TOP      News   Profile    Topics    EU Law  Impressum          ゼミのページ


新 し い 欧 米 関 係

リストマーク 2005年2月、Bush 大統領の訪欧の意義は?

 第43代米国大統領は、歴代アメリカ大統領の中で始めて、EUを政治的パートナーとして認め、EUの諸機関を訪問している。これは、経済分野に限らず、外交・安全保障政策の分野においても、EUと協議・交渉を行うとする米国の意思の表れとみることができる。

 イラク戦争の是非をめぐっては、EU加盟国内でも見解が割れ、アメリカは、自らの立場を支持する、イギリス、スペイン、ポルトガル、イタリア、また、2004年5月にEUに加盟した東欧諸国(参照)と行動を共にした。他方、軍事攻撃に真っ向から反対した、フランス、ドイツ、ベルギーとの対話を拒んだ。将来、アメリカは、このような交渉方法を止め、EU全体を一つの交渉相手として捉えるものと解される。

 このような政策転換の背景には、@ 世界中における自由と民主主義の確立という就任2期目の政策目標を達成するには、EUとの協力が不可欠であること、A 米国の超大国路線に対する国際的反発を和らげる必要があること、また、B 東方拡大 を経て、25ヶ国体制に発展しただけではなく、独自の外相や軍隊の編成といった EU外交・安全保障政策 の発展を考慮したためと考えられる。



 2005年3月13日付の Die Welt am Sonntag 紙(ドイツ)のインタビュー記事で、フランスの Michel Barnier 外相は、米国大統領のヨーロッパ訪問について、以下のように語っている。

 アメリカ国民はプラグマティックであり、ヨーロッパは、巨大な経済圏から政治同盟に発展したと捉えているものと解される。もうすぐ、我々は ヨーロッパ憲法外相 を有することになる。それによって、我々の外交政策は、確かに、統一はされないが、共通の政策となる。そして、私は、EUが真の防衛組織を備えることを希望する(なお、フランスが保有する「核兵器の抑止力」をEU防衛機構に導入することは、まだ検討されていない)。堅実で、信頼しうるパートナーを持つことは、アメリカにとっても利益になるであろう。

 NATOは、今後も北大西洋諸国間の防衛・軍事機構の要であり続けることに変わりはないが、第2次世界大戦後に設けられたこの制度の見直しについて検討することも必要である(この点で、ドイツ首相の提案は正しい)。EUの発展を考慮すると、EUと米国が直接、かつ、対等に協議する制度が必要になろう。

(参照) Die Welt am Sonntag v. 13. März 2005 ("Europa braucht eine starke deutsch-französische Stimme")


 Bush 大統領の訪欧には、イラク戦争の際に生じた「溝」の修復という意義も込められているが、その一方で、大統領が従来の路線を完全に崩していないことは、訪問日程からも伺える。特に、@ アメリカの大国主義に反対するフランス大統領との面会は、ブリュッセルのアメリカ大使館で行われた夕食に限定されたこと(参照)、A ドイツ訪問の際には米軍基地を訪れ、イラクに派遣されていた自国兵の労をねぎらったこと(なお、ドイツ首相は同伴することを申し出たが、イラク戦争に反対していたため、断られている)(参照)、また、B イラクにも軍隊を派遣し、アメリカの外交・安全保障政策を無条件に支持したスロバキアを訪問し、市民を前に演説を行っていること(参照)などが挙げられる。



リストマーク EU側の対応は?

 米国が個々のEU加盟国とではなく、EUと交渉を行うことを可能にするためには、まず、EU加盟国が自らの見解を統一し、全権大使を立てる必要がある。すでに制定された欧州憲法条約(なお、まだ発効していない)は、EU外相というポストを新設し、国際舞台におけるEU加盟国の統一的行動を可能にしている(参照)。もっとも、EU加盟国が外交・安全保障政策を調整し、一丸となって行動しうるかどうかは定かではない。特に、アメリカの大国主義に反対する「古いヨーロッパ」(フランス、ドイツ)と、緊密な協力関係を支持する「新しいヨーロッパ」(中東欧諸国)の見解が調整されるかどうか、今後の発展を見守る必要がある。


リストマーク 米国の外交・安全保障政策に対するEU加盟国の反応は?
 
 イラク戦争を契機に、アメリカの超大国路線に異議を唱えるEU加盟国や市民の数は、むしろ増えていると解される。つまり、かつては一部のフランス人のみによって支持されていたゴーリズム(ドゴール主義)は、ヨーロッパ中に広まっていると考えられる。2004年夏のアンケート調査では、60%のEU市民が、アメリカとは異なる独自の外交・安全保障政策を必要とみている(参照)。また、米国の外交・安全保障政策を支持し、イラク戦争にも加担した中東欧諸国も、アメリカは超大国に課された試験に落第したと捉える見解もある(参照)。

      イラク戦争に対するEU市民の見解





(参照) Die Welt v. 24. Februar 2005 (Ivo Daalder/Charles Kupchan, Die letzte Chance)

Die Welt v. 24. Februar 2005 (Annährung oder Differenz?)

ブッシュ大統領のヨーロッパ訪問


(2005年3月1日 記)