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E U 国 際 私 法 の 概 要 Pic


目 次


 はじめに
  
  I. アムステルダム条約発効前のEU抵触法
 
 II. アムステルダム条約発効後のEU抵触法

   1.EUの権限

   2. 立法手続

   3. イギリス、アイルランドおよびデンマークに関する特例

   4. EU第2次法
         (1) Rome I 規則
         (2) Rome II 規則
         (3) Rome III 規則

 III. ECJの判例法(基本的自由について)
  
 おわりに




4. EU第2次法(Rome I〜III規則等)


 4.1. 総論
 4.2. 各論
 (1) Rome I 規則
 (2) Rome II 規則
 (3) Rome III 規則



(3) Rome III規則

 2010年12月20日、EU理事会は「離婚および法的別居の準拠法の分野において緊密な政策協力を実施するための規則」(Rome III規則) を採択した。Rome I規則やRome II規則とは異なり、理事会が単独の立法者となっているが、これはRome III規則が家族法の分野の法令であるためである(参照)。

 同規則は、その他にも、立法手続や実施面で特殊であるが、個々の規定の概要を説明する前に、これらの点について解説する。

 渉外離婚ないし別居の準拠法を整備する必要性はかねてより指摘されているが、加盟国の実体法および抵触法には大きな違いがみられ、自国の伝統維持に関する各国の要請も強かったため、作業は進展しなかった。しかし、1998年12月に採択された「ウィーン行動計画」には、離婚に関する抵触法の制定が政策課題として盛り込まれ、また、2004年11月に採択された「ハーグ・プログラム」では、欧州委員会によるグリーン・ペーパーの作成が明記されるようになった。委員会は2005年3月にグリーン・ペーパー を、また、2006年7月には規則案 を公表し、EU理事会による審議も開始されたが、法案の採択に必要な全会一致が得られないことが明らかになった(その背景については こちら)。そのため、理事会は、一部の加盟国間でのみ規則を制定することを決定したが、ある政策を特定の加盟国間でのみ実施することを 緊密な政策協力 と呼ぶ(EU条約第20条およびEUの機能に関する条約第326条〜第334条参照) 。2010年7月、理事会は要請のあった加盟国に対し、緊密な政策協力の実施を許可し、2010年12月、規則(Rome III)が制定された。同規則は12月30日に発効し、2012年6月21日以降に開始される裁判手続に適用される(第18条)。当初の参加国は、イタリア、オーストリア、スペイン、スロベニア、ドイツ、ハンガリー、フランス、ブルガリア、ベルギー、ポルトガル、マルタ、ラトビア、ルクセンブルク、ルーマニアの14ヶ国であるが、その他のEU加盟国にも常時、門戸が開かれている(EUの機能に関する条約第328条第1項)。

 Rome III規則は渉外離婚および法的別居の準拠法についてのみ定めており、手続については別の規則(Brussels IIa規則)が設けられている (この点で前述した扶養義務に関する規則と異なる)。また、婚姻以外の制度(例えば、同性間のパートナーシップ)は対象にしていない 。なお、婚姻であれ、その有効性については適用されない(規則第1条第2項)。

@ 当事者間による準拠法の選択

 規則は当事者(夫婦)による準拠法の選択を認めているが、それは以下の法でなければならない(第5条第1項)。

準拠法を選択した当時の夫婦の共通常居所地国法
夫婦の最後の共通常居地国であり、かつ、準拠法選択時、夫婦の一方がその国に常居所を置いている場合には、その国の法
準拠法選択時の夫または妻の本国法
法廷地法


 準拠法の選択および変更はいつでも行うことができるが、遅くとも、訴えが提起されるまでになされなければならない(第5条第2項)。ただし、受訴裁判所国の法(法廷地法)が手続中の準拠法選択を認めるときは、この限りではない(第3項)。

 なお、準拠法選択にかかる合意の存在や有効性、また、合意内の個々の規定の存在や有効性は、合意または規定が有効であれば準拠法とされるべき法による(第6条第1項)。ただし、この法に照らし判断することが不適切と解される事情があるとき、一方の配偶者は、提訴時における自らの常居所地国法に照らし合意の成立を争うことができる(第2項)。

 準拠法選択の合意は書面でなされなければならない。また、日付の明記と双方の署名を必要とする(第7条第1項)。さらに、合意時における夫婦の共通常居所地国法が定めるその他の要件も満たしていなければならない(第2項)。合意時、夫婦が異なる加盟国(この規則が適用される加盟国)内に常居所を有し、それらの法の定める要件が異なっているときは、どちらか一方の要件を満たしていればよい(第3項)。

 夫婦が準拠法を選択していない場合は、提訴時における夫婦の共通常居所地国法による(第8条第a号)。このような法が無いときは、最後の共通常居所地国法による。ただし、提訴時までに1年が経過しておらず、提訴時、夫婦の一方がその国に常居所を持つ場合に限る(第b号)。このような法が無いときは、提訴時における夫婦の共通本国法による(第c号)。このような法もないときは法廷地法による(第d号)。

A マルタ条項(第10条・第13条)および公序(第12条)

 第5条または第8条に従い指定された準拠法が離婚について規定していないときは 、法廷地法による(第10条)。例えば、マルタの国内法は離婚を容認していないが、同国の法が準拠法に指定されるとき、他のRome III 規則参加国の裁判所は法廷地法に照らし、離婚を認めることができる。なお、適用が排除されるのはRome III規則参加国の法に限定されず、第3国の法であってもよい(第4条参照)。

 他方、第13条は、国内法が離婚について定めていないとき、その国の裁判所は離婚判決を下すことが義務付けられるわけではないことを明記している。そのため、マルタの裁判所は、外国法に従い、離婚判決を下さなければならないわけではない。なお、第12条は、準拠法の適用が法廷地国の公序に明らかに反するときは、その適用の排除を認める 。




参考文献については、『平成国際大学社会・情報科学研究所論集』第11号に掲載されている拙稿を参照して下さい。