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トルコの国旗 トルコ、関税同盟の拡大を見送る キプロスの国旗


 2005年7月27日、トルコは、EC・トルコ間の関税同盟をキプロスにも拡大するための議定書に調印するとみられていたが、これを見送った。仮に議定書が制定される場合であれ、トルコはキプロスを独立国家として承認するわけではないとする従来の方針を崩していない。そのため、トルコとのEU加盟交渉が当初の予定通り、2005年10月3日に開始されるかどうか定かではない(参照)。

 7月27日、トルコの Erdogan 首相は、現在、EU理事会議長を務めるイギリスの Blair 首相 との会談後、関税同盟の拡大は直ちにキプロスの外交的承認を意味するものではないとの方針を再度強調し、議定書の締結に際しては、その旨を公式に宣言することを明らかにしている。トルコのEU加盟を強力に支援するイギリス首相は、これを支持しているが、欧州委員会や欧州議会の中からは批判的な見解も発せられている。保守系政党会派の Pöttering 会派長は、EU加盟国を外交的に承認しない国の加盟など認められないとし、キプロスが承認されない限り、EU加盟交渉を開始すべきではないと述べている(参照)。また、キプロスの Papadopoulos 大統領も、Erdogan 首相の発言を批判するとともに、自国が承認されない場合は、トルコのEU加盟の決定に際し、拒否権を行使すると述べている(参照)。


(2005年7月27日 記)





トルコの国旗 トルコ、関税同盟の拡大に関する議定書に調印 キプロスの国旗


 2005年7月29日、トルコは関税同盟の拡大に関する議定書(いわゆる、アンカラ議定書)に署名した。もっとも、これは、キプロス共和国の外交的承認を意味するわけではなく、トルコは、従来通り、トルコ系キプロスのみを承認するとしている(参照)。 また、議定書の調印に際し、トルコは、「本議定書への署名、批准および実施は、決して、キプロス共和国の承認を意味するものではない」とする宣言を発している(参照@A)。ギリシャ外務省は、このような一方的な宣言を批判すると共に、政治的立場と法的状況の矛盾を指摘している。また、キプロス共和国政府は、トルコが自国の承認を拒絶する方針を変更していないことに対し、深い遺憾の意を表明している(参照)。


リストマーク  フランス首相の批判
 デンマーク首相の批判

 
キプロス問題に関するトルコ政府の方針


 現在、EU理事会議長を務めるイギリスの Blair 首相 は、議定書の締結と国家の承認は別問題であるとする立場を支持しており(参照)、これが、かねてより調印を渋ってきたトルコに大きく働きかけたと解されるが、いずれにせよ、イギリス政府は、トルコの宣言を慎重に審査するとしている。

 議定書の締結は、トルコとのEU加盟交渉開始に関する最後の条件とされているが(参照@AB)、トルコと現EU加盟国間に外交的問題が残存する状態では、交渉は、予定通り、10月3日に開始されない可能性もある(参照)。交渉の枠組みは、すでに欧州委員会によって提案されているが(詳しくは こちら)、全EU加盟国によって承認される必要がある。この問題は、9月2日、イギリスで開催される加盟国外相会議で審議される予定である(参照)。




New 関税同盟の拡大に関する議定書は、EU(正確にはEC)とトルコの双方によって批准された後に発効するが、双方はまだ批准手続を終了していない。
 
 EU(EC)による批准には、欧州議会の承認が必要になるが、キプロスの承認を拒むとするトルコの宣言(前述参照)に抗議し、欧州議会は、9月28日、議定書の批准を了承しなかった(参照こちらも参照)。特に、議会内で最大勢力を誇る保守系政党会派は議定書の批准に反対すると共に、トルコに対し、キプロスの承認を強く要求している。議会の
投票結果は以下の通りである(参照)。


  ◎ 投票結果
反対票 311
賛成票 285
棄権  65



(2005年9月28日 記  9月30日 更新)





(2005年7月29日 記 9月28日 更新)


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Rehn 欧州委員、予定通りの交渉開始を支持

 2005年8月1日、欧州委員会の Rehn 委員 (EU拡大担当)は、トルコ政府の宣言は、関税同盟の拡大に関する議定書の発効に影響を及ぼすものではないため、トルコとのEU加盟交渉は、当初の予定通り、10月3日に開始しえようと述べた。もっとも、専門家の鑑定が来週中にも発表される予定である(参照@A)。最終的な判断は、9月初旬、EU加盟国によって下される(詳しくは こちら)。

   New Rehn 欧州委員の見解


(2005年8月1日 記)


