度・人権保護の改善の他に、以下の点が挙げられる。

人口・国土の上で、大国であること

 
国連の予測によれば、トルコの人口は、2050年までに約1億人に達し、EU最大の加盟国になると予測されている(これに対し、現EU加盟国の中で最も人口の多いドイツは、7900万になるものと想定される)。 

  リストマーク トルコがEUに加盟した場合の影響


経済力が弱く、特に、農場従事者が多いこと

 トルコ国民の平均所得は、EU市民平均の13%に過ぎず、物価水準を考慮した購買力も23%に過ぎないとされる(2004年12月の為替相場による)。加盟実現後は、豊かな生活を求め、400万人のトルコ人が現加盟国に移住すると分析する立場もある参照 こちらも 参照)。


 トルコの主要産業である農業は、競争力に劣るため、EU加盟が実現した場合、EUの農業支援費用が膨らみ、EUに大きな負担となるとされている。なお、この3年間、トルコ経済は、平均、年7%代の伸びを示しており、この傾向が続くならば、EU経済を支えうるという見方もある(参照)。


リストマーク ドイツ財務省の委託を受け、ミュンヘンの Osteuropa-Institut (東欧研究所)が算定したところ、トルコのEU加盟には、年間、約140億ユーロの経費がかかる。また、現在の農業・地域政策が維持される場合には、トルコは、年間、約174億ユーロの助成金をEUから受け取ることができるとされる。その内訳は、農業部門で45億ユーロ、地域政策部門で113億ユーロ(トルコは最も多くの地域振興費用を受け取ることになる)、また、行政支援として16億ユーロである。このように、2004年5月のEU拡大(10カ国の新規加盟)を上回る費用がかかるため、EU財政プログラムの見直しが必要になり、トルコの加盟は早くても、2014年と予想されている(現在、次期財政計画(2007〜2013年)が検討されているが、その次の財政計画において、トルコのEU加盟が盛り込まれる予定である[参照; 欧州理事会の決議])(参照)。

   リストマーク Osteuropa-Institut の研究報告書について


 他方、トルコ政府は、自国の拠出金を34億ユーロと見積もっている (参照)。

 ブリュッセルの think tank “Friends of Europe” の調べによれば、トルコのEU加盟には年間で150億ユーロ必要になり、これは、前掲の Osteuropa-Institut の算定よりも、約10億ユーロ多い。また、加盟時期は、早くて2015年としている (参照)。


 なお、Verheugen 欧州委員(EU拡大担当)は、トルコのEU加盟に300億ユーロも必要になるわけではなく、支援額は当初より制限されるとしている参照)。





宗教の違いに基づく生活習慣や考え方の相違

 
バチカンの Joseph Ratzinger 枢機卿は、仏 Figaro 紙のインタビューで、トルコとの加盟交渉が了承されるようなことがあれば、西欧は没落すると述べたとされる。とりわけ、フランス、ドイツ、オーストリアの保守派は、トルコのEU加盟に消極的であると解されている(参照)。


問題 イスラム教はEU加盟の妨げとなるか

イスラム社会の反応

    


トルコ系住民の統合能力の弱さ

 EUの中でも、特に、ドイツには多くのトルコ人が移住しているが、現地の人や社会に完全に溶けこんでいるとはいえない。


New

 2004年11月初旬、オランダでイスラム教に批判的な Theo van Goch 監督が殺害されたことをきっかけとし、モスクやイスラム教施設への放火が相次いだ。また、多くのトルコ系移民が住む隣国ドイツでは、各地でイスラム教徒によるデモが行われたが、これを契機に、ドイツでは、国民とトルコ系住民とが依然として溶け合っていない問題が再び注目されるようになった。

   リストマーク
詳しくは こちら

   リストマーク EU市民の見解



オスマン・トルコ帝国のヨーロッパ侵攻に対する恐怖心を現在でも持っていること

オーストリア出身の Fischler 欧州委員の見解については こちら

オーストリア出身の欧州議員 Swoboda 氏(社会党)の積極的かつ慎重な態度 (Die Presse

ハイダー氏が元党首を務めた極右政党 FPÖ (オーストリア自由党)は、Schüssel 首相(ÖVP〔オーストリア国民党〕)がトルコのEU加盟を支持するならば、政権連立から脱退するとし、首相の動きをけん制している参照@ A


