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リスボン条約
〜 リスボン条約 〜


リストマーク 批准手続 リストマーク


アイルランド、批准反対派の台頭

アイルランド国旗 2008年6月7日、サッカーのヨーロッパ選手権が開幕し、ヨーロッパ中はサッカーの話題で持ち切りであるが(参照)、熱い視線はアイランドにも注がれている。それは、リスボン条約批准の是非を問う国民投票がEU加盟27ヶ国中、唯一同国で実施されるからである。公式結果は投票日の翌日である6月13日(金)に発表される予定であるが、この「民意」は今後の欧州統合の発展に大きな影響を及ぼしかねない。


リストマーク 批准に反対する理由

 1973年のEC加盟以降、アイルランドは、とりわけ多くの経済的恩恵(EUの経済的支援)を受けており(参照)、最も貧しい西欧国から最も経済力のある「ケルトの虎」へと発展した。また、アイルランド出身の欧州委員 Charlie McCreevy 氏は、域内市場政策 を担当しており、EU市場統合のメリットを強力に印象付けている(参照)。もっとも、2007年以降は、米国サブプライム・ローン問題の影響をEU内で最も強く受けるようになり、2008年の経済成長率は前年の5%強より2%台に落ち込むと予想されている。また、急激なユーロ高が企業の輸出競争力を低下させる一方で、EU東方拡大後に自由化された労働市場では、東欧からの新EU市民が国民の雇用を脅かしている(参照)。さらに、エネルギーや食品価格が高騰し、インフレ率(3.5%)は欧州中央銀行の指標とされる2.0%(参照)を上回っている。このような状況下で行われる国民投票では、リスボン条約そのものの評価よりも、アイルランド国民の現状不満や将来への不安が反映されかねない。与野党を問わず、国会で議席を持つすべての政党(なお 、唯一 Sinn Féin は批准に反対している)が批准賛成運動を展開しているのに対し、反対派は、ユーロ の導入がアイルランドより通貨・財政政策上の権限を奪い、現在の不況に対応しきれていないのと同様に、リスボン条約は、アイルランドよりさらに多くの主権を奪うと訴えている(参照)。また、企業家の Declan Ganley 氏 が主導する Libertas は、@ EU議長や外相の任命(これらは国民によって選ばれるのではなく、EU理事会の特定多数決によって選出される)、A EUの立法手続におけるアイルランドの影響力が大きく低下すること、B アイルランドより、欧州委員会のメンバーが常に選出されるわけではないこと、C 税制やその他の経済政策に関するEUの影響力が増大することなどを含め、8つの反対理由を挙げている(参照)。リスボン条約に関する情報は、政府や公的機関ではなく、むしろ批准反対派によって活発に提供されているという現象がアイルランドでも見受けられる。なお、アイルランド政府も、反対派以上に資金を投じ、広報活動を行っているが、膨大な条約の理解は決して容易ではなく、かえって批准に反対する主な理由の一つとなっている。


リストマーク 批准反対派の台頭

 2001年6月に実施された国民投票で、アイルランド国民は ニース条約 の批准否決を決定しているが(詳しくは こちら)、当初は批准支持派が多数を占めており、情勢が逆転したのは、国民投票の直前である。今回の状況もこれに似ており、2008年5月中頃までは批准賛成派が反対派を上回っていたが、地元紙の Irish Times 等による最新のアンケート調査では、反対派のリードが確認されている。なお、批准反対論は、とりわけ低所得者層に多いとされている(参照)。

  



アイルランド国旗 アイルランドにおける従来の国民投票の結果

実施日・テーマ

投票率(%)

賛成票(%)

反対票(%)

 1972年 5月10日 EC加盟

50.7

84.6

15.6

 1987年 5月26日 単一欧州議定書の批准

44.1

69.9

30.1

 1992年 6月18日 マーストリヒト条約の批准

57.3

69.1

30.9

 1998年 5月22日 アムステルダム条約の批准

56.2

61.7

38.3

 2001年 6月 7日 ニース条約の批准

34.8

46.1

50.4

 2002年10月19日 ニース条約の批准(再)

49.5

62.9

37.1

出典




リストマーク 国民投票で批准反対票が過半数に達した場合  

 リスボン条約の発効には全加盟国の批准が必要であるため(同条約第6条第1項参照)、アイルランドが批准を拒否する場合、同条約は発効しえない。前述したように、Liberatas はリスボン条約による主権喪失に警鐘を鳴らしているが、EU総人口の1%にも満たない小国にとって、批准拒否は最大の意思表示となる。これと同時に、国民投票の意義やあり方について再検討されることになろう。また、EUレベルで考えるならば、総人口の1%未満の国がEUの将来について決することが果たして民主的かという問題も生じる(参照)。いずれにせよ、アイルランド国民の肩には、極めて大きな責任がのしかかっている。

