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星

 
人 の 移 動 の 自 由

EC条約第39条〜第48条)
人の移動の自由
  



     目 次
    はじめに
  (1) 労働者の移動の自由

     ・ EU法上の基本権としての移動・居住の自由

  (2) 開業の自由
  (3) EU域境検査
  (4) ビザ政策
  (5) 庇護・移民政策

EC条約第61条
自由、安全および正義の空間





  は じ め に

 EC条約第14条は、商品、人、サービス、そして、資本の自由な移動が保障された「域内市場の創設を目標に掲げているが、これらの4つの基本的自由のひとつである人の移動の自由は、 @ 労働者の移動の自由(第39条〜42条) と、A 開業の自由 (第43条〜48条)からなる。つまり、この「人」の移動の自由は経済活動と直結しているが(このことは、ECが経済統合を主たる目的とした国際機関であることからも読み取れよう)、社会権としての性質も認められるようになった。そのため、労働者に限らず、その家族も、労働者と共に自由に移動することが保障される(Regulation No. 1612/68, OJ 1968 L 257, 13)。また、労働者には、退職後も引き続き移動した国に滞在する権利が与えられる。さらに、EC裁判所の判例法を通じ、労働者だけではなく、他人の労働を受ける者に対しても、移動の自由が保障されるようになった。

 なお、このような発展が見られるものの、前述した人の移動の自由が経済活動に結びつていることに変わりない。これに対し、EC条約第18条は、経済的要素を問わず、広く移動の自由をEU市民に保障している(詳しくは こちら)。




 2004年5月 および 2007年1月 に新規加盟した国(キプロスとマルタを除く)からの人の移動については、経過措置が設けられており、従来の加盟国は、これを制限することができる。

     詳しくは こちら




 国境検問の廃止も人々の往来の自由に貢献しうるが、これはEC法(EU法)ではなく、1985年制定の シェンゲン協定、また、1990年制定の シェンゲン協定実施協定 という国際条約に基づき、実施されている。なお、イギリスとアイルランドは、同協定に基づく国境検問の廃止に完全に参加していない(リストマーク 特定の加盟国間における緊密な政策協力)。


 EC条約は、域内における人の移動についてだけではなく、域外から人の移動についても定めており、EU域境検査、ビザ、庇護、移民などの諸政策がこれに該当する(EC条約第61条以下参照)。1993年11月のEU発足当初、
これらは第3の柱における案件として扱われていたが(参照)、1999年5月発効の アムステルダム条約 に基づき、これらの諸政策と前述したシェンゲン協定(実施協定)の成果は、第1の柱、すなわち、ECの管轄事項に移されることになった(参照 @A)。


 なお、刑事に関する警察・司法協力 は、第3の柱の管轄事項に留まっていた。これは、これらの案件が国家の主権に密接に関わるためであるが、EU内における人の移動の自由の保障(ないし、自由、安全および正義の空間
の創設)という点で、両者の目標は一致している。言い換えるならば、人の移動の自由に関しては、EC条約内の新しい規定(第3部第4編)だけではなく、EUの第3の柱(第6編)を参照する必要がある 。ただし、リスボン条約によってECないし「3本柱構造」は廃止され、EUに一本化されるため、これらの政策はすべて統合される(詳しくは こちら)。







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