  
 リストマーク オーストリアにおける議論については こちら
     
オーストリア国民の態度


地理的要因

 さらに、トルコはヨーロッパに属するかという問題もある(参照)。EUに加盟しうるのは、ヨーロッパの国のみであり(EU条約第49条 [参照])、トルコはこの基準を満たしていないとする見解が主張されている。つまり、わずか5
%の領土しか、ヨーロッパに位置していないことが指摘されている参照)。

 もっとも、トルコは、すでに多くのヨーロッパ国際機構に加盟している。例えば、同国は、欧州評議会原加盟国である。この問題について、オーストリアの Fischer 大統領 (参照)は、欧州統合は人とともに歩むべきであり、ある人を敵対視して行われるべきではないと述べている(参照)。

 なお、1990年半ばのクルド労働者党(PKK)掃討作戦中に破壊された地域の再建もトルコ政府の主導下で進められており、Tuzla には、追い払われたクルド人家族(約30)が再入植を行っているとされるが、2004年5月以降は、トルコ軍とクルド人の衝突も再発している。地域の荒廃や治安状態を考慮すると、クルド人が居住するトルコ南 東部は、ヨーロッパからかけ離れているとも解される(参照)。

  
リストマーク 地理的に、トルコはヨーロッパに属さないとする見解


 
以上の点をまとめると、経済力に劣り、高人口国であるトルコは、宗教、文化、また、地理的に西欧諸国からかけ離れており、国土の大部分は、政治的に安定していない中近東に属することがEU加盟の障害になっていると言える。



リストマーク トルコとEU

トルコ 従来のEU加盟国 新規加盟国
人口 6960万人 3億7840万人 7430万人
1人当たりのGDP 5500ユーロ 24010ユーロ 11150ユーロ

全労働者に対する農民の割合

33,2% 4,0% 13,4%

統計 DER SPIEGEL, Nr. 8, 16. Februar 2004, Seite 97





ト ル コ の E U 加 盟 が も た ら す 利 点


 他方、トルコのEU加盟は以下の点で優れている (参照@ A)。


外交・安全保障能力の強化

 地理的に巨大で、また、アジア、地中海、バルカン半島周辺において軍事力を誇っているトルコを統合することによって、国際舞台におけるEUの発言・交渉力が増す。なお、安全保障の観点から、米国はトルコのEU加盟を支持している。

  リストマーク 懐疑的な見解



 すでに NATO の一員であるトルコは、アメリカ寄りというよりは、ヨーロッパの視点に立っている参照。2003年春、米国は、イラク戦争に備えるため、トルコに軍隊を駐留させることを計画していたが、トルコ国会の反対にあい実現しなかった。アラブ社会では、超大国に No  と言える国があるのかという驚きの念で捉えられている参照





キプロス問題の解決、バルカン半島や中東における和平の実現

 トルコは、イスラエルと国交を有する数少ないイスラム教国の一つであるため、仲介役を期待しうる
参照


  リストマーク 懐疑的な見解

 EU加盟は、トルコ自身の民主化ないし非軍事化、また、人権保護の促進にも貢献しうると解される (参照)。


異教徒間の交流の促進

 トルコの国政や社会生活に対するイスラム教の影響は小さくなっているが、トルコに門戸を開くことで、EUの反閉鎖的な態度が示され、キリスト教徒とイスラム教徒の交流を促進することにもなる。2004年5月の 東方拡大 によって、東西ヨーロッパの再統一が達成された現在、次なる課題は、キリスト教国とイスラム教国の統合であるとする見方もある(参照)。


石油資源の確保、貿易の拡大

 トルコのEU加盟により、イラクやイランはEUの隣接国になり、石油を初めとするエネルギー資源の調達が容易になる。また、トルコを介在することにより、現在停滞している EU・第3国間の貿易を活性化させることができる。




リストマーク トルコがEU加盟を望む理由

 
あるアンケートによると、トルコ国民の73%以上は、EU加盟に賛成しているとされるが(その一方で、EUが加盟を承認するであろうと考えている回答者は半数に過ぎない)、その大きな理由は以下の通りである参照)。

EU内への移動や、EU内での労働の自由化
 もっとも、2004年5月に加盟した東欧諸国からの労働者の移動には、7年間の経過措置が認められており、EU加盟は直ちに労働市場の開放を意味するわけではない(参照)。

