国民投票で批准反対票が過半数に達した場合
リスボン条約の発効には全加盟国の批准が必要であるため(同条約第6条第1項参照)、アイルランドが批准を拒否する場合、同条約は発効しえない。前述したように、Liberatas
はリスボン条約による主権喪失に警鐘を鳴らしているが、EU総人口の1%にも満たない小国にとって、批准拒否は最大の意思表示となる。これと同時に、国民投票の意義やあり方について再検討されることになろう。また、EUレベルで考えるならば、総人口の1%未満の国がEUの将来について決することが果たして民主的かという問題も生じる(参照)。いずれにせよ、アイルランド国民の肩には、極めて大きな責任がのしかかっている。
これまでは、EU基本条約の批准拒否国に対し、様々な特別策が講じられてきたが(詳しくは こちら)、リスボン条約に関し、このような措置の可能性を欧州委員会や欧州議会は否定している。もっとも、これは、国民投票実施前の段階で悪い結果を想定してはならないという政治的ジェスチャーとして捉えるべきであり、実際に批准反対票が過半数を占めれば、アイルランドに対する譲歩案が浮上するであろう。このような可能性が否定され、欧州憲法条約に代わるEU第1次法として制定されたリスボン条約まで発効しえなくなるとすれば、「第3の条約」の制定は非常に困難になり、EUは新たな危機に直面すると解される。もっとも、仮に、そのような状況が生じるにせよ、EU体制が崩壊するわけではなく、現行条約制度(ニース条約体制)によって、欧州統合は進められることになろう。統合に積極的な一部の加盟国間で、より緊密な政策協力を推進することも、現行法上可能である(参照)。他方、アイルランドのEU脱退 は、同国がユーロを導入している以上、困難と解される(参照)。また、リスボン条約発効後はさておき、現行EU法上、EUからの脱退は認められていない(詳しくは こちら)。なお、フランスの国民投票 で欧州憲法条約の批准が否決された時と同様、ユーロ相場への影響(ユーロの下落)が想定される。
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6月13日、国民投票の結果が発表され、批准反対票が過半数に達したことが明らかになった(詳しくは こちら)。当初、リスボン条約の発効時期は2009年元旦とされていたが、今回の国民投票の結果を受け、この目標の実現を不可能となった。また、EUは、欧州憲法条約の発効断念に次ぐ、新たな危機に直面することになった。もっとも、これは欧州憲法条約やリスボン条約が目指していた機構改革を遅らせるだけで、当面は、現行法(ニース条約体制)に基づき、欧州統合が進められると解される。なお、これまでEU加盟国政府や欧州委員会は、「Plan
B」の可能性を否定していたが、国民投票の結果を受け、代替案の作成について審議されることになろう。これは、6月後半の定例EU加盟国首脳会議(欧州理事会)の主な議題になると解される。また、新たな危機の克服に向け、尽力しなければならないのは、2005年5月の国民投票の後に欧州憲法条約の批准を見送ったフランスである。同国は2008年下半期のEU議長国として、EUの政策を牽引する。
リスボン条約批准に関する国民投票の意義
マーストリヒト条約には EU創設 や ユーロの導入、ニース条約には EUの東方拡大 という明確なテーマがあったが、リスボン条約はそのような争点を持ち合わせていない。批准賛成派は、かつて貧しかった小国に欧州統合がもたらした甚大な貢献を強調しているが、この恩恵にアイルランド国民がどう応えるかが今回の国民投票では問われている(参照)。
リスボン条約は全ての加盟国が批准しない限り発効しないため、アイルランド国民の肩には、極めて大きな責任がのしかかっているが、総人口の1%未満の国がEUの将来について決することが果たして民主的かという問題も生じている(参照)。
なお、国民投票前夜の6月11日現在、EU加盟27ヶ国中、18ヶ国がリスボン条約の批准を決定ないし手続を終了している(詳しくは こちら)。
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