オーストリアの喫煙率はEU平均を大きく上回っており、最も喫煙率の高い国の一つに挙げられるほどですが、地域別にみると、都市部で禁煙率が高くなっています。
喫煙率が高い要因としては、政策の遅れが挙げられます。つまり、近年は、隣接するドイツ・バイエルン州の影響を受けながら、禁煙運動が活発になっていますが(とはいえ、そのドイツも決して禁煙率が高いわけではありません)、国内政治にかき乱されているといった印象が否めません。
◎ 全面禁煙化をめぐる政治の混乱
オーストリアでも、煙草の煙から労働者を守ることを目的とした法が制定され、1985年より施行されています。
また、2009年1月以降は、学校・教育施設、公共施設や飲食店における喫煙が禁止されるようになりました。ただし、小規模な飲食店には例外が認められていました。また、本来は喫煙が禁止される施設や大規模な飲食店でも、禁煙が徹底されているわけではありませんでした。EU加盟国の中で最も禁煙率が高い理由としては、政策の遅れや実施の不徹底さ(いい加減さ!)が挙げられます。
このような状況を改善するため、2015年7月には法律が改正され、全ての飲食店(屋外でのパーティーを含む)で喫煙が禁止されることになりました。ただし、この法改正は直ちにではなく、約3年後の2018年5月から実施されることになっていました。しかし、2017年12月に新政権が発足すると、風向きが大きく変わり、元の状況に戻ることになりました。つまり、新たに政権に参加することになったオーストリア自由党(FPÖ)が全面禁煙の実施に強く反対したため、2018年3月、つまり、全面禁煙導入の2ヶ月前、議会はその中止を決定しました。
ところが、その約14ヶ月後、状況はまた変わることになりました。詳細には、2019年5月、自由党党首で、副首相を務めていたシュトラッヘ(Strache)がスキャンダルを理由に辞任すると、同党とオーストリア国民党(ÖVP)の連立も暗礁に乗り上げ、オーストリアでは総選挙が前倒しで実施されることになりましたが、自由党の勢力が弱まったことを受け、与党国民党は、禁煙法を復活させ、2019年11月より実施することにしました。
なお、2019年11月からの全面禁煙に対してはオーストリア連邦憲法裁判所に訴えが提起されましたが、同年10月16日、同裁判所は、禁煙法は市民の喫煙を過度に禁止するものではないため、違憲ではないとする判断を下しました。その結果、オーストリアでは、ハロウィーンの週末よりレストランやバーでの喫煙が禁止されることになりました。
ところで、古くから国民の間でカトリックが信仰されているオーストリアでは、煙草の煙のみが問題視されているわけでありません。詳細には、教会で焚かれる煙も規制の対象となり、現在では、青少年も参列する教会の儀式では煙を焚いてはいけないことになっています。