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EU加盟国外相、予定通りの交渉開始を決定

 2005年9月1・2日、EU加盟国の外相は、トルコとの加盟交渉を予定通り、10月3日に開始すると決定した。また、キプロスの承認を拒む旨のトルコの宣言に関し、EU側も声明を発表することを決めているが(詳しくは こちら)、その中でEUは、関税同盟に関する義務を誠実に履行するよう要請するものと解される。今日でも、トルコは、キプロスに対し港や空港を遮断しているが、関税同盟の設立に伴い、その撤廃が必要になる可能性がある。なお、トルコは、関税同盟はモノ(商品)の貿易の自由化を目的としており、サービスは対象にしていないとして、港や空港の開放に反対している(参照)。


(2005年9月2日 記)


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英仏の妥協

 キプロス問題について、フランスはキプロスを支援する一方で(参照)、現在、EU理事会議長国を務める イギリス は、トルコに好意的な態度を示しているが(参照)、2005年9月9日、フランスは、イギリスに譲歩したとされる。両国の合意によれば、トルコに対する宣言において、EUは、全ての加盟国の承認をEU加盟の(優先的)条件に掲げ、その遵守をトルコに要請するものとされる(参照)。この妥協案は、加盟交渉の開始までに、キプロスを承認するよう要求していない。また、この案によれば、キプロスの承認は、早くても10年後(トルコのEU加盟は早くとも2014年とされている〔参照〕)であってもよいことになる。これはキプロスの要請に応えるものではないため、2005年9月13日、同国政府は、10月3日の交渉開始を阻止するとの声明を出している(参照)。

 

(2005年9月9日 記)



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加盟国EU大使の合意

 2005年9月19日付のオーストリアの日刊紙 Der Standard によれば、EU加盟国のEU大使は、2005年9月19日、トルコに対する宣言の文面について合意した。それによれば、キプロスの承認は、加盟交渉手続の重要な要素にあたるとされる。つまり、トルコは、加盟交渉が終了する段階で初めてキプロスを承認するのでは足りず、交渉過程の最中に承認しなければならない。また、トルコに対する宣言において、EUは、関税同盟の拡大に関する合意を誠実に履行し、キプロスに対し、港や空港を開放するよう求めるとされる。この宣言は、翌20日のEU理事会(農相会議)で採択される予定である(参照)。

(2005年9月19日 記)


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EU理事会、トルコに対する宣言を採択せず  

 2005年9月20日付のオーストリアの日刊紙 Der Standard によれば、EU理事会(農相会議)は、前日(19日)、大使レベルで合意されていた、トルコに対する宣言の採択を見送った。これは、現在、EU理事会議長国を務めるイギリス政府が、20日の議題より削除したためとされる。なお、その理由は明らかにされていない(参照)(New 後述するように、最終的に宣言は採択されている)。

 なお、20日、キプロスの  Papadopoulos 大統領 は、メディアに対し、10月3日の加盟交渉開始に反対するEU加盟国はないと述べ、自国もこれを了承する立場を明らかにしている(参照)。



New  2005年9月21日付のオーストリアの日刊紙 Die Presse は、トルコに対する宣言が採択されなかったのは、キプロスの代表が拒否権を行使したためと報じた(参照)。なお、その直前、同国の Papadopoulos 大統領は、トルコとの加盟交渉の開始を了承する旨の発言を行っている(前述参照)。

 ドイツの日刊紙 FAZ (9月21日付け)は、キプロスの代表が拒否権を行使したのは、トルコに対する宣言の内容ではなく、イギリス政府の対応に抗議したためと伝えている。トルコとの加盟交渉を予定通り、10月3日に開始させることに積極的なEU理事会議長国(イギリス)は、キプロス問題について再度、協議することを拒んだとされる(参照)。
 

   リストマーク イギリス政府の議事運営について




(2005年9月21日 記 9月22日 更新)



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ECと加盟国、トルコに対する宣言を採択

 2005年9月22日、ECとその加盟国は、キプロスの承認を拒むトルコの宣言は一方的であり、アンカラ議定書の一部を構成しないだけではなく、トルコに課された法的義務の内容を変更するものではないとする宣言を採択した。また、トルコとのEU加盟交渉の実施は、アンカラ議定書の誠実かつ完全な履行にかかっており、その実施状況について注意深く監視するとしている。さらに、全てのEU加盟国の承認をトルコに要求している(参照)。

 これは、トルコがキプロスの承認を依然として拒んでいること(参照)に対する措置であるが、22日、トルコ外務省は、EUのこのような声明は、40年以上にわたるトルコ・EU間の友好な協力関係を害するとして批判している(参照)。加盟交渉は、現加盟国と加盟申請国との2国間協議の形式で進められるため、キプロス問題の解決が不可欠であるが、キプロスは、さらに、自国の NATO 加盟をボイコットしないよう、トルコに要請している(参照)。