EUによる経済援助

外国人による投資の増加





 ド イ ツ に お け る 議 論 再 燃

 欧州議会選挙が実施される2004年、ドイツでは、トルコのEU加盟問題が再び注目を集めている。保守系政党 〔現野党〕の CSU は、この問題を選挙テーマにする予定である。CSU の政治活動はバイエルン州に限定されているが、党議をほぼ共通にし、全国規模(バイエルン州を除く)で活動している CDU がこれに倣うかどうかは不明である。


 CDU・CSU は、1994年以降、野党側に回っているが、現在、政権の構図は大きく逆転している。そのため、両姉妹政党の動向は無視しえないが、2004年2月16日、CDU の Merkel 党首はトルコを公式訪問し、Erdgon 首相と会談した。その際、旧東ドイツ出身の CDU 党首は、同イスラム教国に不相応な期待を持たせてはならないとし、 EU 加盟に反対である旨を明瞭に示した。その理由として挙げられているのは、トルコの巨大さ、経済力が弱いこと、また、人口の33,2%は農業に従事しており、EU は、同国の加盟を経済的に賄えないことである。

Merkel党首とProdi欧州委員長

CDUのMerkel 党首(左)
とProdi  欧州委員長

写真提供
Audiovisual Library European Commission

 これに対し、現政権政党は、トルコの EU 加盟に賛成する態度を変えておらず、Merkel 党首のトルコ訪問から、わずか6日後の 2月22日、Schröder 首相は、アンカラに渡り、トルコの EU 加盟を従来通り支援する意向を伝えた。



リストマーク ドイツ政府がトルコの EU 加盟を支持する理由 

 Fischer 外相は、Berliner Zeitung [ベルリン新聞]のインタビューにおいて、確かに、自分も、かつては、トルコの EU 加盟を強く支持してはいなかったが、米国同時多発事故によって、見解が変わったとしている。つまり、2001年9月1日は、外交・安全保障政策上、トルコを含めたヨーロッパ諸国が団結する必要性を認識させ、「小ヨーロッパ主義」はもはや、戦略的に機能しないと述べている。

 

 なお、2004年9月2日、Fischer 外相は、Bild Zeitung (ビルド新聞)の取材において、加盟交渉が成功裏に終了し、トルコのEU加盟が実現するのは、10〜15年も先のことであると述べている(参照)。この発言には、トルコのEU加盟に消極的なドイツ国民の不安を鎮める意味も込められていると解される。

Fischer外相(ドイツ)

ドイツの Fischer 外相

写真提供
Audiovisual Library European Commission



(参照) ドイツ外務省のホームページ [ドイツ語]

(参照)

トルコのEU加盟反対派を外国人・イスラム排斥主義とみなし、また、トルコのEU加盟に伴う財政問題を度外視するドイツ政府に否定的な新聞社説として Die Welt





 前述したように、CDUの Merkel 党首は、トルコの EU 加盟には難色を示す一方で、「特権的パートナー」 としてならば、迎え入れる用意があることを表明している。もっとも、この提案を批判する党員もおり、CDU の公式見解として捉えてよいかは不明である。なお、姉妹政党 CSU の Stoiber 党首は、トルコの EU 加盟は、ヨーロッパの政治統合のビジョンを崩すものとして、Merkel 党首の外交路線を支持している。

 EC・トルコ間には、すでに関税同盟が結成されており、経済的には、さらにどのような魅力ある「特権」を与えうるか疑問視する見解もある(参照)。また、トルコ自身は、特権的パートナーという地位に満足しないとされている参照 こちら も参照)

  

リストマーク  特権的パートナーシップ

リストマーク  2004年3月12日、ザールラント州の Müller 首相(CDU)は、人権侵害が改善されない限り、トルコはのEU加盟に反対である旨を表明した。

 
(参照) Yahoo! Nachrichten

リストマーク

 欧州委員会の報告書 発表を約1か月後に控えた2004年9月、CDU の Merkel 党首は、トルコのEU加盟に反対の姿勢を改めて強調した。特に、同じく保守系の Berlusconi 首相、オーストリアの Schüssel 首相、フランスの Raffarin 首相、また、新欧州委員長に内定している Barroso 氏(ポルトガル前首相)に送った書簡の中で、Merkel 党首は、来る12月の欧州理事会で、トルコとの加盟交渉に反対の立場を取るよう要請しているとされるが、党内からは、加盟交渉の開始を頭から否定するのは問題であるとする見解も出ている。

