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E U 国 際 私 法 の 概 要 Pic


目 次


 はじめに
  
  I. アムステルダム条約発効前のEU抵触法
 
 II. アムステルダム条約発効後のEU抵触法

   1.EUの権限

   2. 立法手続

   3. イギリス、アイルランドおよびデンマークに関する特例

   4. EU第2次法
         (1) Rome I 規則
         (2) Rome II 規則
         (3) Rome III 規則

 III. ECJの判例法(基本的自由について)
  
 おわりに




4. EU第2次法(Rome I〜III規則等)


 4.1. 総論
 4.2. 各論
 (1) Rome I 規則
 (2) Rome II 規則
 (3) Rome III 規則



4. 1. 総論

 アムステルダム条約の発効後、EUは「民事に関する司法協力」に関する自らの権限を積極的に行使し、多数の法令を制定しているが、当初、その多くは民事手続を対象にしていた。ただし、2000年5月に採択された破産手続に関する規則(Council Regulation No 1346/2000) には多くの抵触規定が盛り込まれている(第4条〜第15条) 。

 民事手続法の整備が進むと、政策の重点は抵触法の制定に移されるようになり、2007年11月には「契約外債務の準拠法に関する規則」(Rome II 規則 )、また、2008年6月には「契約債務の準拠法に関する規則」(Rome I 規則 )が制定された。広義のEU・EC法である1980年の ローマ条約 を除き、従来のEU抵触規定は個々の指令の中に付随的に盛り込まれていたのに対し、Rome I規則とRome II規則は債権の準拠法について包括的に定めている。ただし、例えば、人格権の侵害等に基づく債務関係など、まだ立法作業が完了していない法律関係もある。なお、両規則はデンマークには適用されない。


 債権の準拠法について、Rome I規則とRome IIという2つの規則が制定され、また、Rome II規則の方が先に採択されているのは以下の事情に基づくと解される。

 契約債務の準拠法は、すでに1980年締結のローマ条約において包括的に定められていたが、契約外債務の準拠法についても条約(Rome II)を制定する必要性が強く認識されるようになった。その後、アムステルダム条約の発効に伴い、EUには抵触法を制定する権限が明確に与えられるようになったため、EU制度の枠外で締結される条約としてではなく、EU独自の規則として制定する作業が進められた。後に、1980年のローマ条約も、同じく規則として制定し直す必要性が認識されるようになるが、内容面の再検討も同時に行われた。



 これに対し、家族法の分野におけるEU抵触法の整備は遅れているが、これは、同分野の国内法が大きく異なっているだけではなく、制度上の特殊性や加盟国の伝統・強行法規に鑑み、各国の譲歩が容易ではないこと 、さらに、立法手続要件が厳格であるためである(前述2. 3参照)。ただし、扶養義務の準拠法に関しては、2008年12月に採択された規則(Council Regulation No 4/2009) に次の1ヶ条が設けられた。


Article 15 Determination of the applicable law

The law applicable to maintenance obligations shall be determined in accordance with the Hague Protocol of 23 November 2007 on the law applicable to maintenance obligations (hereinafter referred to as the 2007 Hague Protocol) in the Member States bound by that instrument.


 このようにEUは独自の抵触規定を設けることなく、2007年のハーグ議定書に完全に依拠しているが、同議定書はEU(当時のEC)が加盟国を代表して締結し 、後に批准している 。ただし、2011年6月1日現在、まだ発効していないため 、EU扶養義務規則の適用も開始されていない。つまり、同規則第76条第3項によれば、一部の規定を除き、規則は2011年6月18日より施行されることになっていたが、これは2007年のハーグ議定書の発効が条件であり、その発効をまって適用される。なお、デンマークは、同規則の制定に参加していないが、後に、第3章と第4章を除き、同国に対しても適用される運びとなった 。もっとも、準拠法について定める第15条は第3章に属するため、同規定はデンマークに対しては適用されない。イギリスも立法手続には参加していなかったが、制定後、規則を受け入れている 。ただし、同国は(ECによる)2007年のハーグ議定書の締結に参加していないため、第15条の効力は及ばない。なお、アイルランドは規則の制定・締結に加わっている。

 また、2010年12月には、「渉外離婚および法的別居の準拠法に関する規則」(Rome III規則 )が制定されたが、同様に、全ての加盟国で適用されるわけではない。なお、このEU第2次法は準拠法についてのみ定めており、手続については別の規則(Brussels IIa規則 )が設けられているが、この点で前述した扶養義務に関する規則と異なっている。

 夫婦財産や登録パートナーシップの財産の準拠法に関する規則はまだ制定されていないが、欧州委員会は、2011年3月、それぞれ法案を提出している 。

 また、相続の準拠法についても、欧州委員会は2009年10月に法案を提出しているが(委員会案第16条〜第28条) 、まだ採択されていない。 

 




参考文献については、『平成国際大学社会・情報科学研究所論集』第11号に掲載されている拙稿を参照して下さい。