    リストマーク ECとその加盟国の宣言(ドイツ語)


(2005年9月22日 記)


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New 欧州議会、加盟交渉の開始を承認

 2005年9月28日、欧州議会 は、トルコとのEU加盟交渉を予定通り10月3日に開始させることを了承した。交渉開始に賛成した議員は356人、反対した議員は181人、棄権した議員は125人であった(参照)。なお、トルコがキプロスの承認を拒んでいることや(参照)、人権侵害(拷問、宗教・表現の自由の制限、同性愛の禁止)が依然として行われていることに対する批判が多くの議員より発せられた。そのため、圧倒的多数の賛成票とは裏腹に、確固たる支持は得られていない参照)。

 29日の決議の中で、欧州議会は、@ 加盟交渉のゴールは未定であること(交渉は、トルコのEU加盟でもって終了するとされるべきではないこと)を明確にしている。また、A できるだけ早くキプロスを独立国家として承認するだけではなく、B EU加盟が実現するまでに、アルメニア人の大量虐殺 という史実を承認するよう、トルコに要請している。

 他方、欧州委員会に対しては、トルコの制度改革を監視し、加盟交渉の各段階(参照)が終了するごとに中間評価を行うよう要請している。

 なお、第3国との加盟交渉の開始について、欧州議会には最終決定権限はなく、EU加盟国の全会一致によって決断が下される。各国政府は、トルコとの加盟交渉を10月3日に開始させることには合意しているが、交渉手続の枠組みについては、一部の加盟国の反対により、まだ見解はまとまっていない。


(2005年9月28日 記)


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New 加盟国のEU大使、交渉の枠組みに合意せず

 2005年9月29日、EU加盟25ヶ国のEU大使は、ブリュッセルで会合を開き、トルコとの加盟交渉の枠組みについて協議したが、オーストリアの根強い反対により、枠組み案は採択されなかった参照。かねてより、同国政府は、加盟交渉が失敗に終わる可能性について予め明確に定めておくべきであると主張している(参照)。つまり、EU加盟に代わる選択肢(特権的パートナーシップの締結)について規定するよう提案しているが、他の加盟国の支持を得るには至っていない。現在、EU理事会議長国を務めるイギリスは、26日、オーストリアを説得するため、2国間協議を行ったが、失敗に終わっている(参照)。

 議案は、10月2日(日曜日)のEU加盟国外相会議に持ち越されることになったが、ここでも協議が成立しなければ、加盟交渉は、予定通り、翌3日に開始されないことになる(参照)。


       リストマーク オーストリアの抵抗

(2005年9月29日 記)




(参照) Die Welt v. 28. Juli 2005 ("Türkei riskiert mit Zypern-Schachzug Termin für EU-Verhandlungen")

Die Welt v. 29. Juli 2005 ("Zypern-Politik der Türkei gefährdet EU-Beitritt")

Der Standard v. 29. Juli 2005 ("Zypern droht mit Veto gegen Türkei-Beitrittsverhandlungen")

Der Standard v. 31. Juli 2005 ("Zollunion erweitert: EU prüft Türkische Zypern-Erklärung")

Der Standard v. 31. Juli 2005 ("Türkei muss Farbe bekennen")

Der Standard v. 01. August 2005 ("EU sieht kein Hindernis für die Türkei")

Der Standard v. 13. September 2005 ("Zypern droht mit Blockade der Türkei-Beitrittsverhandlungen")

Der Standard v. 13. September 2005 ("EU: Türkei muss Zypern während Verhandlungen anerkennen")
 

Der Standard v. 22. September 2005 ("Türkei kritisiert EU-Erklärung zu Zypern")

 

Die Presse v. 13. September 2005 ("Deal ebnet Weg zu Verhandlungen") 

Die Presse v. 14. September 2005 ("Zypern will Verhandlungen blockieren")

Die Presse v. 23. September 2005 ("Zypern will sich Aufnahme in Nato sichern")

Die Presse v. 28. September 2005 ("EU-Parlament für Start der Verhandlungen")

 

FAZ v. 21. September 2005 ("Zypern lenkt im Streit über Türkei-Verhandlungen ein")

FAZ v. 29. September 2005 ("EU-Botschafter verfehlen Einigung über Türkei-Verhandlungen")

FAZ v. 29. September 2005 ("EU-Parlament verschiebt Erweiterung der Zollunion")


トルコのEU加盟問題


(2005年7月29日記 9月29日更新)