 (参照) Die Welt  FAZ @ A

 なお、同じ保守系の政治家でも、Berlusconi イタリア首相、Balkenedne オランダ首相、Lopes ポルトガル首相、Raffarin フランス首相、Karamanlis (ギリシャ首相)、また、Parts エストニア首相は、加盟交渉の開始を支持しているとされる(参照)。


リストマーク

 2004年10月、ドイツでは、トルコのEU加盟反対署名運動を実施するかという問題が浮上した。トルコのEU加盟はドイツの運命を左右する重要な問題にあたるとし、CSU の Michael Glos 議員が実施を提案したところ、CDU の Angela Merkel 党首と CSU の Edmund Stoiber 党首の支持を得た。Stoiber 党首は、EUは単なる自由貿易地域ではなく、政治的な同盟であるため、第3国の加盟については、国民の間で議論する必要あるとしている。なお、1999年のヘッセン州議会選挙では、CDU が二重国籍制度への反対署名運動を展開し、勝利したことがあった。

 これに対し、与党 SPD は、扇動的な試みとして署名活動を批判している。また、Mehmet Ali Irtemcelik トルコ大使も、ドイツ国内に居住する270万のトルコ国民に致命的な結果をもたらすとして、ヒステリックな展開を警告している。

 (参照) FAZ


New
 2004年10月15日、CDUの Volker Kauder 議員は、国内のニュース番組(ZDF-Morgenmagazin)において、懸案の署名運動は実施しないとする党の方針を明らかにした。これは、各方面からの厳しい批判を考慮したものと解されるが、Merkel 党首も署名運動が悪用されてはならないと述べている。なお、姉妹政党の CSU もこの決定に従っている。


(参照) Die Presse v. 16. Oktober 2004 (CDU verzichtet auf Unterschriftaktion)




リストマーク

2004年12月初め、CDU の Merkel 党首と CSU の Stoiber 党首は、連名で Schröder 首相に手紙を送り、トルコとの加盟交渉を開始してはならないと訴えた。その理由として、トルコの加盟は、EUに大きな負担となることが挙げられている。なお、トルコの制度改革を強力に支援することが必要であるため、特権的パートナーシップ を構築すべきであるとしている。近時は、Merkel 党首と Stoiber 党首の対立が表面化しているが、トルコとの加盟交渉に関しては、両者の見解が一致している。


(参照) FAZ v. 5. Dezember 2004 (Merkel und Stoiber: Kanzler muß Türkei-Beitritt stoppen)

Matthias Wissmann ドイツ連邦議員(CDU)のインタビュー記事


リストマーク

 2004年12月13日、Schröder 首相は、トルコのEU加盟を支持する立場を改めて強調し、代替案 の採択を退けた。これに対し、野党 CDU の Merkel 党首は、2006年の総選挙で政権交代が実現した暁には、国の方針を変更すると述べた。また、CSU の Söder 事務局長は、トルコのEU加盟問題を次期総選挙の主要テーマにする計画を示した。なお、同党は、2004年6月の 欧州議会選挙 に際しても、トルコのEU加盟に反対の署名活動を行うとしていたが、後にこれを撤回している。

 かねてから、CSU の Stoiber 党首も、トルコのEU加盟に強く反対しているが、「加盟交渉は必ずしも加盟の実現で終わるべきではないことが12月16・17日の決議に盛り込まれるよう、CDU の Merkel 党首と協力し、あらゆる手段を尽くす容易があることを Erdogan 首相は知るべきだ」とするStoiber 党首の発言が2004年12月12日付けの Frankfurter Allgemeine Sonntags 紙に掲載された。これに対し、Erdgan 首相は、トルコのEU加盟問題を国内政治に利用してはならないと厳しく批判し、両者間の対立が深まっている。


(参照) FAZ v. 13. Dezember 2004 (Schröder: Stoiber übersätzt sich in Türkei-Debatte)

 



New ドイツ国内で実施されたある調査によると、62%の国民はトルコのEU加盟を「よくない」と捉えているとされるが、加盟の実現は早くても2014年以降になると想定される。交渉はまだ進展していないと考えられる2006年の時点で、有権者を惹きつけるかどうか疑問視する報道もある参照






