リスボン条約の批准をめぐっては、@ 国内憲法上、国民投票の実施が必要なアイルランド(参照)、A EU懐疑論が根強いイギリス、B 国内の政治問題が暗い影を落としている ポーランド 、スロバキア、イタリア、また、C 欧州憲法条約の批准を否決した フランス や オランダ の動向が注目されているが、すでにフランスは批准を決定している(参照)。また、ポーランド国会も批准を了承し、野党に属する大統領の署名を待つのみになった(参照)。他方、唯一、国民投票を実施するアイルランドでは、4月3日、Ahren 首相が5月6日の退陣を表明したことがどのような影響を及ぼすか注目される。
これに対し、国会の審議に委ねるオーストリアでは、順調に批准手続が進むと解されていたが、近時は、国民投票の実施を求める動きが強まっている。野党が国会の審議過程で提起した要請はすでに否決されているが(なお、極右政治家として知られる
Haider 氏は、自らが首相を務める Kärten
州で住民投票を実施する意向を示している)、それを受け、3月下旬から4月初頭にかけては、国内で大規模なデモが行われいる。抗議運動は、EUに懐疑的な右派政党や左派政党だけではなく、独立した市民団体
「オーストリアを救え」(Rettet
Österreich!)によって組織されているが、後者は、国民に情報を提供することなく批准を決めるのは民主主義に反すると訴えている。また、ブリュッセルの官僚主義やオーストリアの財政負担の大きさに異議を唱えるなど、EU統合への批判も存在する
。この市民組織には大学教授などの著名人も参加しており、ホームページ上でデモへの参加を呼びかけている(参照)。
確かに、政府による説明は不十分であり、EUに精通したごく一部の国民を除けば、リスボン条約に精通している者はいない。情報提供に貢献しているのは、むしろ、批准反対を訴えている政党・団体の方であるが、大半の国民が新条約の詳細を知らないとすれば、国民投票を実施する意義に欠ける(参照)。また、大半の国民は欧州統合に無関心である点も見過ごしてはならない(参照)
。他方、オーストリア政府は、野党は国民の不安を駆り立て、誤った情報(例えば、リスボン条約に基づき、オーストリアには死刑が再導入される)を流していると批判している(参照)。
デモ活動は、4月9日の国会(Nationalrat)審議に向けて勢いを増しており、複数の団体間の衝突回避が課題となっている。3月29日は、ともに批准反対を訴える右派団体と左派団体が首都ウィーンで同時にデモを行い、双方の衝突や混乱を生じさせた(参照)。このような状況は他の加盟国では見られないと思われるが、オーストリアは冷戦崩壊後の1995年1月1日にEUに加盟した、比較的「若い」加盟国の一つである。2002年2月には極右政党の政権参加を理由にEUの制裁を受けた(参照)。また、2004年5月の東方拡大やトルコのEU加盟問題を契機に欧州統合慎重論が強まっており、現在では、最もEU統合に懐疑的な加盟国の一つとなっている。
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