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オランダ国旗

トルコとの加盟交渉問題
EU理事会議長国 オランダの提案

EUの旗


 

 2004年12月1617日、EU理事会は、トルコとのEU加盟交渉 について判断を下す予定であるが、11月29日には、議長国であるオランダから提案が示された。その主な内容は、以下の通りである。


@

キプロス共和国を事実上、国家として承認すること参照

 キプロス共和国の後見役であるギリシャが特に強く要求しているとされる参照

 なお、EU・トルコ間には 関税同盟 が設立されているが、EU拡大に伴い、この関税同盟も拡大されることになっていた。しかし、トルコは、新規加盟10ヶ国の中に、キプロス共和国が含まれていることから、関税同盟の拡大に関する議定書に署名しなかった参照この方針を改め、トルコ政府は、近く、議定書に署名するものと解されている。


 キプロス問題の解決に向けた交渉は、イタリアの仲介の下、2005年上半期に再開することが提案されている。主たる争点は、@ トルコ軍の撤退時期、Aトルコ政府の介入権、また、B従来通り、キプロスに居住しうるトルコ系住民の数の決定にある。なお、この協議は、トルコとのEU加盟交渉が開始されるまでに終了し、最終決定は、キプロス両国で行われる国民投票に委ねるとしている参照

  

A

労働者の移動の自由の長期的または恒常的制限

 これは、トルコ人労働者によって職を奪われかねないとするEU市民の危惧感を考慮したものである。 フランスやオーストリアは長期にわたる例外的取り扱いに賛成する一方で、イギリスや欧州委員会は、EC法に抵触するとして反対している参照

 その他に、EU予算の80%があてがわれている農業政策や地域政策の分野においても、トルコの統合を長期にわたって限定し、EUからの補助金の支出を制限すべきとしている。


B

加盟交渉の中止

 欧州委員会または加盟国の3分の1によって提案され、加盟国の特定多数決によって採択されるならば、トルコとの加盟交渉は 中止されるべきである。その原因としては、人権や民主主義原則の重大な違反が存在することが挙げられている。

 交渉は、必ずしもEU加盟の実現でもって終わる必要はないとするオープン・エンドの選択肢は、すでに欧州委員会によっても提唱されているが参照、トルコもこれを了承している
参照


 なお、オーストリア政府やドイツ野党が提唱している特権的パートシップ 参照については、触れられていない。また、加盟交渉の最終目標や加盟時点についても、意図的に言及していないが、2014年以降のEU予算枠組みが決定されるまでは、加盟交渉を終了してはならないとしている。したがって、トルコの加盟が実現するのは、早くても2015年となる。


 この提案は、各国のEU大使レベルで審議された後 (12月1日から12月第2週の週末まで)外相会議に送られ、最終的には、加盟国の首脳によって決断される予定である。しかし、上掲の条件が採択されるか否かにかかわらず、高い確率で、交渉の開始が決定されるものと考えられている。そのため、争点は、交渉の開始時期にあるが、イギリス、チェコ、ルクセンブルクなどは、2005年四半期にも開始すべきであるとしているのに対し、欧州(EU)憲法条約の国民投票 に悪影響が及ぶのを恐れるフランスは、2006年初頭にまで先送りすることを提唱するなど、見解は大きく分かれているとされる。

   リストマーク ドイツとベルギーの立場
   リストマーク フランスとオーストリアの立場




New オランダ案に対するトルコ外相の見解


 トルコの Gül 外相 は、オランダ政府の条件は非常に多く、若干の重要なものに限定すべきと捉えている。また、キプロス問題については、国連案の受諾を拒否し、両キプロス統一の道を閉ざしたのは、ギリシャ系キプロスの方であると反論するものと見られる参照

 オランダの Bot 外相は、この見解を冷静に受け止めているが、提案は、欧州委員会の提案を踏まえたうえで、全EU加盟国の同意が得られるような内容でなければならないとしている。


(参照) Der Standard v. 30. November 2004 (Türkei enttäuscht von EU-Gipfelentwurf)
 



New トルコ首相の見解


 トルコの Erdogan 首相 は、近時、主張されている @ EU加盟に代わる選択肢(特権的パートナーシップの構築)、A 加盟交渉は加盟の実現で終わるべきではないとすること、また、B キプロス共和国の承認を新たな要件にすることについて、異議を述べた。特に、ゲームの最中にルールを変更することは受け入れがたいとし、コペンハーゲン基準 の維持を訴えた参照


 また、トルコ野党 CHP (社会民主党)の Baykal 党首も、婚約が結婚を保障するものとは限らないが、初めからそれを指摘するのは味気ないと批判した参照


(2004年12月9日 記)



New ドイツ要人の反論


 EU加盟交渉の開始に関する決定を約1週間後に控え、トルコの Erdogan 首相は、自らEUを訪問し、最後の支持を訴えているが参照、ドイツの大衆紙 Bild am Sonntag 紙に対し、「41年間もドアの外で待たされている国は他にない。我々はすべての条件をクリアしたが、EUはトルコの加盟を拒んでおり、我々は差別されている」と述べた。

 この「差別」発言は、ドイツ内で波紋を投じ、多くの政治家より批判されている。与党 SPD の Gernot Erler 氏(外交問題報道官)は、トルコは加盟に向けた長い道のりの5分の1を前進したに過ぎないことを認識すべきであり、また、交渉過程では新たな基準が設けられることを受け入れなければならないと述べた。

 また、SPD と連立政権を組む 緑の党 の Reinhard Bütikofer 代表も、コペンハーゲン基準 は、すべての国に同じように適用されるとして、差別発言を批判した。その一方で、すべての加盟申請国が同じように扱われなければならない必然性はなく、トルコとの交渉は従来の交渉とは異なるとした。

 野党 CSU の Edmund Stoiber 党首も同様にトルコ首相の発言を批判した。また、トルコのEU加盟に反対の立場を改めて強調し、自党や姉妹政党 CDU が政権を握っている州は、フランスと協力し、トルコのEU加盟を阻止する構えがあることを明らかにした。

 

(参照) Die Welt v. 13. Dezember 2004 (Ankaras EU-Kritik verärgert Deutschland)

(2004年12月13日)



 




(参照) Der Standard v. 29. November 2004 (Harte Bedingungen für die Turkei)
Die Presse v. 30. November 2004 (EU-Beitritt: Türkei protestiert gegen neue Hürden)


   
オランダEU理事会議長国のホームページ (英語)



(2004年11月30日 記   12月13日 更新)