リストマーク

 2004年12月16日、ドイツ連邦議会は、与党の賛成多数によって、トルコとの加盟交渉開始を支持する決定を下した。野党 CDU の Merkel 外相は、欧州統合史上、初めて、地理的にヨーロッパを超える国との交渉を認める「歴史的な決定」が下されたと批判し、トルコにおける拷問の実態や宗教の自由が保障されていないことを指摘した。

 これに対し、Fischer 外相(緑の党)は、今回の決定は、加盟交渉の開始を支持するに過ぎず、直ちに加盟が実現するわけではないと述べた。また、野党が提唱する 特権的パートナーシップ はすでに形成されているとし、代替案を却下した。


(参照) Die Welt v. 16. Dezember 2004 (EU-Beitritt: Bundestag stimmt für Verhandlungen mit Türkei)

 

 

リストマーク

New 2006年10月初旬、ドイツの Merkel 首相は、ドイツ・トルコ経済フォーラムに出席するため、イスタンブールを訪問した。10月6日のプレス・コンファレンスでは、懸案の トルコのEU加盟問題 についても言及し、ドイツ首相としては、トルコのEU加盟を支援するが、ドイツ・キリスト教民主同盟(CDU)の党首としては、特権的パートナーシップ の構築を提唱すると率直に述べた。


     詳しくは こちら

 

リストマーク New  ドイツ大連立政権、トルコ問題で二分


イツ国内政党の公式サイト(トルコのEU加盟問題について)

     SPD   CDU/CSU   Gruene   FDP

 



  2004年9月〜12月の動き

 2004年10月6日、欧州委員会は、トルコが加盟基準を満たしているかどうかに関する報告書を提出することになっているが、これを肯定的に評価し、加盟交渉の開始をEU理事会に提案するものと解されている[参照]。この提案を受け、EU理事会は、12月16・17日、加盟交渉を実際に開始するか決定する。


 ヨーロッパの政治家で構成される「独立トルコ委員会」(unabhängige Türkei-Kommission) は、2004年9月6日、トルコのEU加盟に関する報告書をEUに提出する予定であるが、同国のEU加盟にまつわる誤った懸念を否定し、EU加盟を支持するものと解される(参照)。



 当初の予定通り、9月6日、報告書が公表され、トルコとのEU加盟交渉開始を支持する見解が示された。独立トルコ委員会によれば、トルコのEU加盟は「問題」ではく、「挑戦」とされている。また、加盟が実現しても、(欧州憲法による立法手続をも含めて)、EUの諸制度を大幅に変更する必要はないとしている参照)。

   詳しくは こちら


 
また、同委員会の Ahtisaari 氏(元フィンランド大統領)は、イスラム教徒による反動は、トルコがEUに加盟する場合にではなく、加盟が拒絶された場合に生じるとしている参照



 Verheugen 欧州委員(EU拡大担当)は、9月6日よりトルコを訪問し、最終調査を行う予定である。アンカラに到着した Verheugen 氏は、欧州委員会は、公正で、客観的かつ実直な報告書を作成することを明らかにし、これをトルコ政府要人に約束した(参照)。トルコのEU加盟問題について検討することは、EU拡大担当委員としての Verheugen 氏の最後の任務になると見られている(参照)。


  ・ 詳しくは こちら

Verheugen欧州委員

Verheugen 欧州委員

写真提供
Audiovisual Library European Commission

 ・ Verheugen 欧州委員(EU拡大担当)のコメントは こちら
 ・ 
トルコ訪問後に公刊された誌上インタビューは こちら



 9月23日、トルコの Erdogan 首相は、ブリュッセルに赴き、欧州議会の会派のリーダーにEU加盟支持を訴える予定である参照。なお、加盟国内に同じく、欧州議会内でも、見解は分かれており、最大勢力を誇る保守会派(EVP)では、意見が半々に割れているとされる(スペイン、ポルトガル、ギリシャ、イタリア、ベネルクス3国出身の議員は賛成しているのに対し、ドイツ、フランス、オーストリア出身の議員は反対している参照〕)。他方、第2党の社会党派は、トルコのEU加盟を支持しているが、Schulz 代表(ドイツ)は、絶対的に支持するわけではないと述べている参照。  

