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議長国ドイツのロゴ



2007年上半期 EU理事会議長国

ド イ ツ


リストマーク 共通の価値の確立を目指す リストマーク


 2007年1月1日、EU理事会議長国(EU議長国)のポストは、フィンランドよりドイツに継承された。EU(EC)の原加盟国であり、ヨーロッパ経済を牽引するドイツが議長国を務めるのは、1999年上半期以来のことである。当時は、@ ユーロの導入、A サンテール欧州委員会の辞任、B アムステルダム条約 の発効、C 欧州議会選挙、D コソボ紛争などが大きな注目を集めたが、今回は、@ 元旦の ブルガリアとルーマニアのEU加盟 に始まり、A 3月のローマ条約(EEC条約と欧州原子力共同体条約)の締結50周年(参照)、また、B 6月の欧州理事会における憲法条約に関する協議など、27ヶ国体制 に発展したEUの基本理念や原則を確立する重要な期間になると解される。


Gemeinsam seit 1957 第2次世界大戦後の経済復興と平和の確立を目的とし、西欧6ヶ国で発足したECは、1980年代末の冷戦終結後、「東西ヨーロッパの統一」という新しい課題に取り組んできたが、東方拡大 によって目標を部分的に達成した。2007年現在、27ヶ国体制 にまで発展したEUは、新しい時代における共通の価値を模索している。欧州憲法条約はそれを具現化していると捉えることもできようが、オランダとフランスで実施された国民投票で同条約の批准が否決されたことを受け(詳しくは こちら)、現在、発効の目処は全くたっていない(当初は2006年11月の発効が目標に掲げられていた(参照))。ECの原加盟国である両国が批准を見送っているため、同条約は「すでに死亡している」との悲観的な見方もある中、ドイツの Merkel 首相 は、憲法条約の必要性を再三、強調し、希望をつなげてきた(参照)。2007年元旦、つまり、ドイツの理事会議長国就任初日に行われた記念式典(第2次世界大戦後、フランス領となった ザールラント州 のドイツ復帰50周年記念式典)でも、Merkel 首相は、憲法条約の重要性を訴え、その発効に向け尽力することを表明している(参照)。また、フランスの Sarkozy 内相(次期大統領選候補)が提唱する「ミニ憲法条約」案、つまり、機構制度改革 を切り離して発効させることに反対している(参照)。


 2007年上半期、議長国ドイツが新たな提案を行うことはすでに決まっており(参照)、Merkel 首相 の手腕には、かねてから大きな期待や注目が集まっている。その背景には、首相就任約1ヶ月後の欧州理事会(2005年12月)で、EU財政計画をめぐる加盟各国の見解調整に貢献し、華々しいデビューを飾ったこともあろう(詳しくは こちら)。もっとも、憲法条約の発効に関しては、この半年間で大きな成果を挙げることは困難であり(すでに、16ヶ国が批准を決めているとはいえ(参照)、フランスやオランダが批准する見込みはない)、Merkel 首相自身も、過度の期待を牽制している(参照)。また、2009年の欧州議会選挙までに大きな成果が得られるべきとの現実的な見方をしている(参照)。なお、前述したように、「ミニ憲法条約」には反対するとすれば、同条約の発効はさらに困難になるであろう。また、近時のEU拡大トルコとのEU加盟交渉 は、自国民や従来のEU加盟国民にネガティブな影響を与えているが、欧州統合そのものに対するEU市民の支持を高めるといった課題も残っている 。Merkel 首相が力説する共通の価値観を模索するよりも、市民に身近な、透明性の高い欧州統合を推進することがより重要であると解されるが(なお、これも、Merkel 首相の言う価値観に含まれると捉えることもできる)、これは現行条約の下でも十分に可能である。


G8議長国のロゴ ところで、2007年上半期、ドイツは、EU理事会議長国だけではなく、G8議長国をも同時に務めることになるが(参照)、Merkel 首相は、アメリカ合衆国との関係強化を重視している。旧東ドイツ出身であり、保守系の政治家である Merkel 首相は、かねてから米国との関係を重んじており、2005年9月の国政選挙期間中には、イラク戦争に関し、米国との交渉を中断していた当時の革新政権を批判しているが、議長国期間、最初の外遊先として米国を選び、1月5日 には、Bush 大統領と通算3度目の会談を実現している。緊密かつ良好なEU・USA関係の構築も新しい重要課題の一つに当たるが(参照)、イラク問題に象徴されるように、EU加盟27ヶ国の外交方針は統一されておらず、EUとしてまとまった行動をとることは、必ずしも容易ではない。ことに、大連立政権を組むドイツは、外交問題(特に、トルコのEU加盟問題)に関し、与党内で見解が割れることもあり、保守系政党(CDU)に属するMerkel 首相は、社会党(SPD)の Steinmeier 外相と意見調整を円滑に行う必要があろう(参照)。EUの弱点の一つに挙げられてきた共通外交・安全保障政策 の分野においても、加盟国に共通の価値観や具体的な方針をより多く決定し、実行に移すことができるかどうか、また、実施に関しては、異なる価値観を持つ国に対し、EUの見解を貫徹しうるか(特に、ロシアとのエネルギー交渉)、議長国ドイツのイニシアチブが注目される。 

 

(参照) Der Standard v. 1. Januar 2007 (Merkel kündigt neuen Anlauf für EU-Verfassung an)

Die Presse v. 3. Januar 2007 (EU-Präsidentschaft: SPD schielt neidisch auf Merkel)

Die Presse v. 4. Januar 2007 (EU-Verfassung: Merkel gegen "Minimalismus"

Die Presse v. 4. Januar 2007 (EU-Vorsitz: Merkel gegen "Mini-Verfassung")

FAZ v. 2. Januar 2007 (EU und G 8: Angela Merkel auf großen Bühnen)
 


ドイツ理事会議長国の主要課題

議長国ドイツの公式サイト


このページ内に掲載されているローマ条約制定50周年のロゴ(2つ)とG8のロゴは、ドイツ理事会議長国の公式サイト より転載しています。

(2007年1月6日 記)