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スロベキア大統領、新旧加盟国間の軋轢について語る

スロバキア 東西ヨーロッパ諸国間の経済活動は、2004年5月の EU東方拡大 以降も発展を続け、2005年11月2日、スロバキアの首都ブラチスラバには、ドイツ商工会議所が設置されている。

 外国からの投資や企業誘致を促進するため、スロバキアは、租税を引き下げ、また、税率を一元化しているが(19%に統一[Flat Tax])(参照)、国内から資本や企業が流出するドイツでは、新加盟国に対する批判が依然として強い(参照)。ドイツ政府は、「租税ダンピング」を行う加盟国には、EUからの補助金(地域政策)を削減すべきであるとしているが、スロバキアの Ivan Gasparovic 大統領は、Die Welt (ドイツの日刊新聞)のインタビューに対し、外国人投資家の興味をそそっているのは、租税措置だけではなく、スロバキア国民の労働力が高いためであると反論している。また、新加盟国の経済がより早く発展すれば、EUに頼る必要もなくなるため、スロバキアの企業誘致策はEUやドイツの利益になると述べている。


 ドイツやオーストリアが新加盟国からの労働者の流入を制限していることについても(参照)、Gasparovic 大統領は「政策的差別」として批判する一方で、スウェーデンやイギリスなど、労働市場を開放している国はかえって利益を得ていると述べている。また、多くの外国企業が参入している現状下では、国内労働者が外国に移住する必要性は少なくなっていることも指摘している。確かに、国内の経済状態が良いイギリスやアイルランドは、労働市場の開放の恩恵を受けているが、国内企業の移転が顕著なドイツは、(企業の移転に基づき生じた)雇用の喪失と、新加盟国からの労働者の移住という二重の危機感に立たされている。また、長引く不況下で、制度改革も停滞している。2005年9月のドイツ国政選挙に際しては、Flat Tax の導入も検討されたが、有権者の支持が得られたとは言えない。その他の制度改革についても、ドイツ国民は躊躇している。この点について、Gasparovic 大統領は、非難されている Flat Tax の導入は一朝一夕に実現したものではないと述べている。従来の加盟国は、批判するだけではなく、(冷戦終結後に東欧諸国が行ってきたように)抜本的な制度改革に取り組むべきであるとの反論も新加盟国の中からは発せられている。



憲法条約に代わる新しい条約が必要

 上述した経済問題の他、EUは、憲法条約 の発効という課題に直面しているが(参照)、Die Welt 紙のインタビューに対し、Gasparovic 大統領は、憲法条約に変わる新しい条約が必要であると述べている。また、同条約には「憲法」という名称を付けるべきではないとしている。これは、EUは「巨大な国家」に発展する必要ないため、「憲法」など不要であるとの考えに基づいているが、現存する憲法条約の発効に懐疑的な見解が相次いでいる(参照 @ABCD)。


 その他、Gasparovic 大統領は、欧州議会の権限を強化する一方で、議員数を削減し(ドイツはスロバキアの約7倍の99議席)、また、会議はストラスブールでのみ行い(その回数も4回で足りるとする)(参照)、経費を削減すべきであると述べている。さらに、国内問題を反映させるため、議員は国内議会の議員を兼ねるべきであるとしている(参照)。





(参照) Die Welt v. 2. November 2005 ("Die Deutschen können durchaus von uns lernen")

憲法条約批准危機

EUの東方拡大

 ・ 東欧のデトロイト、スロバキア 
 ・ ドイツとEU拡大


ラトビア大統領、新旧加盟国間の軋轢について語る

法人税ダンピング − エストニア首相の反論



(2005年11月4日 記)