Erdogan トルコ首相

Erdogan トルコ首相

写真提供
Audiovisual Library European Commission

 離婚刑の再導入をきっかけに、欧州委員会との関係が緊張したことを受け、 Erdogan 首相は、当初の予定より早く、22日にブリュッセルに入り、翌23日は、「旧友の」Verheugen 欧州委員とも会談を行った(詳しくは こちら離婚の処罰化が廃案になるとの説明を受けたVerheugen 委員は、23日、トルコとの加盟交渉開始を阻む要因は、もはや何も残っていないと述べた(詳しくは こちら)。10月6日の欧州委員会の報告書発表に先立ち示された「ゴーサイン」は、トルコの株式市場や為替市場でも好意的に受け止められているが(参照)、依然として拷問は行われいることや、トルコのEU加盟より生じる負担の大きさを指摘し、Verheugen 委員の発言を批判する声もEU内からは聞こえている(参照)。



 10月6日、欧州委員会は、トルコのEU加盟に関する見解をEU理事会に述べるが、その前日、EU加盟25か国の外相は、トルコの最大都市イスタンブールで会合を開く予定である(参照)。


New

 当初の予測どおり、欧州委員会は、トルコとの加盟交渉の開始を提案したが、加盟交渉が開始されたとしても、トルコのEU加盟が実現するとは限らないことを明確にしている。

 詳しくは こちら



New 10月後半、トルコの Abdullah Gül 外相は、EU加盟国を外遊し、トルコのEU加盟支持を政府関係者に求める予定であるが、10月26日には、Recep Tayyip Erdogan 首相と独仏首脳との会談も計画されている。


Gül 外相のインタビュー記事


 かねてからトルコのEU加盟に反対してきたドイツ・キリスト教民主同盟(CDU)の  Merkel 党首は(詳しくは こちら)、11月4日開催予定のヨーロッパ保守政党会議において、改めて、反対の立場を強く訴えるものとされている(参照)。

 EU加盟国首脳がトルコとの加盟交渉の開始について決定するに先立ち、欧州議会は、12月15日に議員全員による採決を行う予定である。この点について、Borrell Fontelles 議長は、市民によって直接選出される唯一のEU機関として、欧州議会は意見を述べる権利があるとしている。投票結果に法的拘束力はないが、EU加盟国首脳はこれを無視しえないと解される。なお、議会内で最大勢力を誇る保守系政党会派は、トルコとの加盟交渉開始に強く反対しており、Pöttering  会派長は、人権侵害の実態を考慮すると、交渉は時期尚早であるとしている。他方、社会党系会派、環境保護政党会派、また、自由党会派は交渉開始に賛成しており、これが議会の多数意見になるものと解される。


(参照) Der Standard v. 8. November 2004 (EU-Parlament stimmt über Türkei ab)



New 2004年12月15日、欧州議会はトルコのEU加盟問題について審議し、加盟交渉を遅滞なく開始すべきであるとする Camiel Eurlings 議員(オランダ)の決議案を圧倒的多数で採択した。賛成票を投じた議員は402人、反対した議員は262人、棄権した議員は29人であった参照

 なお、トルコのEU加盟を認めず、特権的パートナー として迎え入れるべきであるとするドイツ議員の決議案は否決された
参照

 トルコのEU加盟問題について最終的な決断を下すのは、EU加盟国であり、前述した欧州議会の決議は拘束力をもたない。また、議会が多数決制度をとるのに対し、トルコのEU加盟問題について、欧州理事会は全会一致にて判断を下す。そのため、少数とは、反対意見があることも無視してはならない。

 なお、トルコの Erdogan 首相は欧州議会の決定を評価している。また、加盟直後、例えば、労働者の移動の自由が一時的に制限されることに譲歩を示した。




 トルコとのEU加盟交渉の開始に関し、意見が大きく割れているのは、保守系政党であるが、欧州議会の保守系政党会派は、オーストリアの Wolfgang Schüssel 首相を調整役に任命した。12月16・17日に予定されている欧州理事会の決議に向け、同首相は、各国の保守派の見解を調整することになる。

(参照) Der Standard v. 7. November 2004 (Irak und Bush als Zankäpfel auf EU-Gipfel)




New 2004年12月16日、保守系政党のリーダーは、ブリュッセルで会合を開き、トルコとの加盟交渉の開始を支持する決定を下した。また、 特権的パートナーシップ の形成という代替案を否決した。加盟交渉の開始から3年が経過した時点(2008年)で、再検討するという案も却下された。

