(1) 商品(製品)としての煙草の規制
「EU加盟国間の貿易に関税をかけたり、数量制限を行ってはならない」。これはEUの制度上、最も重要な原則の一つで、これを実現するためにEUは発足したといっても過言ではありません。前述した通貨の共通化(ユーロの導入)も、為替レートが大きく変動すれば、商品の流通が妨げられるため、実施されることになりました。
商品流通の自由化という重要課題は早い段階で達成されており、EUは巨大な域内市場に発展しています。しかし、品質が悪い物品は売れず、他の加盟国に搬入されることはありません。つまり、EUが厚く保障する「商品の移動の自由」は絵に描いた餅になってしまいます。そのため、EUは商品(製品)の品質・安全性について、また、商品のパッケージについて様々な規則を制定し、品質・安全性を高めています。その一環として、煙草についても種々の定めを設けていますが、これには喫煙を抑止する意義も盛り込まれており、EUの規制は世界各国のモデルになってきました。以下ではその主要な例について説明します。
- 煙草に香料を付けて販売してはならない(参照)。これは香料は製品の魅力を高め、消費を促す効果があるためです。なお、これはやり過ぎという批判が上がり、EU裁判所に訴えが提起されましたが、2019年夏、同裁判所は香料の禁止は過剰な規制には当たらないと判断し、訴えを棄却しました。
- 煙草製品のパッケージには、文章と画像の両方を用いて、喫煙が健康を害する(喫煙は死をもたらす)ことを警告しなければならない。なお、これらはパッケージの表と裏の両面で、それぞれ65%を占めていなければいけません(参照)。側面には「喫煙は死につながる」といった警告文が記載されています。
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- 小さいパッケージを用い、少量販売をしてはならない。
- 購入を促したり、(喫煙が健康に良いといった)誤解を与えるようなパッケージを使用してはならない。
なお、個々の加盟国は煙草製品のインターネット販売を禁止してもよいとされています。
上掲の規制は伝統的な煙草製品を対象にしていますが、後に電子煙草が販売されるようになったため、2014年、この製品に関し同様の規制が設けられました(参照)。
(2) 煙草広告の規制
広告は商品の売れ行きを大きく左右するだけではなく、EU内の流通・販売に大きな影響を与えますが、消費者を欺罔する広告を取り締まる必要があることは言うまでもありません。前述したように、EUは域内における商品の移動の自由化を主たる目的にして設立されたため、EU内の流通・販売に関し、また、消費者保護に関し、EUには(比較的強力な)権限が与えられており、この国際機関は様々な規則を制定してきました。煙草の広告についても種々の規制を設けています。
EUによる煙草広告規制の主な例は以下の通りです。
- テレビ、ラジオ、雑誌等で煙草製品を宣伝してはならない。
- F1やその他のスポーツイベントで、施設・用具やユニフォーム等に煙草製品やブランドの名称を付けてはならない。
煙草製品の広告規制には喫煙を抑制し、禁煙を消費者、特に若年者層に呼びかける意義が込められています(詳しくはこちら)。
なお、EUが規制できるのは複数の加盟国に関わる案件に限られており、路上や映画館における煙草広告まで禁止できるわけではありません。詳しくは、街中の立て看板や映画館における広告はそれが設置された場所でのみ、つまり、一国内でのみ効果を発揮し、他の加盟国では機能しません。したがって、本来、EUは路上や映画館での煙草広告を規制することはできませんが、それを禁じる法律を制定しました。ドイツでは街中や道路に大きなポスターを貼り、宣伝することが広く行われており(ビルの壁に巨大な広告が描かれることも希ではありません)、ドイツ政府がEU裁判所に訴えたところ、同裁判所は他の加盟国に及ばない広告を規制する権限はEUに与えられていないとし、路上や映画館での広告規制は許されないという判決を下しました。
前述したF1やスポーツイベントは、一般に単一の国で行われ、複数の国にまたがって実施されることはありません。しかし、他の加盟国にTV中継されるため、施設・用具やユニフォームに付けた宣伝は国境を越えて効果を発します。新聞・雑誌も他の加盟国へ持ち込むことができるため、紙面広告は複数の加盟国に関わり、EUはそれを規制することが可能です。なお、新聞・雑誌は前述した「商品」(モノ)の一形態としてEU内で自由に取り扱うことができます。EUは「サービス」の移動も自由化しているため、ある加盟国のテレビ番組は他の加盟国でも自由に放送することが認められており、これを妨げることは許されていません。
(3) 煙草税の引き上げ
前述したように、EU内では商品の移動の自由が保障されていますが、加盟国間で消費税(厳密には付加価値税)の率が異なっているとすれば、商品の自由な流通が阻害されかねません。特に、消費税率の低い加盟国から高い加盟国へは輸出されにくくなります。これは消費税率が高いと、消費者が支払う金額が多くなるため製品が売れず、輸出が減るためです。自国内での販売を活性化させるため、税率を下げる(または完全になくす)ことも少なくありませんが、これはEU内での競争を歪めることにつながります。それを防ぐため、EUには加盟国の消費税率を調整する権限が与えられており、これを行使し、EUは煙草製品にかかる税金の最低税率を設定してきました。これが喫煙を抑止し、禁煙を奨励する作用を持っていることは言うまでもありません(詳しくはこちら)。
前述した通り、EUは煙草製品にかかる消費税について定めており(Directive 2011/64/EU of Council)、それによれば、2014年元旦以降、紙巻き煙草の消費税は、1本につき少なくとも9セント、かつ、小売価格の過重平均の少なくとも60%でなければなりません(参照①、②)。なお、正確な税額ないし税率は個々の加盟国によって決定されますが、前掲の1本あたり少なくとも9セント、小売価格の少なくとも60%という点で個々の加盟国の煙草税が調整されることになります。
なお、EUは煙草にかかる消費税(厳密には付加価値税)の率を「調整」しているだけで、「統一」しているわけでありません。つまり、税率は全加盟国で統一されておらず、EUが定める要件に従い、個々の加盟国が決定します。
(4) EU理事会の勧告 ~ 喫煙ゼロ環境の構築
ところで、上掲の3つの措置はEUの立法機関が制定したEU法に基づき実施されていますが、その他にEUの立法機関は、2009年11月、勧告を採択し、喫煙ゼロ環境の構築を加盟国政府に呼びかけるに至りました。この勧告は法的拘束力を持ちませんが、EU内の市民の84%が職場やその他の室内における禁煙を望んでいること、また、79%はレストランでの禁煙を、さらに、61%はバーやパブの禁煙化を望んでいるといった調査結果を受け、採択されています(参照)。
なお、法的拘束力の無い勧告という形態が用いられたのは、前述したように、EUには抜本的な禁煙政策を実施する権限が与えられていないためです。
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