現在、EUの予算は、7年間の財政計画に基づき、単年度ベースで編成されている(第268条第1項、第271条第1項および第2項参照)。中期的な財政計画は、欧州理事会 (EU加盟国首脳会議)によって決定されるが(なお、欧州議会 の承認を必要とする)、加盟国の拠出金額を定めるだけではなく、予算の分配や諸政策の基本方針にも影響を及ぼす重要な案件であるだけに、審議は紛糾することが多い。
次期(2007〜2013年)財政計画 についても、イギリス優遇策 の見直しや、財政制度の「現代化」 をめぐって、2005年6月の協議は決裂し、議長国ルクセンブルク(当時)の Juncker 首相 は、EUは 「深刻な危機」 に直面していると厳しく批判した(参照)。この状況を悪化させず、また、予算編成を円滑に行うためにも、2005年内に次期財政計画を策定する必要性が指摘されていたが(参照)、同年下半期、議長国を務める イギリス は、当初、事態の収束に消極的で、10月の欧州理事会の議題から削除した(参照@、A)。また、12月の会議の直前にいたっても、各国が受諾しうるような妥協案は示されなかったため、問題解決の先送りも懸念された(参照)。
12月の欧州理事会は、15日(木)、16日(金)の日程で開催されたが、初日の全体会合で各国間の不協和音が顕著になると、翌16日、議長国イギリスは、大会議場での協議を見送り、個々の加盟国と個別に交渉する戦術に出た。そして、日付けが変わり、各国首脳も気力を消耗しきった午前1時、イギリス政府は新たな提案を行い、午前2時30分過ぎの全体協議で財政計画は採択された(参照@、A)。
協議を成功裏に導いた背景には、前述した議長国イギリスの交渉戦術の他に、11月にドイツ首相に就任し、初めて欧州理事会に出席した Angela Merkel 氏 のイニシアチブによるところが多いとされている。女性として初めてドイツ首相の任に就いた Merkel 氏は、当初、容易に妥協する姿勢を見せていなかったが、英仏の対立を目の当たりにし、15日(木)晩には、最大の資金拠出国として、EU財政を支え続ける意向を表明し(参照)、英仏の仲介や予算規模の拡大を提唱するに至った。また、ポーランドへの予算配当を確保するため、旧東ドイツ地区や辺境地への補助金の削減に合意しているが、これは、議長国イギリスのさらなる譲歩を引き出しとされている(参照)。イギリス優遇策 の削減に Blair首相が当初の予定を上回る妥協案に合意していなかったら、12月の協議も決裂していたと解されるが(参照)、今後、英独の両首脳は、国内の支持獲得に尽力しなければならない。
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