 もっとも、恒常的なセーフガード条項、非常に長い移行期間、また、無期限の例外規定の導入の必要性が確認された。また、加盟交渉が失敗した時には、トルコの面目を保つため、EUの諸制度への緊密な統合を保障しなければならないことで合意された。

 このように、EU内の保守系政党のリーダーは、トルコとの加盟交渉を条件付きで賛成するに至ったが、調整役を務めたSchüssel 首相(オーストリア)は、トルコの加盟によって、EU内の結束が乱されてはならないことを強調した参照


(参照) Die Welt v. 17. Dezember 2004 (EVP einigt sich auf ein "Ja, aber" zur Türkei)

  






リストマーク EU理事会議長国オランダの提案 
外相会議 始まる



   

New 2004年12月16日、EU加盟国首脳は、トルコとの加盟交渉を開始することで合意に達した。開始日は、2005年10月3日である。

    
詳しくは こちら
    
2005年10月3日の交渉開始に向けて

    加盟交渉の正式開始

 




  加 盟 交 渉 の 開 始 が 決 定 さ れ た 場 合


 トルコとのEU加盟交渉開始が決定されれば、交渉は「遅滞なく」(2002年12月のコペンハーゲン欧州理事会決議)開始されるものとされている。なお、2005年に欧州憲法の批准を問う国民投票が実施されるフランスや、2006年秋に総選挙が実施されるドイツは、トルコのEU加盟問題がネガティブに作用するのを避けるため、加盟交渉の早期開始を望んでいるとされる(参照)。


New その後、フランスは、加盟交渉の開始をできるだけ遅らせるべきと方針変更した(詳しくは こちら

New 2004年12月17日、欧州理事会は、加盟交渉を2005年10月3日に開始すると決定した(詳しくは こちら)。


 従来、加盟交渉を行った国は、すべてEUに加盟しているため、トルコの加盟も時間の問題と解されるが、交渉が終了し、EU加盟が実現するのは、早くても2015年と考えられている。また、トルコ人労働者に対する市場の開放は、さらに10年後と解されている参照)。

 加盟交渉が10年以上も継続することは、非現実的であるとする見方もある一方で(トルコのEU加盟に消極的なドイツ CSU の Stoiber 党首)、10〜15年という交渉期間はむしろ現実的であるする立場もある(支持派の Fischer ドイツ外相)(参照)。10〜15年経てば、保守的なドイツ国民の抵抗感も薄れるとの見解もある一方で、Verheugen 欧州委員はこれを否定している(参照)。

 なお、ルクセンブルクの Juncker 首相は、加盟交渉を完了する必要はないとし、交渉中断の可能性を指摘している(参照)。また、トルコのEU加盟に消極的な欧州議会保守会派(EVP)の Pöttering 氏(次期、欧州議会議長に内定)も同趣旨の発言をしている(参照)。


 仮に交渉が成功裏に終了したとしても、オーストリアの国会は、トルコのEU加盟を否決する可能性が高い(参照)(New 現在、オーストリアでは、国民投票の実施について議論されている 〔詳しくは こちら〕)。また、国民投票の実施を予定しているフランスでも、同様に否決される可能性があるが、10年以上にわたる交渉の結末がこれでは、トルコを納得させることができないであろうとの見解も主張されている(参照)。なお、現行EU条約によれば、第3国のEU加盟に際し、EU加盟国と新規加盟国との間で条約(加盟条約)が締結され、同条約は全ての締約国によって批准されなければならない(詳しくは こちら

  リストマーク ドイツ外相の見解


 2004年10月1日、フランスの Chirac 大統領は、国民投票を実施し、トルコのEU加盟に関する判断を直接、国民に問うと述べた(参照)。この点について、次期欧州委員長に内定している Barroso 氏は、このように重要な問題をEU市民の見解に反して決定するのは間違いであろうと述べ、全加盟国で国民投票を実施する必要性を示唆した(参照)。

  
  リストマーク
Barroso 委員長、加盟交渉の開始を支持

Barroso 氏

Barroso 氏

写真提供
Audiovisual Library European Commission



New 2004年12月17日、トルコとの加盟交渉開始が決定されたことを受け、オーストリアの Schüssel 首相は、交渉の終了後(おそらく10年後)、国民投票を実施し、トルコのEU加盟の是非を直接、国民に問う方針を明らかにした(詳しくは こちら