 これまでは、EU基本条約の批准拒否国に対し、様々な特別策が講じられてきたが(詳しくは こちら)、リスボン条約に関し、このような措置の可能性を欧州委員会や欧州議会は否定している。もっとも、これは、国民投票実施前の段階で悪い結果を想定してはならないという政治的ジェスチャーとして捉えるべきであり、実際に批准反対票が過半数を占めれば、アイルランドに対する譲歩案が浮上するであろう。このような可能性が否定され、欧州憲法条約に代わるEU第1次法として制定されたリスボン条約まで発効しえなくなるとすれば、「第3の条約」の制定は非常に困難になり、EUは新たな危機に直面すると解される。もっとも、仮に、そのような状況が生じるにせよ、EU体制が崩壊するわけではなく、現行条約制度(ニース条約体制)によって、欧州統合は進められることになろう。統合に積極的な一部の加盟国間で、より緊密な政策協力を推進することも、現行法上可能である(参照)。他方、アイルランドのEU脱退 は、同国がユーロを導入している以上、困難と解される(参照)。また、リスボン条約発効後はさておき、現行EU法上、EUからの脱退は認められていない(詳しくは こちら)。なお、フランスの国民投票 で欧州憲法条約の批准が否決された時と同様、ユーロ相場への影響(ユーロの下落)が想定される。


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 6月13日、国民投票の結果が発表され、批准反対票が過半数に達したことが明らかになった(詳しくは こちら)。当初、リスボン条約の発効時期は2009年元旦とされていたが、今回の国民投票の結果を受け、この目標の実現を不可能となった。また、EUは、欧州憲法条約の発効断念に次ぐ、新たな危機に直面することになった。もっとも、これは欧州憲法条約やリスボン条約が目指していた機構改革を遅らせるだけで、当面は、現行法(ニース条約体制)に基づき、欧州統合が進められると解される。なお、これまでEU加盟国政府や欧州委員会は、「Plan B」の可能性を否定していたが、国民投票の結果を受け、代替案の作成について審議されることになろう。これは、6月後半の定例EU加盟国首脳会議(欧州理事会)の主な議題になると解される。また、新たな危機の克服に向け、尽力しなければならないのは、2005年5月の国民投票の後に欧州憲法条約の批准を見送ったフランスである。同国は2008年下半期のEU議長国として、EUの政策を牽引する。


区切り線



リストマーク リスボン条約批准に関する国民投票の意義

 マーストリヒト条約には EU創設ユーロの導入、ニース条約には EUの東方拡大 という明確なテーマがあったが、リスボン条約はそのような争点を持ち合わせていない。批准賛成派は、かつて貧しかった小国に欧州統合がもたらした甚大な貢献を強調しているが、この恩恵にアイルランド国民がどう応えるかが今回の国民投票では問われている(参照)。

 リスボン条約は全ての加盟国が批准しない限り発効しないため、アイルランド国民の肩には、極めて大きな責任がのしかかっているが、総人口の1%未満の国がEUの将来について決することが果たして民主的かという問題も生じている(参照)。

 なお、国民投票前夜の6月11日現在、EU加盟27ヶ国中、18ヶ国がリスボン条約の批准を決定ないし手続を終了している(詳しくは こちら)。


 
リストマーク

 オーストリア、国民投票の実施要請、強まる

 国民投票の意義



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(参照) Die Presse v. 6. Juni 2008 (Irlands Regierung panisch: EU-Nein ist möglich)

Die Presse v. 6. Juni 2008 (Umfrage: Immer mehr Iren gegen EU-Vertrag)

Der Standard v. 6. Juni 2008 ("Nationale Referenden sind Tod der EU")

Der Standard v. 8. Juni 2008 (EU-Vertrag: Die verrückten Iren)

EurActive v. 20. Mai 2008 (Das irische Referendum über den EU-Vertrag)



批准賛成運動を展開する The Irish Alliance for Europe のホームページ


批准反対運動を展開する Libertas のホームページ


批准反対運動を展開する lisbonvote.com のホームページ

 

 



アイルランド国旗 アイルランドの国民投票

 ・ Ahern 首相、国民投票の実施日を発表

 ・ 批准反対派の台頭

 ・ 国民投票の結果

 ・ 批准否決の背景

 ・ Eurobarometer の調査結果

 ・ 今後の対応

   ・ 2008年6月の欧州理事会決議


 ・ EU・加盟国要人の発言

 ・ アイルランドのための特別保障を採択

New  第2回目の国民投票まで1ヶ月


EUの旗 他の加盟国によるリスボン条約の批准



リストマーク 欧州憲法条約




(2008年 6月 7日 記  6月 13日 更新)