リストマーク  トルコのEU加盟の是非を問う国民投票

2005年10月3日の交渉開始に向けて


加盟交渉の正式開始

  



加 盟 交 渉 手 続   


 
2004年12月16・17日、欧州理事会は、トルコとの加盟交渉を2005年10月3日に開始すると決定した参照)。

 交渉は、個々のEU加盟国とトルコとの間で行われるが、EUの利益は欧州委員会によって代表される。また、EC法の総体系の受け入れ など、加盟要件の充足については、委員会によって調査される。

 2004年12月16・17日、欧州理事会は、交渉の進め方や計画は、全25ヶ国が参加する政府間協議によって、トルコと共同で決定されると定めた。決議は全会一致による。また、受け入れが必要なEC法の特定や、その国内法への置き換えについても、欧州委員会の提案に基づき、交渉が開始される前に定められるとした。


リストマーク  2005年10月3日の交渉開始に向けて

委員会、交渉手続の枠組みを提案

2005年9月の加盟国外相会議

キプロス外相の見解

欧州議会、加盟交渉の開始を了承

加盟交渉の正式開始

加盟交渉手続の詳細



Q & A




Q


 トルコのEU加盟を前提にした連合協定は、すでに1963年に締結されているが、同国のEU加盟がまだ実現していないのはなぜか。


A


 EUに加盟するには、諸制度を西欧流に改革しなければならないが、その進行が非常に緩慢であることが主たる理由として挙げられる。なお、加盟申請国が満たさなければならない加盟基準は、1992年2月制定のEU条約第49条において明文化され、また、1993年6月には、コペンハーゲン基準
が定められている参照)。


Q


 伝統的にトルコがイスラム教国であることは、EU加盟の障害となるか。


A


 EU条約第49条やコペンハーゲン基準は、キリスト教国であることを要件として掲げていないが、EU内の保守派は、イスラム教国のEU加盟に強い抵抗感を抱いている。なお、トルコの政治・社会制度の宗教色は薄らいでいるとされるが参照)、EU内の保守派の抵抗は根強く残っている。


Q


 1963年、トルコと連合協定が締結された当時、EUはまだ発足していなかったが、その後のEUの発展は、トルコの加盟問題に影響を及ぼしているか。


A


 経済統合を目的としたECから、政治統合をも視野に入れたEUに発展したことは、少なからぬ影響を及ぼしていると解される。現実に、経済面においては、EU・トルコ間の統合は進展している参照)。


Q


 安全保障の観点から、トルコのEU加盟を支持する立場もあるが(例えば、米国の見解)、これは、トルコのEU加盟にどのような影響を及ぼすか。


A


 トルコは、アジア、地中海、バルカン半島周辺の安全保障に大きな影響力を行使しうると解されるが、EUは安全保障同盟ではないため、決定的な基準にはなりえないと考えられる。なお、安全保障面に関しては、NATOの枠内で統合が進展している。


Q


 トルコのEU加盟は、EUの財政を圧迫するか。


A


 トルコのEU加盟を実現するには、年間で140〜150億ユーロ必要になり、EU財政を圧迫しかねないことが指摘されている参照)。なお、EU加盟には、経済支援という側面があり、従来より、新規加盟国に対して、経済援助がなされてきた。もっとも、トルコに対しては、2004年5月の東方拡大の規模を上回る支援が必要とされており、その規模の大きさが問題視されている。

 現在、2007〜2013年のEU財政計画について審議されているが、トルコの加盟は、その次の財政計画(2014〜2020)において初めて考慮されるものとされている(参照)。なお、ドイツやオランダなど、EUから補助金を得るよりも、多くの資金を拠出している加盟国は、トルコのEU加盟に積極的であるが、EUの予算拡大(また、自国の負担増)には反対している(参照)。このような矛盾は、欧州議会の Borrell Fontelles 議長 などによって批判されている。


Q


 2004年5月、新たに10か国が加盟したばかりであるが、数年後には、ルーマニアやブルガリアの加盟も予定されている。そのため、当面、拡大は控えるべきであるとする見解は妥当か。


A


 トルコのEU加盟は、早くて10〜15年後とされている参照)。そのため、前述した見解は説得力に欠ける(参照)。


(2008年 5月 3日 更新)

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